目次

今月の表紙写真
【巻頭言】 前監事 下堂薗 保
【3月交流会講演】 会員 六川 真紀 氏
【お知らせコーナー】
【編集後記】
奥付

今月の表紙写真

関西交流会の風景

【巻頭言】

『タートル25年を振り返って~近未来~』

前監事 下堂薗 保(しもどうぞの たもつ)

タートルは、みなさん知ってのとおり、1995年6月に発足した。「IT化」時代幕開けの年だった。令和元年の今年、24年だ。青年期を経て、成熟期に入ったようなものだ。

初代から三代までを草創期とすれば、近いうちに成熟期への世代交代のバトンタッチがあるだろうことが予想される。このタイミングで執筆の機会を与えられたので、この間の制度の変革を時系列的に懐古し、新制度の活用法等について私見を披露してみたい。

☆制度改革

(*印は、私が所属していた他の団体と協働したことを示す。)

1992(平成4)年2月
点字図書給付事業(価格差補償制度)

*1995(平成7)年4月
視野等級2級に基準改定(色変ひまわりの会)
※3級どまり報に、視野5度以内、視力1.0程度の患者の危険性理解を求め、該当する患者を医療機関に派遣、その結果視野2級が実現した。

*1996(平成8)年1月
「RP特定疾患指定」(色変ひまわりの会)
※国会予算委員会にて厚生大臣の前向き答弁で確定。

*2007(平成19)年1月
人事院「障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて」(通知)(雇用連)
※この通知によりRPの病気休暇取得と職業訓練制度が確定。

2007(平成19)年4月
厚生労働省「視覚障害者の的確な雇用支援の実施について」(地方局へ命令)
※「視覚障害者の雇用支援に当たっては、的確な対応を行うこと」との指導。

2011(平成23)年8月
「障害者基本法」改正

*2012(平成24)年4月
厚生労働省「ロービジョン検査判断料承認」(ロービジョン学会・雇用連)
※タートルのLV相談会は、具体的な実例。

2014(平成26)年2月19日
「障害者権利条約」国・批准、効力発生。

2016(平成28)年4月1日
「障害者差別解消法」施行。

2016(平成28)年4月1日
「改正障害者雇用促進法」施行。
※これら国会請願や当局との交渉では、無駄だろうなどと評されていた案件も、誠心誠意、真剣に訴えた結果、満額以上の回答を得た。

☆令和の時代、未来に馳せるもの

平成年間には、身近なものから、権利条約という巨大な岩が動いた。いわば弱者の絶対的願望だった偏見差別の禁止が国際的に確立し、国内的にも制度上大変貌を遂げた。事務的職種の就労継続では先端を走っているタートルの現実に鑑み、これらを念頭に未来に対する私見を羅列する。

1.まず、メジャーな団体に仕上げたい。
そのためには、国内全域において、「知恵と工夫、連携協力」のタートルイズムを浸透させるため、相談会、交流会(サロン含む)を全国展開し、啓発活動に注力する。

2.図書の発刊
中途失明者は、必要な時、必要な情報を手にできないが故に、いらざる不安感に襲われ、職場復帰に大事な時間をロスすることが散見される。こんなもったいない時間を解消し、情報を広く浸透させるため、第二弾「100人アンケート」や図書の発刊を推進し啓発活動に注力する。

3.大飛躍した制度に関し「就労継続」にマッチした合理的配慮の具体化である。
例えば、採用試験、合格後の就労環境、昇任昇格、研修、通勤支援等々十分な合理的配慮が払われているだろうか? 「就労継続」「職域拡大」につなげる方式の個々の事案に対する具体化である。

4.権利条約が指摘する「医療モデルから社会的モデル」の実現
権利条約では、過去社会は、障害は個人の問題として医学的に処理されてきたが、実はそうではなくて、社会の側が障害のある者を阻害しているとの立場だ。この考え方に沿い根本的に発想の転換に努め「就労継続・拡大」を図る。

