技術を変え、人の考えを変えることで視覚障害者の可能性はもっと広がる!―視覚障害者就労生涯学習支援センター 井上英子先生に聞く

今回は、タートルでも多くの方がお世話になっている視覚障害者就労生涯学習支援センター代表の井上英子先生にお話を伺いました。井上先生は、視覚障害者向けの就労支援講座でスクリーンリーダーなどを教えておられるほか、ジョブコーチや障害者雇用管理サポーターとして職場に出向いての支援も数多く行っておられます。インタビューでは、井上先生が視覚障害者の就労支援に関わり始めた当時のお話や最近のデジタル化に伴う就労環境の変化など、幅広いお話をお聞きしました。

訓練風景の写真

視覚障害者が生涯にわたって学習し続けられるスキル習得を支援

 井上先生は、長年にわたり視覚障害者の就労支援に関わってこられ、現在はご自身で立ち上げられた視覚障害者就労生涯学習支援センターで活動されていますが、具体的にはどのような支援を行っておられるのでしょうか?

井上:
私どものセンターで行っている視覚障害者向けの講座としては、東京しごと財団から受託を受けて、求職者のかた向けの「知識・技能習得訓練コース」と在職者向けの「在職者訓練コース」、大きなものはこの二つですね。それから、ジョブコーチ(職場適応援助者)と障害者雇用管理サポーターとして、職場に出向くなどして個別の支援を行っています。

 確か、大学生向けの講座も行っておられますね。

井上:
はい、視覚に障害のある学生の方向けの講座を年に1回行っています。これを始めたきっかけは、平成20年(2008年)から「視覚障害者雇用・就労支援連続講座」を行っているのですが、その中で一般の大学に通う視覚に障害のある学生さんが就労後に困らないようなスキル習得が必要だと感じて学生の方向けの講座を開設しました。

 「視覚障害者雇用・就労支援連続講座」というのは、どのような講座なのですか?

井上:
この講座は、雇用側と働く視覚障害者側両方から意見や経験を出していただいて、視覚障害者の就労に関する理解を深め、ノウハウの共有をしていこうとするものです。東京労働局にお願いして障害者雇用に関心のある企業や障害者雇用率未達成の企業などにもお声がけいただき、多くの雇用主の方々にご参加いただいています。視覚障害者の方のご経験を話していただいたり、上司や同僚の方にどのような状況だったかを具体的にお話しいただいたりすることで、これから視覚障害者の雇用を考えておられる企業の方にも理解を深めていただいています。
また、講座終了後には、視覚障害当事者間の情報交換を目的とした「視覚障害者就労情報交換会」というのも併せて開催しています。この講座は年に1回開催していたのですが、新型コロナ禍で現在(2023年5月時点)は休止しています。

 なるほど、障害当事者向けの講座だけではなく、雇用している企業の方々にも視覚障害者の就労事例やノウハウなどの情報発信をしているのですね。
ところで、視覚障害者就労生涯学習支援センターという名称ですが、「就労」だけではなく、「生涯学習」という言葉が含まれていますが、この名称には何か先生ご自身の思いが込められているのですか?

井上:
センターを立ち上げる時に、就労支援だけでなく、皆さんが生涯にわたってずっと勉強していくのだろうなあという思いがあって、仕事だけでなくて個人としての力をみんなでつけていく、そういうことを支援していきたい、との思いで名前を付けたら、とても長くなって恐ろしい名前になりました(笑)。

 確かに視覚障害は、墨字の本が読めないことで情報障害と言われた時代もありましたが、技術の進歩でスクリーンリーダーなどさまざまな手段で多くの情報を得られる時代になりました。井上先生のところで、こうした手段を学ぶことで、生涯にわたって自分自身で学んでいく力を身につける、そういう思いがこの名前の背景にあるのですね。

井上:
就労に必要なスキルというのは、これは私どもが講座の中でお伝えしたものだけでは十分でないと考えておりまして、受講していただいた方ご自身が、受け身ではなくご自身で考えて実践していただくことで習得していただくものだと考えています。ですので、求職者のかた向けの「知識・技能習得訓練コース」の最後には技能発表会を行っていまして、この発表会では受講者の方が講座の中で習得したスクリーンリーダーなどの技能をどのように実務に活かしていただくかをご自身で考えていただき、その結果を発表していただいています。

 単に知識や技能を習得するだけでなく、就職した後も自分自身で考えて業務に応用していく力を付ける、そういうことを目指しているのですね。井上先生が、「学ぶ」ということをとても深く考えておられることがよくわかりました。

井上:
でも、だからと言って、今、本当の意味でそういうお手伝いができているかというと、まだまだ十分ではないと思っておりまして、多くの方にお力添えをいただきながら、なんとかやっているというところです。

1980年代、米国ではすでに音声読み上げを使ったパソコン操作の先進的な訓練が行われていた

 ところで、井上先生は、どのようなきっかけで、今のような視覚障害者の支援に携わることになったのでしょうか?

