No.3

タートル

1996. 10.15.
中途視覚障害者の復職を考える会
(タートルの会)



【巻頭言】

〜中途視覚障害者が安心して働き続けるために〜

 タートルの会幹事 工藤正一

 ただ見えなくなっただけなのに、働く場を失い、生きていくことさえままな らぬということは、中途視覚障害者のだれもが体験するところである。そこには 、「歩く」「読む」「知る」の三大不自由がある。これらの不自由を解消するこ となしに、中途視覚障害者の自立はありえない。その意味で、リハビリは人間復 権への道であり、なかでも、安全に移動でき、文字処理ができるようになること は、私たちが働き続けるための第一歩である。しかし、在職中にリハビリを受け 、復職できたケースはあまりにも少ない。
 実際、中途視覚障害で働き続けることを考えた場合、本人も職場の関係者も 、どうしていいか分からないというのが実情である。運よく在職中にリハビリに 辿り着いたとしても、「どこまでできるようになるだろうか」、「見えなくて本 当に何ができるのだろうか」と、不安や疑問はなかなか払拭し切れない。しかし 、やってみなければ分からないし、事は進まない。この“未知なる可能性”への 挑戦の成功のためには、社会全体の“待つ心”が必要不可欠である。
 私は、その“待つ心”として「職業リハビリテ−ション休職制度」があれば と願っている。労働者保護と雇用主の負担を軽減するという二つの観点から、在 職中のリハビリを保障し、可能性を担保するのである。
 実際、リハビリに辿り着いた時には既に退職しているケースも多い。見えな いことをひた隠しにせざるを得なかったり、リハビリどころか、「いつまで仕事 を続けられるか」とぎりぎりまで追い詰められている人も多い。だからこそ、人 権保障の観点からもそのような制度が必要である。現状の視覚障害リハビリシス テムでは、中途視覚障害者の継続雇用は難しい。中途視覚障害者が退職せずに済 むような視覚障害リハビリシステムの確立を望むものである。