【3月交流会講演】

「たくさんの方の支援を受けて復職~充実の毎日」

東京海上日動あんしん生命保険株式会社 営業企画部カスタマーセンターグループ
六川 真紀(ろくかわ まき)氏

六川真紀と申します。本日は年度末のお忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。
それでは、今日の講演の進め方ですが、まず2016年に制作したタートルのDVDをご覧いただきます。これは、私の復職の好事例やタートルの取り組み、活動などが描かれているDVDですが、そちらをご覧になった後に少し補足説明をします。また、パワーポイントを使って「楽しく生きるヒント」「コミュニケーション」「仕事のこと」等のお話をさせていただきます。では、DVDをご視聴いただきましょう。よろしくお願いします。

[DVD上映]

(ナレーション)
東京都にお住まいの六川真紀さん。毎朝、徒歩20分の距離を歩いて最寄り駅へと向かい、丸の内の勤務先オフィスへと通勤しています。
六川さんは視覚障害2級となったあと、障害者枠で現在の企業に入職。その後、視力低下の進行に加え、脳内出血による入院・治療など、様々な困難に直面しながらも現在の勤務先を離職することなく就労を継続しています。
視力に大きな変化が起こったとしても、慣れ親しんだ環境で、それまで培ってきたキャリアを生かした仕事を続けることが、精神的にも肉体的にもより良い選択であることは当然ですが、社会人になってから視覚障害を発症したいわゆる中途視覚障害者の場合、大多数の方はそれまで勤めていた企業を様々な理由で退職してしまっています。
中途視覚障害者が、それまで勤めていた企業を辞めることなく、職場復帰をするためにはどのような課題があるでしょうか。六川さんの職場復帰をサポートしたNPO法人の活動を通して考えてみましょう。

(ナレーション)
今は生き生きと仕事に打ち込んでいる六川さんですが、視力の低下によって仕事のミスが多くなった時期には、就労を継続することに大きな不安を感じていたそうです。

(六川)
目が疲れて、目も痙攣を起こすぐらいに大変でした。通常のPC画面が見えづらい状態で書類も見えにくくなってしまい、「とにかく、このままでは会社に勤めることはできない」「会社のお荷物になってしまう」ということで、すごく悩んでいました。

(ナレーション)
そして、六川さんにとって大きな出来事が起こります。脳内出血の発症から入院・治療のための5か月半の休職。就労の継続に大きな不安を抱えていた六川さんは、以前、眼科の主治医から紹介されていた支援団体のことを思い出し、コンタクトを取ってみました。

(六川)
それが、たぶんターニングポイントになったのかもしれないですね。思い出さずにそのまま落ち込んでいたら、きっと会社を辞めていたと思います。

(ナレーション)
認定NPO法人タートルは、各種セミナーや交流会の開催、ロービジョン就労相談会、タートルサロンなどを通して、不安やプレッシャーを抱え、悩んでいる視覚障害者の職場復帰をサポートする活動を続けている団体です。設立から三代目となる理事長の松坂さんに、設立のきっかけや活動の目的をお聞きしました。

(松坂理事長)
93年か94年ぐらいにかけて、たまたま国家公務員で、目が悪くなって「復職をしたい」という事例が出てきたのです。その方の支援をしようということでしたが、それが見事に復職を果たせたことがきっかけとなり、民間企業も入れた中途視覚障害者に対し支援をしようということで、「中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)」が1995年6月に発足しました。

(ナレーション)
そして、蓄積してきた数多くの事例・情報を定期的に書籍化して出版するなど、情報発信にも精力的に取り組んでいます。

(ナレーション)
六川さんが最初に参加したのも、当事者が集まり自由に意見交換、体験を語り合うタートルサロンでした。この日もタートル主催のサロンに参加するために、多くの中途視覚障害者の方が集まって来ました。会場となっているのは、長年タートルの活動に協力している社会福祉法人日本盲人職能開発センターです。
 社会福祉法人日本盲人職能開発センターは、視覚障害者の職業的自立と社会参加を支援するために設立され、会議等の音声データのテープ起こし作業を行う就労継続支援B型、資格取得までを視野に高い技術の習得と就職を目指している就労移行支援と事務処理、日商PC検定の試験実施、様々なセミナーの実施など、精力的に実行力のある活動を続けている施設です。

(ナレーション)
タートルサロンは、自分の視覚障害の状況、抱えている不安や悩みから、取り組んでいる趣味の話まで自由に話せる場です。この日も10人前後の参加者が気楽な雰囲気の中、率直な意見交換を行っていました。