井上:
大学4年生の時に、たまたま杉並区報の成人学級の案内に載っていた点字教室に参加したのがきっかけでした。そこで松井新二郎先生( 日本盲人職能開発センター創設者(現 日本視覚障害者職能開発センター))に出会い、その次の年から先生のところでお手伝いをしながら、夜は日本社会事業学校に通って福祉の勉強をしました。

 点字を勉強しようと思ったのには、何か理由があったのですか?

井上:
いいえ、大学は国文科だったのですが、ちょうど論文を書くのがつらかったので、ただ別のことに身を置きたかっただけで、特に理由はないんです。(笑)

 偶然、点字教室の案内を目にしたことがきっかけだったのですね。そこで松井先生に出会われたことで大きく人生が変わったのですね?

井上:
その時は、そんなに変わったとは思わなかったのですが…(笑)
松井先生のお手伝いをするようになってから、福祉の勉強をしようと思って先生にお聞きしたら、「近くに日本社会事業学校があるよ」と教えてくださって、そこで福祉の勉強をするようになりました。
ちょうどその頃、オプタコン(optical-to-tactile converter)という装置に出会いました。この装置は、スタンフォード大学のリンヴィル(Linvill)先生という方が全盲のお嬢さんのために開発した機器で、小さなカメラを紙の上に当てて、書かれている文字を撮影し、文字の形を触覚ディスプレイ上にピンで描き出すものですが、これを日本に導入するということで、松井先生からこの装置の普及活動をやってみないかというお話がありました。そこで、オプタコンの指導員養成の講師をするなどオプタコンの普及活動に関わるようになりました。

オプタコンの写真

ちょうどそのころ、中央競馬社会福祉財団の海外研修生の募集があって松井先生に進められてアメリカでオプタコンおよびコンピュータ関連補償機器の研修を受けさせていただくことになりました。
オプタコンを作っている会社がアメリカのシリコンバレーにありまして、アメリカでオプタコンやスクリーンリーダーを勉強するのなら、先にパソコンを習ってらっしゃいと言われて、初めて触ったパソコンが英語でした。

 そのころは、まさにパソコンの黎明期だったのではないですか?

井上:
はい、1984年ころのことです。その頃はアメリカでは初めてAppleが音声機能をパソコンに搭載した時期で、また、オプタコンを作った会社がバーサ・ブレイルというコンピュータを搭載した点字ディスプレイを開発していて、私はその時にこうした機器を学ばせていただく機会を得ました。1か月ほどの滞在でしたが、その時に、退役軍人局病院(Veterans Administration Hospital)で失明した退役軍人の方にAppleの音声読み上げを使った先進的な訓練が行われており、こうした訓練を受けた後に、視覚に障害のある方も銀行など一般企業に就労している、そういう現場を見させていただくことができました。

 アメリカではすでに音声パソコンの訓練が行われていたのですね。

スクリーンリーダー習得のカリキュラムを構築し、視覚障害者の一般就労への道を開く

― 井上先生がアメリカでAppleの音声パソコンに出会われたころ、日本ではどのような状況だったのですか?

井上:
日本でも、ようやくスクリーンリーダーが開発され始めていましたが、まだ一般的ではありませんでした。その頃から、松井先生が視覚障害者の一般就労の支援を始められ、私もそのお手伝いをすることになりました。東京障害者職業能力開発校からお話があり東京都の担当者と協力して、視覚障害者がスクリーンリーダーを学ぶためのカリキュラムを作りました。

 視覚障害者がスクリーンリーダーを学んで事務職として就労するという大きな流れが、その時期から始まったのですね。
そうした流れの中で、井上先生は講座の立ち上げに関わられて、その後も長年にわたり日本盲人職能開発センター(現 日本視覚障害者職能開発センター)で講座をご担当され、視覚障害者の就労支援に深く関わってこられたのですね。

