【インタビュー】PC-TalkerとJAWSの二刀流:音声でExcelを使い営業事務をこなす

視覚障害者が実際にどのように仕事をしているかを、インタビューでご紹介するシリーズの第2回目です。

大きな机にPCを真ん中に置いて2人が話している写真

一般企業の営業部門に勤務されているTMさんに、スクリーンリーダーでExcelを使いながら営業事務をこなし、実績を上げているその工夫とご苦労についてお話を伺いました。

TMさんプロフィール :
スポーツクラブ運営会社勤務。営業部門で営業事務を担当。子供のころから弱視で、現在の視力は、かすかに光が分かる程度(光覚)。

スクリーンリーダーでExcelを使い予算管理などの営業事務をこなす

― お忙しい所、インタビューに応じていただき、ありがとうございます。平日夜のZoomでのインタビューということで、お仕事でお疲れのところかと思います。今日は出勤されていたのでしょうか?

TM:
はい。私の職場も新型コロナ禍で、在宅勤務が認められているのですが、私は基本的には出勤していまして、在宅勤務は週に1回程です。というのも、在宅では、自宅から会社の環境にリモート接続するためにワンタイムパスワードの入力が必要なのですが、これが音声対応されていない。ですので、在宅勤務でできる仕事が限られるので、他の人よりどうしても出勤が多くなります。

― TMさんは、会社ではどのようなお仕事をされているのですか?

TM:
私は、スポーツクラブ運営会社の法人営業部に所属しておりまして、大阪のオフィスで営業事務を担当しています。私の会社では、取引先に会費を請求し、毎月売上計上しますので、Excelを使って、その売上計上データの作成をしたり、年間の会費の売り上げ見込みの作成をしたりしています。それから、営業部の経費の管理ですね、例えば、営業活動旅費やチラシ作成などの広告宣伝費、通信費、消耗品など、部署で発生する諸経費の予算や、進捗管理、具体的には、前年の実績や予算と比較して、今年の月ごと、項目ごとに、分類して管理をする、というのが、私の主な仕事になります。

― なるほど、そうすると、Excelを使ってデータ集計するような仕事が多いのですね。Excelはスクリーンリーダーで操作されているのですか?

TM:
はい。使っているExcelのシートは、もともとあったフォーマットを自分なりに少し加工して使っていますが、私は、それほど複雑な計算式を使っているわけではなくて、一般的なExcelの計算式です。スクリーンリーダーは、PC-Talkerを使っていまして、私は今は、パソコンの画面がほとんど見えていないので、音声だけでショートカットキーを使って操作しています。

― そういう経理関係のお仕事の場合、Excelで計算したりすることは、もちろん多いと思いますが、会社独自のシステムを使うこともあるのではないですか?

TM:
はい、売上計上や取引会社への支払いなどの伝票の処理は、全て会社のシステムで行う必要があります。でも、そうした会社のシステムは、スクリーンリーダーでは使えないのです。しかし、データをまとめるためには、そのシステムから、月次で締めた1ヶ月分の結果を抽出する必要があり、この抽出も、会社のシステムで行うので、スクリーンリーダーではできない。ですので、この部分は、部署の人にExcelに置き換えてもらい、そのデータから必要な項目を抽出して業務を行っています。

― 職場の方と、うまく分担しながら仕事を進めているのですね。音声だけでExcel上の数字を集計し、分析したり整理したりするのは難しくありませんか?

TM:
やってみると、音声だけでも結構やれるものです。なぜ、見えなくても、こういう方法で仕事ができているかというと、入社した時は、私は弱視で、拡大読書器と拡大ソフトで仕事をしていたんです。そのころは、まだ社内の業務が、あまり電子化されていなくて、紙ベースで伝票の処理をしていたのですが、どの勘定科目で処理するかも、社内の会計処理マニュアルを見て、自分自身で決めていました。その時も、最後にシステムに入力するのは、他の人がやっていたのですけれど、今の業務は、以前に自分が行っていた業務の結果を、Excel上の数字として見ていることになるので、スムーズにできているのだと思います。

― TMさんの場合は、弱視の時代にやっていた仕事や、その時の人間関係が、今の仕事にずいぶん活きているということですね。

TM:
本当にそうです。見えていた時に行った仕事もそうですし、人間関係も含めてその通りだと思います。

本社の部長に直接説明してスクリーンリーダーの導入を認めてもらう

― 弱視で仕事をされていたご経験があるとのことですが、見えにくくなる中で、苦労されたことやスクリーンリーダーを導入したころの経緯などを教えていただけますか?