(男性)
どんな状況で見えなくなったのですか。そのタイミングというのは。

(男性)
熱が出て、今まで見えていたものが、やっぱりドカンと全然見えなくなってしまいました。どうしても20年ぐらい同じ仕事をしていて、身体が完全に慣れているので…。

(重田理事)
まあ、そういうことも、もちろんありますよね。

(ナレーション)
タートルサロンに参加することにはどのような魅力があるのか、参加者にお聞きしました。

(男性)
やはり、話すことで自分がいま考えていることや、*会社の情報共有等ができて、またエネルギーがわいてきますね。

(男性)
「見えないから知らない」というのは多分にしてあるので。逆に、こちらに出て、知っている法律等を発信する感じですね。

(男性)
本当に人様々な状況があるのだと、打破するものを得ました。「様々な状況を伝え合っていけば」というのはなかなか多くないので、こういう場がとても貴重なのだということは感じました。

(ナレーション)
六川さんもタートルサロンに参加したことで、それまでの考え方が大きく変化したと感じています。

(六川)
サロンに初めて参加して、まず、いろいろな方がいらっしゃったのです。目の見え方もいろいろで、その方たちから苦労話や、「何を工夫して克服したか」ということもお聞きしました。それで、もしかしたら私も支援機器を取り入れたり、音声パソコンの訓練をしたり、歩行訓練をすれば、会社に継続就業できるかもしれないと、その時初めて思うようになりました。

(ナレーション)
この日はタートル主催のロービジョン就労相談会も同時に開催されていました。ロービジョン就労相談会はタートルのメンバーに加え、眼科医も参加し、相談者により具体的なアドバイスができる体制となっています。

(女性)
給食室で作ったものを一人何グラムと計算機で出して、それ掛けるクラスの人数分ということで、例えば35人なら…。

(ナレーション)
この日、相談に訪れていたのは長年学校給食の調理師として働いてきた方です。職場である学校が変更になったことで、調理や配膳の仕方が大きく変わってしまい、視力が低下した状態では難しい作業が増えていることに不安を感じているそうです。

(女性)
ずっとやってきたので、本当に慣れもあったと思うのです。

(ナレーション)
眼科医である高橋先生は当事者の状況、不安を直接聞いた上で、眼科医としての知見を踏まえた的確なアドバイスをされていました。

(高橋医師)
電気をつけた方が見やすいでしょう。

(女性)
そうですね。その次の事例というのは素晴らしい…。

(高橋医師)
そうですね。こういうふうにするわけです。そうすると、こういうものが、ものすごく良いのですよ。

(女性)
はい。

(下堂薗理事)
それこそOAコースか事務コースでしたか、そのどちらかに入るように。

(工藤理事)
それでも、ハローワークはね…。

(ナレーション)
タートルのメンバーからも、資格を持っている調理師という職種にこだわることなく、パソコンスキルを身につけて、事務職への転職も視野に入れた活動に切りかえるべきではないかというアドバイスがされていました。

(女性)
パソコンを使う仕事に自分が就けると思っていなかったので、全然考えていなかったです。事務が一番遠かったかもしれないですね。

(下堂薗理事)
方向づけができれば、それに乗っかってまっしぐらに行くだけですから。

(女性)
はい、思わぬ実りがありまして。方向性もしっかり決めていただいて、まだちょっと気持ちの整理がついていないところもあるのですが、今日のお話を前向きに検討したいと思います。

(ナレーション)
高橋先生も中途視覚障害者の職場復帰のために、眼科医が果たすべき役割の大きさを実感しています。

(高橋医師)
僕は、眼科医がやはり一番初めの大きな窓口だと思います。まずは、眼科のところで「目が不自由になっても仕事ができるのだ」というアドバイスを、そういうことをお話することが非常に重要なのです。いかんせん私たち医者が、そういうことについて親身になってご相談にのるのは、なかなか時間的に難しいですね。
そういうことからすると、タートルさんや職業訓練等の支援者に対して「繋ぐ」ということが重要ですね。そういう繋ぐための「ロービジョン検査判断料」が24年にできたのです。それをリハビリや学校に大きく繋ぐことで、日常生活や学校の授業などに対しても、もっともっと皆さんに「できるんだ」ということを、まず、医者から基本的には患者さんに対してお伝えすることですね。そういう意味で、タートルという受け皿は非常に重要ですね。