井上:
はい、その間いろいろ経験させていただくことができました。その中で一番印象深かったのはJICAのお仕事をさせていただいたことですね。平成8年(1996年)から16年(2004年)にかけて、アジア太平洋地域の盲学校の先生など視覚障害者の指導をされる方に日本に来ていただいて、その方々にJAWSの英語版でその使い方や指導方法をお伝えしたり、また、日本国内の施設の見学をしていただいたり、機材をどのように手に入れるのかを含めて、それぞれの国にお帰りになってから草の根技術協力活動として視覚障害者への支援が広まるようお手伝いをさせていただきました。
このプログラムにはアジア太平洋地域のさまざまな国の志のある方がお越しになるので、私自身もとても勉強になりました。

― 日本国内だけでなく、アジア太平洋地域の視覚障害者支援の普及にも貢献されたのですね。

井上:
他にはアビリンピック(全国障害者技能競技大会)の中で、視覚障害者の競技を加えたいとのお話があり、競技内容のご提案や競技問題の作成、実施などにも関わりました。

 日本盲人職能開発センター(現 日本視覚障害者職能開発センター)では、とても幅広い業務に携わっておられたのですね。その後、現在の視覚障害者就労生涯学習支援センターをご自身で立ち上げられたわけですが、どのようなお考えで新しい組織を立ち上げられたのですか?

井上:
はい、自由に動きたいと考え、これまでお力添え下さっていた方々に相談して、平成18年(2006年)にセンターを立ち上げました。立ち上げるにあたり、ジョブコーチの業務を受託したり、東京しごと財団から講座を受託するには、法人格が必要ということで株式会社を立ち上げ、現在は任意団体と並立する形で運営しています。

デジタル化の流れの中で変化する視覚障害者の就労環境と課題

 井上先生は、視覚障害者への講座のほかに障害者雇用管理サポーターやジョブコーチとして視覚障害者の就労支援を行っておられますが、実際に職場に出向いて支援を行う中で、最近の就労環境の変化など感じておられることはありますか?

井上:
以前は、Word、Excel、メールができれば、事務職としての仕事ができましたが、今は勤怠管理をはじめ、業務で多くのソフトウェアが使われていますので、難しいことが増えてきたと感じています。以前は、人事や総務関係の事務仕事はまだまだ課の中でコツコツできていた仕事、例えば残業の管理だとか経理業務とかがたくさんあったと思うのですが、それらがシステム化されて業務の切り出しが難しくなってきたように思います。
それから、新型コロナ禍で、リモートワークが広がりZoomやTeamsを利用して仕事をすることが当たり前になりました。

 こうした環境の変化の中で、視覚障害者の就労現場には、具体的にどのような課題があるのでしょうか。

井上:
例えば、勤怠管理のシステムや承認システムであっても、スクリーンリーダーを使ってキー操作を行うのは、なかなか大変ですよね。しかも業務で何種類ものシステムを使う必要があるので、それぞれのシステムの構造を理解してキー操作を覚えなければならない。みなさん、すごく大変でいらっしゃると思います。しかも、マウスでしか操作できないものもあったりします。

 確かに、アクセシビリティに十分配慮されていないシステムも多そうですね。視覚に障害があるとマウスで操作するのは難しいですね。

井上:
はい。マウスでその場所までもっていって左クリックをしないと実行できないボタンがあったりします。例えば、承認システムですと、今、回付ルートのどこにいて、それはどのような表示形式なのかを周りの晴眼者の方に見ていただけるかというと、必ずしもいつも見ていただける状況とは限らない、特にリモートワークが進んできたこともあり、つねに誰かが隣にいるという環境で仕事をしているとは限りません。
また、周りの方も視覚障害者のキーによるパソコンの操作方法を必ずしも理解しているとは限らないので、具体的に何をしたいのか、何をしてほしいのかがご理解いただけなかったりするのではないかと思います。

 新型コロナ禍で増えてきたリモートワークについては如何でしょうか。シンクライアント注)で苦労されている視覚障害者も多いと聞きますが。

注) シンクライアントとは、企業や官庁などの情報システムで、利用者が操作するコンピュータ(クライアント)に最低限の機能しか持たせず、サーバコンピュータが集中的にソフトウェアやデータなどの資源を管理する方式。

井上:
そうですね。色々課題がありますね。シンクライアントの環境でのスクリーンリーダーの読み上げについては、様々な方にご相談させていただきながら対応を考えるのですが、スクリーンリーダーがインストールできたとしても、その環境で先ほどお話したようなアプリが動作しているわけですから、なかなか対応が難しくなりますね。

― シンクライアントを導入していて対応が難しい事例には、どのようなものがありますか?