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第1回定期総会から

【1995年度活動報告】


 昨年6月3日の会発足以来この1年間の活動について、1995年度活動計画に 従って報告する。
1.手記集の発刊に関すること
 会発足時に発刊した手記集については、当事者や関係者の要望に応えて、既 に130部以上が配布された。
 正式出版へ向けて複数の出版関係者から意見や助言、感想を寄せてもらった ところ、社会的に大きな意義あるものとますます確信を深めるに至っている。し かし、一社から見積りを徴して若干の検討はしたものの、資金不足等のため、具 体的には進展せず、目下、鋭意検討中である。
2.初期相談に関すること
 会発足以来、事務局(一部役員を含む)に寄せられた相談や問合せは50件を 超えていると思われる。そのうち、直接当事者に関わるものは30件を超えてい る。そのほとんどは、将来に対する不安や具体的な訓練に関するものなどさまざ まであったが、情報提供と手記集の送付で対応した。なかには、長崎県、広島県 、岡山県など遠方から訪ねてくるケースもあり、本会への相談がきっかけで、現 在、原職復帰をめざして生活訓練中のケースもある。
 また、朝日新聞日曜版「みんなの健康」(1996年3月3日付け)の記事中に 本会の連絡先が掲載されたことがきっかけで、全国の網膜色素変性症患者や家族 からの相談や会に対する問合せが今でも寄せられている。
 交流会には、医療関係者や労働組合役員(埼玉県・横浜市等)などからの参 加もみられるようになっている。
 相談活動は本会の最も重要な活動であると考えられるので、相談ケースを整 理・分析するとともに、情報提供だけで終らせることなく、場合によっては、フ ォローアップが必要であり、今後の課題である。
◇当事者からの相談件数(32件)の内訳
◎相談者:本人 23、家族・友人 3職場関係者 5ケースワーカー 1 合計 32。
◎当事者の性別:男 24女 8 合計 32。
◎在職・休職の別:在職中 14、休職中 7無職 6不明 5合計 32。
3.研修制度の確立に関すること
 中途視覚障害者が復職後あるいは視覚障害となりながらも引き続いて働き続 けることを保障するため、歩行訓練、職業訓練等必要な技能習得のための研修制 度を確立する取り組みについてはできなかった。ただし、交流会において、歩行 訓練に関連したテーマで学習した。
4.補助機器の導入推進に関すること
 交流会や幹事会等の場において、随時情報交換、助言等をおこなってきた。
5.交流会に関すること
[1]1995年6月3日(土) 設立総会 50名
 「視覚障害者の雇用問題をめぐって」(講師:橋本 宗明 氏)
[2]1995年9月22日(金) 相談交流会
 (職場復帰問題の討議)
[3]1995年11月24日(金) 25名
 「歩行とバリアフリーについて」(講師:大槻 守 氏)
[4]1996年1月27日(土) 25名
 「年金について」
(講師:和泉 森太 氏)
[5]1996年3月23日(土) 35名
 中途視覚障害者にとってのパソコン〜その有用性、その将来像」
(講師:篠島永一 氏、北林裕 氏)
◇他団体との交流
 全国視覚障害者雇用促進連絡会主催シンポジウム(1995年10月22日)
 「視覚障害者にとって働きやすい職場づくりを目指して〜我がグループはこ う考える〜」
 7団体のうちの一つとして、副会長(下堂薗)がパネラーとして出席。
6.会報の発行に関すること
 会報は、「タートル」として、創刊号(1995年12月15日発行)、第2号(1996 年5月1日発行)を、12頁立てで各200部発行した。
 会員の希望により、フロッピィーディスク、カセットテープ版を用意した。
7.調査・研究に関すること
 中途視覚障害者の原職復帰、あるいは視覚障害を持ちながらも原職にとどま ることを確実なものにするための有効な方策等についての調査研究はできなかっ た。このことについては、引き続き今後の課題としたい。
 私たちの重要な活動である初期相談については、年間を外観してみると、そ れなりの件数もあることから、その内容、問題点や課題等について、調査分析し てみることは有意義であると考える。
8.その他
 タートルの会を広く知らせるため「しおり」を作成し、一部関係者に配布し た(千葉県眼科医会等)。

【幹事会等活動日誌】

◆1995年
 7月14日(木)幹事会、9月11日(木)幹事会、10月6日(金)事務打合せ、10 月27日(金)幹事会、11月11日(金)会報編集委員会、12月8日(金)会報編集 委員会、12月15日(金)幹事会(会報の発送作業と忘年会)。
◆1996年
2月23日(金)幹事会(交流会と手記集に関する打合せ)、4月12日(金)幹事 会(総会の打合せ、会報の編集会議)、5月1日(水)会報発送、5月8日(水 )幹事会、5月20日(水)幹事会(総会案内発送)、6月3日(月)会費納入 依頼発送。(工藤正一)
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【1996年度事業計画】


1.初期相談の充実
 これまで多くの中途視覚障害者やその関係者から相談を受けた。私たちは地 道ではあるが、この活動を何よりも大切にしたい。「一人で悩まず一緒に考えよ う」。この呼びかけを更に強めると共に、その相談活動を充実させたい。その場 だけの対応に終わることなく、相談ケースの整理、分析、その後のフォローまで 考えていきたい。
2.体験を綴った手記集の出版
 昨年の設立総会に向けて、各自が自分の体験をレポートしてみた。お互いが それらを交流する内に、「多くの人に私たちの体験を知ってほしい」という意見 が出された。それは中途視覚障害者の理解に必ず結びつくという確信をもつこと となった。それで「ぜひ出版を」ということになった。資金的にも解決しなけれ ばならない問題も多いが、何とか実現に向けて活動したい。
3.会報発行の充実
 各地の会員や中途視覚障害者との情報交換・交流にとって会報発行の意味は 大きい。年3回発行を更に内容あるものにしたい。
4.交流会の更なる充実
 昨年度は、歩行、年金、視覚障害者とパソコン、等、私たちに関係の深いテ ーマを設定して学習した。その場だけに終わらせることなく会報にその内容を知 らせることも行ってきた。この活動を更に充実させ、しっかり蓄積させていきた い。
5.復職、再雇用に関するノウハウの蓄積ー調査・研究の充実
 中途視覚障害者がぶつかる就職・復職・再雇用に関する問題についての調査 ・研究を進める。
 なお、この5項目の提案に対し、会場より「私たち会員同士が交流し、各会 員がどんな状況でどのような問題を抱えているのかを知り合うのは、何より大切 な活動なのではないか」という提起がありました。重要な提起であることを確認 し、この5点に追加することを確認しました。  (新井愛一郎)