(ナレーション)
ロービジョン就労相談会を中心となって運営している工藤さんに、眼科医もメンバーに加えた相談会を実施することの意義をお聞きしました。

(工藤理事)
やはり僕たちだけの相談ですと、「手帳に何級と書いてある」ということだけを頭において相談をします。でも、眼科の専門の先生が入ってくると、視野であるとか、まぶしさであるとか、コントラスト感度を上げたらもっと楽にできるだろうとか、そういう専門的な知識や情報も入ってくるわけですね。
そこで眼科との連携が非常に大事になってきますし、産業医との連携が図りやすいことにもなります。眼科医の方から「タートルとして伝えたい情報」を伝えてもらうことができるのです。産業医と眼科医はお医者さん同士ですから、連携を取ってくれるのです。だから、眼科の先生から「在職者訓練もしくは歩行訓練を、その人に『配慮』として与えてください」という情報提供を書いていただくのです。

(ナレーション)
六川さんの勤める企業は大手保険会社。障害者雇用にはもともと積極的な取り組みを続けて来てはいましたが、六川さんのような「中途視覚障害者への対応は初めてのケース」と、相談にのった人事担当者の山田さんは言います。

(山田)
六川さんにとってあるべき就業のあり方を、本当に一から確認するような状況でした。グループ会社に全盲の社員がいて、パソコンに音声読み上げソフトを入れていたので、「どういうふうに使っているのか」とか、あとは上司の方や職場のメンバーにも話を聞いて、それをもとに六川さんの支援を考えていったような状況です。
会社としては「多様な働き方を認めあう」という大きな方針で取り組んでいますし、人事部門としては「社員に対して質の高いサービスを提供する」という思いを持って業務に取り組んでいます。六川さんが働きがいを持って生き生きと働けるような環境を作るという思いで、支援に取り組んでいたということでございます。

(六川)
「訓練の発表会があるので来ていただきたい」と言いましたら、きちんと来てくれましたね。会社のサーバーの中に音声ソフトを入れることがネックだったので、その方法を訓練施設で聞いていたようです。

(勤務先にて外線電話を受信)
(六川)
「東京海上日動あんしん生命営業企画部マーケティング室の六川でございます」

(ナレーション)
そして、六川さんは支援ツールの整備、在職者訓練の受講など、会社の協力も得ながら自らも積極的に行動し、職場復帰を実現させたのです。

(ナレーション)
現代社会において、どのような業種・業務で就労する場合でも、必須条件として身につけなければならないパソコンスキル。タートルの松坂理事長も中途視覚障害者のパソコンスキル習得の重要性を早くから提唱し、職場復帰の支援活動をする傍ら、日本盲人職能開発センターの非常勤講師として、視覚障害者にパソコン操作の指導も行っています。

(松坂理事長)
やはり就労を目的とするなら、効率的な入力の仕方ということですね。また、マウスではなくキーボードだけの入力の際にも、最も速いやり方があります。就労に向けたパソコン教室は、ある程度のところでは、やはり受けておいた方が良いなと。

(ナレーション)
六川さんは在職者訓練を受講して、画面読み上げソフトを使ったパソコン操作の基本技術は習得していますが、現在でも週一回ジョブコーチにオフィスまで来てもらい、普段の業務で使用するパソコンを使った訓練も続けています。訓練施設のパソコンで習得したスキルも、実際のオフィスのパソコンでは、システムの違い等から上手く操作できないことも多いと言います。ジョブコーチの井上先生に、六川さんの業務ではどのような課題があるのかお聞きしました。

(井上先生)
視覚障害の方がテキスト形式で行えばシンプルに読めるのですが、六川さんの業務はそれでは足りないのです。本当に様々な支援ソフトを上手く使ってお仕事ができるように、「キー操作はこのようにしたら上手くできそうです」という助言を、こちらに伺ってさせていただいています。

(ナレーション)
ここで少し、六川さんが活用している支援ツールを見てみましょう。

(六川)
私が使っている支援機器のご説明をさせていただきたいと思います。JAWSという音声パソコンのソフトが入っています。これを使用することによって、膨大なメールやレターを読んだり数字を読んだりしてくれますので、作業がとても楽になります。