TM:
私が弱視で入社したころの視力は、左片眼が0.02で、拡大読書器と拡大ソフトを使って仕事をしていました。会社に入ってしばらくは、それで仕事ができていたのですけれど、入社して8、9年経ったころから、だんだん見えにくくなってきて、仕事をやってもやっても追いつかなくなってきました。営業部の中で、大阪勤務の事務スタッフは私だけで、他の人は営業に出ることから、営業管理は、私一人に任されていました。入社4~5年目からは、上司からも仕事を任されるようになっていたので、ある意味仕事は、とてもやりやすかったのですが、一方で仕事は増えてきていて、そんな時期に見えにくくなってきたことから、仕事が終わらなくなってきました。2~3年そうした時期が続いていて、これはまずいなと思い、会社やお客さんにも迷惑はかけられないなと思い、正直に上司に相談しました。上司は、一部の仕事を他の人に分担させるなど、業務分担の見直しはしてくれたのですが、それでも大きく状況は変わらず、残業も多い日々が続きました。

― ちょうど職場で信頼を得て仕事を任される時期に、視力が落ちてきたのですね。

TM:
ちょうどそのころ、会社の組織変更があり、上司が退職するとの話を聞いたことから、このタイミングで話をしておかなければならないと、再度相談したところ、「自分はいずれいなくなるので、直接東京にいる本社の部長に話してくれ」と言われました。部長に直接電話して事情を説明したところ、部長との面談があり、状況のヒヤリングを受けた後、業務の見直しが始まりました。業務見直しを行う中で、継続してできそうな仕事を洗い出した結果、部長から大阪だけでなく部全体の予算管理をやってもらえないかと打診がありました。その時点では、さすがに画面拡大だけでは仕事ができなくなっていたので、スクリーンリーダーというソフトウェアを使うと音声で作業ができると説明し、これがあれば予算管理の仕事は、なんとかできると思うと話しました。その時点では、どこまでスクリーンリーダーで仕事ができるかは分かっていなかったのですけれど、部長から「それがあったら仕事ができるのか?」と尋ねられたので、迷うことなく「スクリーンリーダーがあればやります」と答えました。そこからPC-Talkerを購入してもらい、今の仕事を担当することになりました。

― 部長さんと直接話ができたことで、スクリーンリーダーの導入がスムーズに進み始めたのですね。

TM:
はい。私が部長と直接話をして理解が得られたのは、それまで業務として私が請求や支払処理、契約書処理を担当していて、大阪の売り上げや原価も見ていたので、大阪の上司や東京の管理職とも話がしやすかったのが大きかったですね。また、東京に出張して管理職が出席する会議にも出ていたので、東京の管理職の人にも、大阪に私がいることを知ってもらっていましたし。そのようなわけで、東京にいる部長にも理解してもらいやすかったのだと思います。

― それまでのTMさんの仕事ぶりや実績が、部長にも評価され、信頼されていたのでしょうね。

これまで画面拡大で行っていた操作を音声に置き換えながらPC-Talkerを学ぶ

― ところで、PC-Talkerの操作はどのように学ばれたのですか?

TM:
友人で、スクリーンリーダーを使っている人を知っていましたので、PC-Talkerというスクリーンリーダーがあるということは知ってはいたのですが、それまでは、まさか自分がPC-Talkerを使って仕事をすることになるとは思っていませんでしたし、音声だけで、どこまで仕事ができるか、まして、Excelが使えるとは当時は思っていませんでした。日本ライトハウス情報文化センターに、PC-Talkerの操作を2時間、有償で教えてくれるという講習があったので、私は、休職はせずにそれを利用しました。その講習で、それまで自分が拡大でやっていた操作を、キーボードと音声のみで、どのようにやればいいのか、例えば、行の挿入、削除、並べ替え、シートの名前を変える、シートの挿入、削除、名前を付けて保存など、今までマウスを使って操作していたことを、一つ一つ教えてもらいました。
日々の業務で使い始めると、音声とキーボードでの操作は、なかなか便利だなあと思い始め、でも、最初の頃は、まだ少しは見えていたので、拡大して、目も使いながら、音声も併用して、しばらく使っていました。
どのくらい併用していたかは忘れましたが、おそらく1年ぐらいはそうだったと思いますが、使っているうちにPC-Talkerで使っている比率が、どんどん上がっていきました。目を使っていると数字の読み間違いやミスも発生しますが、音声では、そういうこともないので、これは使えるなと思い始め、自然に拡大からPC-Talkerでの操作に移行していました。
私の場合、仕事では、Excel上の数字を見ていることが多かったので、PC-Talkerでの操作に移行しやすかったのかも知れません。

― 弱視で画面拡大で操作されていたころは、画面拡大ソフトは、何を使われていたのでしょうか?