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タートルの会の総会に参加して

埼玉県東松山市役所 堀越昭彦

 6月8日の「タートルの会」の定期総会に参加しての感想を書かせていただ きます。その日に参加した視覚障害者は、障害の程度がまちまちであり、また職 業に就いている人、復職を目指す人、あるいは無職の人等、様々でした。
 私は、昨年障害者手帳(色変で弱視)の交付を受け、いわば障害者1年生で す。参加者の自己紹介を聞いて、ハンディを負いながら、自分の能力を活かして 仕事に取り組み、生活している様子を伺え、勇気づけられました。
 仕事でパソコンを使われている人が多く、それに関する知識が豊富なのに驚 きました。パソコンは昨年購入して少し使って、今は埃をかぶっています。今の パソコンは、カーソル(矢印)を画面上のメニュー(絵・枠等)に合わせるだけ で希望する項目を選択でき、使いやすくなっています。ただし、私のような弱視 者には、一画面上に色々な情報があり、使いにくいのですが。
 ワープロは10年前にワープロ教室に通い、ブラインドタッチを覚えたので 、現在も職場で役立っています。これからはパソコンの時代だと思いますので、 1年ぶりにスイッチを入れようかと小さな決心をしました。
 講演では、厚生省の寺島氏から「障害者プラン」及び「次世代音声ワープロ 」の話がありました。障害者プランとは、平成8年度を初年度とする7カ年の障 害者対策の長期計画であるとのことでした。私はこのプランを聞くのは初めてで した。国や地方自治体が障害者対策に取り組んでくれるのはうれしいことです。 障害者1年生とはいえ、知らないことが多いので、タートルのように少しずつ歩 んでいきたいと思います。
 「タートルの会」の活動の輪が更に広がり、情報交換、交流の場が拡大して いくことを期待しています。最後にタートルの皆さん、それを取り巻く皆さん、 今後も宜しくお願いします。それからお礼を一言。ワークショップへ一人で行こ うとして四谷駅で迷っていた時、道案内をしてくれた人に感謝いたします。それ も2回ともです。四谷には優しい人が多いのかな。
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就労支援組織の実現を