(ナレーション)
パソコンには、このほかに画面情報を拡大表示するソフトも入っています。また、書類を見るための拡大読書器は、六川さん自身が試して使いやすいものを自ら選んで導入しました。デスクには色の濃いシートを敷くことで、書類等がどこにあるのかわかりやすくなるように工夫されています。
その他にもコントラストを強調して文字を見やすくするグッズやルーペなど、業務をよりスムーズにし、負担を軽減する様々な支援ツールを使いこなしています。直属の上司である藤本さんは、六川さんの働きぶりに今後も大きな期待を寄せています。

(上司)
我々マーケティング室全体のいろいろな経費処理であったり、備品管理であったり、そういったいわゆる総務全般の業務を担っていただいています。やはり、総務業務というとなかなか幅広いですし、いろいろな細かいところもありますが、ややもするとできて当たり前みたいな業務ではあります。ただ、業務範囲も非常に広いものですから、そこは漏れなく確実にやっていただくことが、非常に重要な業務となります。そういったところについては、引き続き六川さんに今まで以上に担っていただきたいと思っていますね。

(ナレーション)
六川さんの努力を、陰から支える形でサポートしてきた認定NPO法人タートルの松坂理事長は、当事者が自らアクションを起こし、職場復帰を実現することが大切だと語ります。

(松坂理事長)
本人の意志ですね。交渉ごとはこちらからアドバイスしますが、あくまでも判断は自分本人です。しっかり地面に足を付けて、自分で前へ進むということがモットーになります。中途で視覚障害者になるということは、それまで何年かのキャリアを積んでいるわけですね。キャリアの分は目に見えない財産ですので、職場に戻れることが一番雇用的にも良いのではないかということで、復職を目指すことが主体になっております。

(ナレーション)
そして、何より大切にしているのが職場復帰を果たしたあとの人生。

(松坂理事長)
職場復帰をして安心するのではなくて、それからその人が貢献することでその会社にも認めてもらわなくてはいけないことがあります。どちらかと言うと、「入りたい、入りたい」「復帰したい」ということで安心してしまう部分がありますが、「そこがゴールではないのだよ」と。「そこから定年まで働けて、初めてゴールを迎えられる」という具合に、皆には話しておくということですね。

(ナレーション)
社会人となってから視力が低下してしまうと、それまで視覚に頼って自然に行ってきた行動のすべてを見直さなければなりません。そのうえ、退職して新たな就労先を探すということは並大抵の苦労ではありません。六川さんのように、慣れ親しんだ職場に復帰できる中途視覚障害者は、まだまだ少ないのが現実です。それまで勤めてきた職場にそのまま復帰し、経済的にも自立した生活を維持することが最善であることは言うまでもありません。そのためには眼科医の協力、ジョブコーチなどのパソコン指導者の養成、支援ツールの進歩や助成制度の整備など、取り組むべき課題も数多く残されています。

(松坂理事長)
首都圏の環境と地方の環境は格差があるわけですね。その格差を無くしていかなければいけません。知っていて就職をしないなら別ですが、就職をしたくても情報がないために留まっている方々がまだいるので、そういった方々にも情報を流すような形で、なるべく格差をなくしていきたいというのが我々の願いです。

(ナレーション)
認定NPO法人タートルのような支援団体のサポート活動がもっと認知され、就労継続に不安を感じている中途視覚障害者の身近に広がることが求められています。多くの困難を乗り越えてきた六川さんに、職場復帰に対して不安を感じている当事者に向けたメッセージを語ってもらいました。

(六川)
私はたくさんの方の支援や教示を受けて、継続就業をすることができています。タートルや眼科医、産業医、あとは会社の人事や職場の上司、同僚、そして家族ですね。ここまで成長することができたのは、本当に皆さんのおかげだと思っています。
まず「一人で悩まないでください」というのをお伝えしたいですね。一人で悩んでいても何も変わることはないし…。ちょっと落ち込んでも、またすぐ立ち直って、自分から動いて各支援団体に出向いて相談をしてください。その支援団体にはいろいろな経験をした方がたくさんいらっしゃるので、一人で悩むよりも知恵を出し合った方が解決することもあると思います。必ず前進すると思いますので。
そして、私たちはやはりハンデを抱えているので、努力は日々続けていくということです。これは、いつも自分に言い聞かせていることになります。一人ではないので、皆で知恵を出し合って、明るく頑張っていけたらいいなと思っています。応援しています。