TM:
私はZoomTextを使っていました。だんだん見えにくくなっていく中で、マウスポインタの色を変えてみたり、拡大率も2倍、3倍、4倍と倍率を上げたりと、PC-Talker導入前は、悪戦苦闘していました。当初は、ZoomTextとPC-Talkerを併用しながら、こういう操作のときは、こういう音声が流れるんだと確認できて、それで自然に操作方法を覚えていったという感じです。

― TMさんは、今は音声だけで操作されているということですが、操作するとき、頭の中にはパソコンの画面のイメージを思い浮かべているのでしょうか?

TM:
Excelにしても、社内システムにしても、私の場合は、見えていた時の記憶が残っているので、音声で操作しているときも、それが頼りになっていますね。画面拡大と併用していた時期があるので、比較的スムーズに移行できていったということもあるかもしれません。分からないことがあるときは、電話でも教えてもらえましたので、これはとても助かりました。PC-Talkerを使ってみて、音声だけでも問題なく仕事ができるんだなというのは、私にとっては大きな気付きでしたね。

社内システムに対応するためにJAWSの導入を進める

― 今、スクリーンリーダーでお仕事をされていて、困っていることや、苦労されていることはありますか?

TM:
そうですね。いろいろな業務が、今は社内システムで行われるようになっていて、社内の業務連絡や業務報告も社内システムでやり取りするのですが、これらのシステムは、PC-Talkerでは使えないものも多いです。私は、当初はPC-Talkerだけでやっていたのですが、PC-Talkerだけでは対応できなくなってきたので、数年前にJAWSも入れてもらいました。もちろん、JAWSを入れたことで、できることも増えたのですが、JAWSを入れたからといって、社内システムすべてが音声で使えるようになるわけでもありません。例えば、先程の社内の経理システムのように、JAWSでも対応しきれないものもあります。一方で、こうした社内システムを使うことが、今は業務の前提となっているので、事務職として、仕事の幅を広げたり、ステップアップしていくには、ExcelやWordができるから事務職ができます、という時代ではなくなってきていると思います。もちろん、それで一定の業務はできるのでしょうけれど。そういう意味では、今後は、スクリーンリーダーで、さまざまな社内システムにも対応していかないと、事務職として、キャリア形成してステップアップしていくのは、難しいのかなと、最近は業務を通してそう感じています。

― JAWSも併用されているということですが、JAWSはどのように学ばれたのでしょうか。

TM:
もちろん、JAWSを使っている人が、近くにいたわけではなかったですし、業務システムへの対応なので、会社に来ていただく必要があり、支援機関の方にお願いして、会社に来ていただいて教えていただきました。

― 職場に来ていただいて、社内システムの使用方法の訓練を受けたのですね。外部の人に社内に入っていただき教えていただくことは、どのように会社に認めてもらったのですか?

TM:
社内システムが使えるかどうかは、業務に直接関係しますので、会社も認めてくれました。そのときは、今までPC-Talkerでなんとかできていたものが、社内システムのセキュリティが強化され、できなくなったという状況がありました。コピーガードがかかって、PC-Talkerでテキストが認識できなくなりました。それも突然通達が来て、情報漏えいのリスク対策のため、来週からそうなるということになりまして、上司には相談したのですけれど、逆に何か方法はないのかと尋ねられて、JAWSでできるかどうかは分からなかったのですけれど、「JAWSという別のソフトウェアがあって、それならできるかもしれませんが、製品と有償の訓練を受けることを考えると合わせて20万円ぐらいかかります」と言う説明をしました。
実は、私は20万円かかると言えば、なんとかセキュリティ対策の方を見直してもらえるかと思っていたのですけれど、逆にJAWSの購入と有償の講習を受けることをセットで承認してもらえることになりました。そういういきさつがあって、会社に来ていただき、講習を受けられました。

― 確かにセキュリティ対策で、テキストにガードがかかり、スクリーンリーダーで読めないということは、他の会社でもありそうですね。

TM:
それで、今までPC-Talkerでできていたことを、JAWSを使ってどうすれば対応できるかを会社に来ていただき、教えていただけました。緊急で、PC-Talkerでできなくなったことの対応方法を短時間で教えていただいただけなので、まだまだJAWSで、それ以外の社内システムを使うところまでは、教えていただけていませんが・・・。

PC-TalkerとJAWSを2台のパソコンで使い分ける二刀流

― PC-TalkerとJAWSの2つのスクリーンリーダーを使っておられるとのことですが、どのように使い分けされているのでしょうか?