(株)建築資料研究社 北神あきら

 私はこの6月から「タートルの会」の幹事をさせて頂いています。本来なら ばここでは自己紹介を兼ねて今後の抱負を述べるのが普通だと思いますが、私自 身の経験から表題のようなことを痛感していますので、敢えて書かせて頂きまし た。とは言っても、やはりまずは自分の素性を語らない訳にはいかないので、簡 単にお話します。
 私は現在46歳、池袋にある建築関係の教育と情報提供をしている会社で、社 内のOA化に関する仕事をしています。業務の半分はアプリケーションソフトを 使って社内の各部署から依頼されたソフトを作ることで、残りは雑多なことをし ています。視覚障害になったのは今から6年半程前で、それ以前は別の印刷会社 で経理の仕事をしていました。視力はごく弱い光覚で仕事、日常生活にはパソコ ンとオプタコンが不可欠なツールです。
 ところで、視覚障害になった当初、私は前の会社に復職するつもりでいまし たし、会社も復帰を認めていました。ところが、話が進むにつれてお互いの間に 食い違いが生じてきました。そして結局、会社に来ても仕事がないということに なり、復職を断念しなければなりませんでした。私はこの時のことを冷静に考え てみると、会社だけに問題があったのではないと思うのです。つまり、私も会社 も視覚障害について無知でした。仕事の内で何が出来て何が出来ないかと言うこ とも分かりませんでした。最終的には今の会社に紹介で就職できましたが、これ は幸運としか言いようがありません。私は後になって、もしこの時点で関係する 分野の専門家と当事者がチームを作って対処していたら、もっと違う結果になっ ていたのではと思いました。具体的には、まず歩行やADL等の生活訓練の指導 者、そして職業技術についての専門家、更に制度面や補助金等を含めて職場との 間を調整するアドバイザー、また場合によっては心理面のケアをするカウンセラ ー。これに本人と職場の責任者が加わってプロジェクトを作れば当事者が持つ不 安や疑問が少しでも解決し、復職を含めた就労が促進されるのではないかと思い ます。勿論、こうした制度は今でもあるのかもしれません。しかし、私の限られ た知識ですが、もしあったとしてもそれが有効に機能しているようには思えない のです。では現実問題としてどこの、誰が、どのようにしてこうした組織を作れ ばいいかは私にも分かりません。また、これを「タートルの会」の活動のテーマ とすることについても何とも言えません。ただ、こうした仕組みについて考えて いくことは必要ですし、誰かが始めなければ前には進まないでしょう。より多く の人が関心を持つことで私のプランなどよりずっと優れた仕組みが出来るでしょ う。いずれにしても能力がありながら就労の機会が与えられない視覚障害者がい ることは本人は勿論、社会にとっても損失だと思います。そして、ただ雇用しな い企業を批判するのではなく、それぞれの持っている能力を上手に活かせば視覚 障害者も十分戦力になるということを一つずつでも企業が理解できればと思いま す。そのために私の微力がお役に立つのならば、できるだけのことをするつもり です。
 「タートルの会」に参加させて頂いた最初の発言としてはいささか問題かも しれません。勿論、会が取り上げるさまざまなテーマにも同じ気持ちを持ってい きたいと思っています。また、私の考えについてご批判、ご指摘等あると思いま す。どうぞ忌憚のないご意見を賜われば幸いに思います。
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人生の乗換駅

オータックス(株) 松坂治男

 私は、網膜色素変性症で現在視力3級、視野2級、併せて1級の46歳です。 大学を卒業後、電子部品メーカーでスイッチの設計技術者として22年間勤めてき ましたが、不況によるリストラで昨年4月に退社しました。職を失い、この先ど のようにして生活をしていけばよいか、自分には何ができるのか、と悶々とした 日々を過ごしていました。頭に浮かんでくるのは「自分で車が運転できたら」「 暗い道でも自由に歩行ができたら」・・・と、できないことばかりで、だんだん 自分が小さくなっていくように思えました。まだまだ、人生は長いのに、これで はいけないと、楽しく、明るく過ごそうと、気持ちを切り替えることにしたとこ ろ、気持ちが楽になり、自分で手紙や文章が書きたくなりました。
 しかし、どこへ行ったら、習えるのか、情報が得られるのか探していた時、 横浜ラポールで、音声ワープロの講習会を知り、早速参加をしました。内容は、 AOKを使った点字入力が主で、点字の全くわからない自分には手も出せず、た だ説明を聞くだけでした。主催者の方から、「日本盲人職能開発センター」を紹 介され、早速訪問することになりました。
 日本盲人職能開発センターの先生から、パソコンの機種選び、音声ワープロ の種類、データベースソフトについても詳しく説明を頂き、かつパソコン本体と ディスプレーの間に「PCワイド」という機器を接続することにより、一般のソ フトも拡大表示させることも教えて頂きました。これで、読むのは「拡大読書器 」を使い、書くのは「パソコン」を使うことで、仕事ができるのではないかと希 望が出てきました。
 そこで自宅から30分ぐらいの所にある、以前の仕事と同種の会社の友人を訪 ねました。運よく再就職も決まり、通勤も明るい時間帯にできるようにと、特別 に「日の入り30分前退社」としてもらいました。
 また思いがけず、「日本盲人職能開発センター」の主催の「情報機器指導員 養成講習会」の受講をすることができました。今まで、頭の中で描いていたパソ コン操作が、音声の誘導によってできるようになり、夢のようでした。自分の力 で、ワープロソフトの起動から入力練習、文章の打ち込み練習、保存、呼び出し 、プリンターを使っての印刷と、一連の操作を4日間かけて、体験することがで きました。
 昨年の暮れ、NECのパソコンに「でんぴつ」をのせて購入しましたが、ど うしても一般のソフトである「一太郎」「ロータス」を使って同僚とのデータの 互換をとるためルーペ片手に悪戦苦闘していましたが、画面を拡大する「Zoo m Text」というソフトを紹介されて、パソコンをDOS/V機に乗り換え て現在奮闘中です。
 この一年間を振り返ると、退職 失業 再就職 パソコンとの出会い、そし てタートルの会への参加と、私の生活は目まぐるしく変わりましたが、「自分で 行動することにより道は開け、問題は解決する」ことを体験しました。これから も、常に前を見て一歩一歩前進していきたいと思います。