[DVD終了]

(六川)
ご視聴いただきまして、どうもありがとうございました。では、これからDVDの補足をさせていただきます。

私の簡単なプロフィールですが、静岡県熱海市で生まれました。その後、父の仕事の関係でいろいろ転々としましたが、千葉県の柏市に長らく住み、今は東京都の板橋区に在住をしております。

目の状態ですが、網膜色素変性症で手帳は2級。視野狭窄5度、最近はまぶしさも感じます。焦点が合えば正面も見えるのですが、なかなか全体の風景を把握することが苦手で、ここ半年ぐらいでぐっと視力が落ちたような気がします。視力は右が0.07、左が0.08というところです。

銀行時代のことに遡りますが、目が悪くなって仕事ができなくなり、退職したいきさつをお話させていただきます。銀行に勤めている時は人と接することが好きで営業職をしていました。事務は苦手で、机に向かって何かするのは大嫌いでした。仕事はきつかったのですが、お客様の家を訪問して投資信託や外貨や国債や保険等も販売していました。

営業職をしていたのですが、次第に印鑑照合ができなくなったり、マークシートのピンク色の文字が見えづらくなったり、書類の見落としがあったり、階段から落ちたりして、最後は交通事故に遭ってしまいました。そこで、自分の目の状態は普通ではないと思い始めたのです。それで眼科を受診するわけですが、その眼科の検査を経て病名を告げられました。その時にはものすごくショックを受けて、一日で奈落の底に落とされたような気持ちになりました。

ただ、銀行には「自分の目の状態を言わなければいけない」と思い報告をしたのですが、契約社員だったので更新を渋っている感じがわかりました。理由は「お客様の家に行く時に、また交通事故に遭ったらどうするのか」「書類のミスが増えては困る」ということでした。そこで、私は「何とかお客様を電話で銀行に呼んで、そこでセールスをしますから」と言って頑張りましたが、それもかなわずにやる気をなくして退職をしました。

そして、当時の眼科の先生から、今もお世話になっている順天堂大学病院の早川むつ子先生をご紹介いただきました。その早川先生は、私のその後の歩む道を大きく変えてくれた先生になります。

その後、就職のサイトに登録をしました。金融機関でずっと働いていたため、ファイナンシャル・プランナーや証券外務員、保険の資格を持っていたので、受けた会社はとりあえず受かりました。でも、自分としてはちょっと趣を変えようと思って、オシャレが好きだったのでティファニージャパンやデパート等も受けましたが、全部落ちてしまいました。

それで、東京海上日動に決めたのは、CSRをとても頑張っている会社だったからです。私は友達を乳がんで亡くしてしまい、10月~11月はピンクリボン運動といって東京タワーもピンク色になりますが、「乳がん早期発見のため定期検診を受けましょう」というキャンペーンに本格的に取り組みたいと思い、東京海上日動に決めました。

携わった仕事は総務全般ということで、庶務や経費、決算、予算管理、CSR等の仕事ですが、当然、障害者枠で入っていて、目が不自由だということでパソコン画面も大きくしていましたが、どうしてもミスが多くなってしまいました。

そして「これは、視覚障害者の仕事ではないな」と思いましたが、契約書を作る仕事をしていました。製本をして、収入印紙を貼って割り印を押し、会社のゴム印をきれいに押して整えるという仕事ですが、私に甘えがあり、いつも同僚に手伝ってもらいながらやっていました。でも、その時ちょうど自分一人でやらなくてはいけない状況があって、イチかバチか自分でやってみたところ、2回続けて間違えてしまいました。そして、私よりもはるかに若い20代の女性社員から、ものすごく怒られました。「2回もミスするなんて信じられない」「仕事が忙しいなら、他の人に頼めばいいじゃないですか」と、ものすごく怒られたのです。

それまでは、打たれ強い自分だと思っていましたが、その時はトイレで初めて泣きました。銀行の仕事ができなくて営業から事務職に転身したのに、そこでも仕事ができなくて惨めでした。「会社の役にも立たないどうしようもない自分だ」と、かなり自分を追い込んでしまい、口数も少なくなりました。