TM:
実は、私はパソコンを2台使っていまして、PC-Talkerを利用してExcelでデータ処理をするためのパソコンが1つと、JAWSで社内システムを見るパソコンが1つの2つを使い分けています。
なぜ、2台のパソコンがあるかというと、少しいきさつがありまして、元々予算管理の業務は月末など繁忙期があり、当時は、デスクトップを使っていたので、ノートパソコンがあれば在宅でもできると思い、上司にお願いしたところ、ノートパソコンも準備してもらえたのです。実際には、自宅でまで仕事をする必要は無いと言われて、当時は在宅では使わなかったのですが、結果的に、2台のパソコンがあったので、1台にJAWSを入れて、2台を業務に合わせて使い分けることにしました。

― 2台のパソコンを使っているとデータ共有など、難しくはないですか?

TM:
どちらも社内のネットワークに接続しているので、Excelのデータを一方のパソコンで作成して、共有サーバーに保存するともう一方のパソコンでもデータを参照することが可能です。
システムは、Notesを使っています。

― Notesは、スクリーンリーダーで使えているのでしょうか?

TM:
JAWSでは、対応していて使えるのですが、最近、Notesのバージョンアップがあり、うまく使えなくなって困っているところです。Notesに限らず、システムのバージョンアップと、スクリーンリーダーの更新には、いつも苦労させられています。
JAWSは、Windowsが更新されるたびに、新しいバージョンがリリースされますが、そのたびにアップグレード費用の見積もりを取って、社内で経費申請して承認をもらわなければなりませんし。

― ソフトウェアのアップデートとスクリーンリーダーの更新は、機能面だけでなく、費用的にも視覚障害者の就労継続の課題の一つですね。

TM:
はい。つねに同じようなことが他のシステムでも起きますね。社内システムのバージョンアップで、それまでできていたことが突然できなくなるのは、自分だけ置いていかれるような気がして、職場では、きついですね。

― 確かに、システムのバージョンアップで使えなくなったり、仕事の効率が落ちたりすることは、晴眼の方(視覚障害のない方)には、理解されにくいことですね。他に苦労されていることはありますか?

TM:
先程、2台パソコンを使っているという話をしましたが、在宅勤務のときは、PC-TalkerをインストールしたExcel作業用のものを自宅に持ち帰って仕事をしているのですが、社内ネットワークにアクセスするためのワンタイムパスワードが、音声対応していないので、在宅勤務では、ローカルで作業できる仕事しかできず、他の人より在宅勤務の日数が増やせないということがあります。今は、スケジュール管理を徹底し、在宅勤務のときには、ローカルでできる業務を行うようにするなど、業務内容を調整することで、対応しています。

― 最近、いろいろなところでセキュリティ強化され、そのことがスクリーンリーダーユーザーの障害になっている、というのも課題の一つですね。今日は、いろいろとお話を聞かせていただきありがとうございました。

インタビューを終えて

一般企業で営業事務を担当されているTMさん、入社時は弱視で画面拡大によって仕事をされていたそうですが、視力が低下して業務に支障が出てきたときに、部長と直接話をするなど、それまでに培った職場や、上司との信頼関係と、ご自身の粘り強さで、困難を乗り越え、仕事の実績を上げておられるお話がとても印象に残りました。
お話の後半では、社内システムやリモートワーク環境のワンタイムパスワードなどに関する課題についてもお話を伺いました。こうした課題は、多くの働く視覚障害者が直面している課題でもあり、今後、タートルICTサポートプロジェクトでも、課題解決へ向けて、知恵を出し合っていかなければならないと思いました。

【解説】 ワンタイムパスワード:
一度限りしか使えないパスワードを生成することで、パスワード認証の弱点を克服した認証方式。リモートワーク時に社内ネットワークにアクセスるために利用している企業も多い。この方式では、認証のために「ワンタイムパスワードトークン」という手元の機器に表示されるワンタイムパスワードを一定時間以内に入力する必要があるため、表示されているパスワードが読めない視覚障害者が対応できない場合が多い。
尚、リモートワークでのワンタイムパスワードの課題に対応した企業の事例が、下記のICT関連合理的配慮事例集の事例②に掲載されているので、こちらも参考にしてください。

参考:視覚障害者の就労におけるICT関連合理的配慮事例集