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【交流会】96/9/7

明日に向かって

近畿日本ツーリスト(株)本社総務部嘱託
(福祉情報センター ワークアイ・船橋 理事長)
阿部貞信

1.視覚障害を負って
私は人生途中にして失明して6年目、当時46歳、そして新しい職場を確立して から早4年目を迎えることとなりました。いろいろと「見えていたときの見えな かったもの」、「見えなくなって見えてきたもの」等、障害を受けた時の心の持 ち方が大きく変化していることに気付かずにはいられません。
 46年間、まさか自分が失明するなど思いもよらず、健康な、そして和やかな 生活でした。
 当時、私は経理を中心とした事務系の仕事をしており、管理職の立場で働い ていました。その頃、会社は子会社施策等でのリストラに入っていて、会社は勿 論、労働組合にも相談することができず、また家族にも心の苦痛はわかってもら えず、一人で悩む日々でした。
 朝起きて、「今日は、仕事で何かミスをしないだろうか」、「お客様の接待 で何か失礼をしないだろうか」等、いろいろ仕事上での不安なことばかりが頭を よぎり、出社することが大変な苦痛の毎日でした。家のローン、子供の教育費等 での経済的負担が多い私にとっては、自分の障害より家族をどうするかというの が一番の悩みでもありました。
 そんな中、私の部下の女子社員が、私の仕事の姿勢を見ていて、上司に報告 したのがきっかけで会社に視覚障害を告知することができました。このときこそ 、私のすべての苦痛の重荷は降ろされ、気持が本当に楽になったのです。今まで の別人の私が本来の自分にとり戻されたのでした。今、私はその女子社員に素直 に感謝しております。
2.仲間が私に勇気と希望を与えてくれた
 休職期間中、何の視覚障害に関しての情報もない私は、職安、市の福祉課の 勧めのまま栃木県の国立塩原視力障害センターの手続きを進めておりました。何 か不安を抱き、疑問をもちながら気がつくと、面接まで終わっておりました。
 そんなとき、日本点字図書館で同じ視覚障害の仲間に出会うことができまし た。この出会いこそ、希望を失っていた私に、将来に明るい希望を与えてくれた ものはありません。当時、私には点字の学習はどうでもよかったのです。仲間か らの情報は見るもの、聞くもの、みんな初めて知るものばかりでした。
 見えなくてもできる仕事、収入のこと、障害年金のこと、さらには、リハビ リのこと等でしたが、次から次へと提供されるそれらの情報は、私にはすべてが 新鮮で、的確なアドバイスでした。何か仲間に会っていると不思議と心が落ちつ き、勇気と希望がわいてくるのです。こんな気分は私の人生の中で初めてのこと でした。多くの仲間の皆さん、本当にありがとう。
3.適切な職業訓練を受けられて
 「盲人=あんま・マッサージ」の仕事しかないと思っていた私は、仲間から の情報の「音声パソコンを使った仕事があるよ」との一言は、今まで私が進めて いた進路を根底から覆すこととなりました。
 「これだ。私がやろうとしていることは。」と、日本盲人職能開発センター のパソコン訓練を受けることになりました。1年半の期間は短いものでしたが、 私はそこでお金では買えない大きな技術を得ることができました。しかし、何度 か復職交渉を重ねたものの、会社の理解がなく、復職は断念せざるを得ませんで した。
4.将来を見つめて
 障害者の合同就職相談会で、私は再就職を果たすことができました。現在、 近畿日本ツーリスト本社総務部に所属し、念願の音声パソコンを用いた仕事に携 わり、テープ起こし、またデータベースを使っての仕事をしています。
 仕事を進める上での課題も多く、私にとって何よりも早急に確立してほしい のは、ハード、ソフト両面での公的な「お助けマン」の存在です。いつでも、困 ったときに安心して職場でサポートを受けられるような公的な支援システムがあ ればと思います。
 一方、私は地域社会の中で、働きたくても働く機会のない在宅重度視覚障害 者のために、共同福祉作業所「ワークアイ・船橋」を今年4月に開設しました。 そこには職員4名、通所者12名の計16名が働き、全員視覚障害者です。
 仕事の内容は、音声パソコンによるテープ起こしの仕事で、みんな生き生き と頑張っています。
 特に、今日、行政が行う視覚障害生活訓練の中には、音声ワープロ訓練が取 り入れられ、視覚障害者が自由にワープロで文書作成ができるようになりました 。大変喜ばしいことだと思います。訓練を受ける側の意識としては、「私もこれ で仕事ができる」と希望をもつのが当然です。しかし、これらの受け皿はまだま だ整備不十分ではないでしょうか。この、当事者自らがつくりだした共同福祉作 業所を、中途視覚障害者の一つの職域として、また、中途視覚障害者への情報セ ンターとして、大きく発展させたいと思っています。

