2022年3月6日【第5回ICTサロン開催報告】視覚障害者の職域環境向上を目指して・・『ジョブコーチ』が語る就労現場での支援の実際と課題

2022年3月6日、タートルICTサポートプロジェクト主催の第5回ICTサロンをZoomによるオンラインで開催しました。当日は日曜日の午前中にもかかわらず、約230名の方にご参加をいただき、とても盛況なイベントとなりました。
今回のテーマは「視覚障害者の職域環境向上を目指して・・『ジョブコーチ』が語る就労現場での支援の実際と課題」。ジョブコーチの資格を持ち、長い間、視覚障害者を支援していただいている3人の先生方に、就労現場での支援の実際や現状の課題などについて、ICTを切り口に対談していただきました。

開催概要

開催日時

2022年3月6日(日曜日) 午前10:00~12:00
(Zoomによるオンラインウェビナー形式)

パネリスト

  • 伊吾田 伸也(いごた しんや) 先生
    日本視覚障害者職能開発センター施設長
  • 井上 英子(いのうえ えいこ) 先生
    視覚障害者就労生涯学習支援センター代表・主任講師
  • 高西 透江(たかにし ゆきえ) 先生
  • 特定非営利活動法人視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN)理事

パネリスト紹介(詳細)

開催内容

当日は、重田理事長の挨拶と伊藤リーダーによるタートルICTサポートプロジェクトの紹介、大橋理事の趣旨説明の後、パネリストの3人の先生方のプロフィール紹介に続いて先生方からジョブコーチを中心とした視覚障害者の就労支援の実態を具体的な実例を踏まえてご紹介いただくとともに、現場での指導経験の中から見えてくるさまざまな課題についてもお話しいただきました。

ジョブコーチとは?

障害者が職場で円滑に働けるように支援する制度として「ジョブコーチ」があります。ジョブコーチは職場適用援助者とも言い、当事者の業務遂行の円滑化を図るだけでなく、事業者に対しても雇用管理の支援を行い、障害者が安定して働ける環境づくりをサポートしています。

パネルディスカッションでは、まず最初に井上英子先生より、ジョブコーチの目標は視覚障害者の就労の作業能率を上げたり職域を広げることであり、画面読み上げソフトによるパソコン操作やオフィス機器の利用方法を伝えることに加えて、職場の上司や同僚、システム担当者に視覚障害に起因する困難とシステムに起因する課題を理解していただくことで、職場環境の改善につなげていくことが重要であるとのお話がありました。また、井上先生からは、豊富な支援経験を踏まえた具体的な事例を数多くご紹介いただきました。

続いて、高西透江先生より、ジョブコーチの支援事例について、パソコンに関する支援とパソコン以外の支援に分けて具体的にご紹介いただきました。また、ジョブコーチの役割としては、困りごとを解決することに加えて、業務が可能か不可能かの判断を客観的に行うということがあるとのお話がありました。その業務が障害特性上、不可能なのか、何らかの工夫で解決できるのか、可能ではあるが時間がかかる等により現実的ではないのかを判断し、業務内容の調整が必要な場合は客観的な事実を踏まえて職場や会社側と調整するということも、ジョブコーチの重要な役割の一つであるとのお話がありました。

伊吾田伸也先生からは、最近の事例として、新型コロナ禍でマッサージ業務から事務職への職務転換が増えており、こうした場合にはタッチタイピングから練習する必要があることから、就労移行支援の基礎コースを受講していただく中で、職場に出向いて実際にどういう仕事ができるのか、仕事の切り出しから支援していくという事例があるとのお話がありました。また、実際の現場で視覚障害者がどのような支援を必要としているかが理解されていないとの実態があり、会社に出向いて説明をするという事例もあるとのお話がありました。

ジョブコーチの課題

高西先生からは、ジョブコーチは、あくまで会社と当事者双方に中立的な立場で支援する制度であり、利用にあたっては、こうした制度のことをよく理解し、職場の理解を得た上で利用してほしいとのお話がありました。また、ジョブコーチが職場に立ち入ることについて、機密漏えいの観点からなかなか認められないケースもあるが、繰り返し説明をしていくことで、場合によっては会社と機密保持契約を締結して対応することもあるとのご説明がありました。
また、職場によっては単に業務上の問題点を解決してくれればよいと考えてジョブコーチを依頼してくる場合もあるが、支援後はジョブコーチがいなくても職場内で自然な形で支援が行われる状態(ナチュラルサポート)に移行していけるかが最も重要であり、そのためには職場の理解と協力が欠かせないとのお話がありました。

続いて、伊吾田先生からは、現行の制度では公務員や個人事業主の方がこの制度を利用できないという制度面での課題についての問題提起がありました。また、視覚障害者を支援するジョブコーチが増えないことについて、労働系の助成金など制度面の課題やジョブコーチの単価が低いことによる支援機関の経営面での課題もあるとのお話がありました。

井上先生からは、課題解決のためにはシステム部門の方との連携が重要であり、うまくいった事例としてシステム部門の方に集まっていただき、システム開発時に視覚障害者が使いやすいよう配慮するための会議の開催につながったという事例が紹介されました。

まとめ

ジョブコーチは障害者が安定して働ける就労環境を構築するために欠かせない制度です。一方で、支援に独自の専門性が要求されるため、視覚障害の対応ができるジョブコーチは非常に少なく、また、地域差も大きいのが現状です。こうした状況もあり、制度の理解や利用がなかなか広まらないという課題があることも事実です。

今回のサロンでは、視覚障害者の就労支援の分野で豊富な経験をお持ちの3人の先生方をお招きしてお話を伺い、ジョブコーチの具体的な支援内容や利用にあたって留意すべき事項、制度を取り巻くさまざまな課題について理解を深めることができました。

今回のイベントが、今後、ジョブコーチの利用を考えている当事者だけでなく、支援団体や障害者を雇用する企業・団体の方々など多くの方々の参考になれば幸いです。

お忙しい中パネリストをお引き受けいただいた先生方、また、ご参加いただいた多くの皆様、ありがとうございました。

参考資料:視覚障害者の就労支援に関する用語集