井上:
お役所の中にはスクリーンリーダーのインストールが許可されないケースもあります。大きいディスプレイの導入などには対応してくださるのですが、なかなかシステムのこととなると理解していただけないことがあります。おそらく、サイバー攻撃などセキュリティのことをご心配されているのだとは思いますが。

― 逆に民間の会社の場合は、シンクライアントでもスクリーンリーダーのインストールを許可される場合が多いのですか?

井上:
はい。私が関わった事例としては、生命保険会社や証券会社、公共交通機関、建築会社などで、シンクライアント環境でもスクリーンリーダーのインストールが許可された例があります。もちろん、許可されなかった事例もあるのですが。

― シンクライアントについては、色々課題も多い分けですね。ジョブコーチとして個別に支援する中で、他にどのような課題がありますか?

井上:
そうですね、難しいのは、やはり金融関係ですかね。例えば、顧客情報に関わるシステムを使って業務をされている方を支援する場合、どうしても外部の人間であるジョブコーチはそのシステムにアクセスさせてもらえない。実際に、そのシステムを扱えれば、スクリーンリーダーで、どのようにキー操作すればよいかご支援させていただける可能性があるのですが、なかなか画面を拝見することもできない。こうしたケースは、もう少し支援させていただければ音声で楽に仕事ができるかもしれないと、もどかしい思いをします。

アクセシビリティに課題がある場合には、システム部門に直接改善点をお伝えすることもある

― 井上先生が現場で支援をされていて、システムのアクセシビリティに課題を感じる事例としては、他にどのようなものがありますか?

井上:
企業で独自に作られている業務システム、例えば在庫管理や製品管理のシステムなどは、昔のシステムをそのままWindows上で使っている場合も多く、そのような場合は、なかなかスクリーンリーダーとキー操作でうまく対応できないことが多いので苦労します。

― 確かに企業の中では、昔から使われているシステムをそのまま使っているケースもありますよね。

井上:
他には、最近、現場でタブレットを使って直接利用するシステムも増えてきていますが、もちろんタブレットでもVoiceOverなど音声を使えるのですが、実際に操作してみると音声での操作性が悪いものがあります。

― タブレットで操作するようなシステムを使われている方の支援もされているのですね。

井上:
はい。最近は、介護関係や高齢者の福祉施設などでは、介護士や職員の方が現場でタブレットを使って必要な情報にアクセスしたり、入力したりするシステムが多くなってきています。こうしたシステムがスクリーンリーダーできちんと使えるかと言うと、いろいろ課題が多いと感じています。

― 支援の中で見つけたアクセシビリティ上の課題について、直接システム部門に助言することもあるのですか?

井上:
そうですね、システム部門の方が同席してくださる場合などは、うまく読み上げられない箇所やキー操作ができない個所を直接お伝えすることもあります。また、直接お話しできない場合には、画面をコピーして説明を書面にしてお伝えすることもあります。ただ、すぐにシステムを改善していただけるかと言うとなかなか難しいことが多いです。

― 確かに、近年、さまざまな職場や職種の業務がデジタル化されてきていますが、そうしたシステムのアクセシビリティが必ずしも十分でない。こうしたシステムを開発している部門や会社の意識をどう向上させていくか、まだまだ課題も多そうですね。

技術を変え、人の考えを変えることで、視覚障害者の可能性はもっと広がる

― デジタル化の進展の中で視覚障害者の就労環境には、さまざまな課題があることがよくわかりました。一方で、デジタル化の流れは視覚障害者の就労機会を着実に広げてきているのも事実だと思います。井上先生が、長年、視覚障害者の支援をされてきて、どのようなことを感じておられますか?