◇お知らせ◇
◎交流会=講演会・質疑・交流
 日時: 1996年11月16日(土) 
    午後2時から5時まで
 場所:日本盲人職能開発
 講演:「差別の社会心理学的解釈」
 講師:杉森伸吉(東京家政大学講師)
……………
◇編集後記◇
 1996年6月8日(土)、港区三田福祉会館にて、第1回の「タートルの会」 の定期総会を開催しました。当日は、50余名の参加があり、そのほとんどが懇 親会にも出席し有意義な交流会を持つことができました。
 最初に厚生省の身体障害者福祉専門官である寺島彰氏に特別講演をお願いし 、「障害者プラン」についての策定経過と概要、そして具体的施策のなかの興味 深い内容をいくつかを紹介して頂きました。紙数の都合で「定期総会から」の欄 に掲載できなかったので、特に注目を引く「市町村障害者生活支援事業」と「難 病指定患者へのホームヘルプ事業の充実」について、その主旨を簡単に紹介して おきます。
 [1]「市町村障害者生活支援事業」
 本年4月から施行されたものです。これは、地域に住む障害者がパソコンの こと、調理のこと、何でもよいのですが、何かわからないことや困っていること で教えて欲しい時に、助けてくれる、教えてくれる人を手配しますよという具体 的施策の一つです。
 [2]「ホームヘルプ事業の充実」
 網膜色素変性症が難病に指定されましたが、医療費の補助だけだったのを、 身障者にならない方と老人医療を受けられない方を対象に、ホームヘルプサービ スとかショートステイとか日常生活用具の給付といったサービスが実施されるこ ととなりました。(篠島永一)

中途視覚障害者の復職を考える会
タートルの会
会 長   和 泉 森 太
  〒160 東京都新宿区本塩町 10-3
  社会福祉法人 日本盲人職能開発センター
  東京ワークショップ内 電話 03-3351-3188 Fax.03-3351-3189


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