井上:
この仕事をしていると、技術の変化を間近に感じられるのが面白味の一つだと思います。技術の進歩で、道が開けたり、逆に難しくなったりする。一様に進歩していくのではなく、行ったり来たりの揺れ幅があるわけですが、そうした揺れ幅の中で、視覚に障害のあるみなさんはお仕事をされていて、すごいなあと感じることがとても多いです。昔は、なかなか視覚障害者が事務職で仕事をすることが難しかった時代もありましたが、今はみなさん技術を使いながらたくましく仕事をされていて、私の所に来られた時には仕事の内容を説明した上で、どの部分が分からないかをきちんと説明してくださる。そうした方々にお会いできることが、この仕事を続けて行く上での私のモチベーションにもなっていると思います。

― 今のお話をお聞きしていると、井上先生がつねに視覚障害者の立場に立って解決策を見つけようと親身になってくださる原点は、ここにあるのだなと感じました。最後に、井上先生にお聞きしたいのですが、いろいろと課題は多いですが、技術の進歩で視覚障害者を取り巻く就労環境は、着実に良くなっていますよね?

井上:
はい。昔を知っている人間からすると、点字だけだった世界からデータを共有できる世界に大きく変わり、今は、そのデータにどのように対応するかということになっています。だからこそ、技術を変え、人の考えを変えていくことで、視覚障害者の可能性はもっと広がっていくのだと思います。

― デジタル化で多くの文書がデータ化され、スクリーンリーダーと言う武器もある。昔は諦めていたことが、もう少し周囲が変われば、もう少し自分のスキルを上げられればできるようになるのではないか、そういう期待の中で多くの課題もまた見えてきている。そういう時代に、私たちは今いるのかもしれませんね。井上先生の所には、これからも多くの視覚障害者が学びに行くことと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
今日は、長時間にわたりありがとうございました。

インタビューを終えて

今回のインタビューでは、視覚障害者へのスクリーンリーダー指導の草分けでもある井上英子先生に、シリコンバレーで初めてスクリーンリーダーに出会われたときのお話やカリキュラムを構築して講座を立ち上げた当時のお話など、現在につながる貴重なお話をお聞きすることができました。また、後半には、ジョブコーチとして実際の就労現場での支援経験を踏まえて、近年のデジタル化の進展の中で感じておられるさまざまな課題についてもお話を伺いました。
私は数年前に先生にご指導いただいた経験がありますが、その時に目にしたのは受講生のどんな質問にも必ず解決策を示してくださる先生の知識の豊富さと情熱でした。インタビューの最後に先生がおっしゃった「技術を変え、人の考えを変えることで、視覚障害者の可能性はもっと広がる」という言葉は、先生のこの情熱の源でもあり、また、未来につながる希望でもあると感じました。
視覚障害者の就労環境の課題の中には当事者の努力だけではなかなか解決できないものもあります。とりわけ業務システムのアクセシビリティに関わる課題については、井上先生のように専門知識を持ったジョブコーチ(職場適用援助者)の方に職場に入っていただき解決策を見つけていくことが不可欠です。一方で、ジョブコーチについては制度面の課題も多く、視覚障害者の就労支援ができるジョブコーチが不足しており、とりわけ地方においては支援が受けにくいという現実もあります。
スクリーンリーダーが当たり前になった今の時代の私たちは、ともすれば、「できない」ことにこだわって、「できる」ことを増やすために先人たちが積み重ねてきた多くの努力を忘れがちなのかもしれません。デジタル化の中でさまざまな課題に直面している今の私たちには、まさに「技術と人の考えを変えて」一つ一つ課題を解決し、次の世代にバトンをつないでいく使命があるのではないか、今回のインタビューを終えてそう感じました。
(インタビュアー: NY)

参考資料: 視覚障害者の就労支援に関する用語集

井上英子先生プロフィール

井上先生の写真

実践女子大学国文学科卒業、日本社会事業学校卒業、電算機専門学校SE科修了、日本大学大学院理工学部医療福祉工学専攻博士課程前期修了。
日本社会事業学校卒業後、日本盲人カナタイプ協会(現 日本視覚障害者職能開発センター)でオプタコン講習指導員養成、カナタイプ(音声パソコン)講習・競技会、事務処理科開設、東京商工会議所検定実施、JICAのアジア太平洋地域研修(日本)、実施などに従事。
平成18年(2006年)4月より視覚障害者就労生涯学習支援センターを代表として開所。
他に大学・大学院、専門学校の講師、アビリンピックパソコン操作主査、福祉研究会会員、柏朋会会員などを歴任。現在は障害者雇用管理サポーター、ジョブコーチ、職業総合センターの講師など。

視覚障害者就労生涯学習支援センター(外部リンク)