そして、その2週間後ぐらいに脳内出血を起こして救急搬送されました。5か月半の休職を余儀なくされるわけですが、その時も自分の仕事を誰かがやらなくてはいけないし、仕事が倍に増えているのかと思うと、すごく気が重くて申し訳ない気持ちになりました。そして、いよいよ復帰することになりましたが、「仕事はどうしようか」「通勤はどうしようか」と、ものすごく悩みました。

その時に眼科の早川先生から「タートルという良い団体があるから、一度そこに行ってみたら」と言われ、初めてタートルに電話をしました。その時に電話に出られたのが熊懐さんでしたが、ご相談をしていろいろと教示を受けることができました。また、DVDにあったようにサロンにも行きました。

それと同時に、並行して行われたのが、眼科医の早川先生が産業医に手紙を書いてくれたことです。その手紙の内容は「音声読み上げソフトの訓練をすること」「歩行訓練をすること」「支援機器を取り入れて、仕事のしやすい環境を整えること」で、これはいわば合理的配慮になりますが、産業医あてに手紙を書いてくれました。それを産業医がよく酌みとってくれて、会社の人事に繋いでくれました。そのようなこともあって、私は職場の上司や同僚にも理解をしてもらい、その連係プレーが功を奏して、今は職場復帰がかなっている状態です。

その後も会社に行きながら、週2回の在職者訓練として明大前の井上先生のところに通っていましたが、以後はジョブコーチとして会社に来ていただき、仕事のわからないところをピンポイントで教えてもらっていました。

ただ、私からも職場復帰をするにあたり「どうか仕事を続けさせてほしい」と、人事にお願いしました。その決めゼリフはこういうことです。「私は人生の途中で視覚障害を患ってしまいましたが、『定年までこの会社に勤めたい』と思って入りました。東日本大震災では、たくさんの障害のある方が逃げることができず亡くなりました。障害のある当事者の私だからこそ、保険会社でお役に立てることがあれば、是非やっていきたい」と言いました。

ちょっと照れくさくてかゆいような文句ですが、そういう熱い気持ちを申し上げたら、人事の方もわかってくれました。「では、職場復帰をして、これからも仕事を続けていきましょう。合理的配慮はできる限りします」ということになって、それが今も続いている状況です。

では、これからパワーポイントを使って「たくさんの方の支援を受けて復職~充実の毎日」というタイトルでお話をしたいと思います。3つぐらいの項目ごとに言葉を入れてあるので、簡単に説明をしながら話を進めていきたいと思います。

まず、休職から復職までの流れですが、本当に「眼科医」「産業医」「会社の人事」「職場へ」ということでした。その他には白杖訓練も受け、復職後には会社の仕事をしながら在職者訓練も受けたということで、私は「連携」をしたことが本当に良かったと思っています。

眼科医の先生はロービジョンケアをきちんとしてくれる先生でした。目が見えなくなったとしても仕事を続けられるように、そういうアイテムを生かし、自分も訓練をすることで「なるべく仕事をしていきましょう」という考えの先生でした。ですから、私はその先生にめぐり会えて、とてもラッキーだったと思っています。

では、「コミュニケーション能力を身につける/職場の人間関係をより良く/相手の立場になって考える」という項目です。コミュニケーションはなかなか難しいですが、できる方は本当に簡単にできると思うのです。例えば、当事者同士でお話をする時はすごくラクですよね。環境も同じだし悩みも一緒ということで冗談も言い合えるわけです。でも、私たちはそれだけではなく、一般の人たちや会社の人たちとも付き合っていかなくてはいけません。そこで、そういう時にどうすれば良いかと少し考えてみました。
やはり、基本は「笑顔で挨拶」だと思います。私は、銀行時代に「ビジネスマナー研修」というものがありました。表情筋を鍛えて笑顔を作り、口角を上げて挨拶とお辞儀をする、一人ずつ前に出されて、何度も練習をさせられました。それが生かされているのでしょうか、今でも人と話す時にはなるべく笑顔で話すように心がけています。「笑顔で挨拶」が、職場の人間関係をより良くしていくのかなと思います。

次に「相手の立場になって考える」ということです。以前、女性社員ですごく親切にしてくれる方がいました。自分が仕事のお膳立てをしたのに手柄を私にくれたり、お茶やご飯に一緒に行ったり、仕事をよく教えてくれたのですが、去年の4月から態度が急変したのです。急に冷たい感じがして、「もしかしたら、私に仕事を教えるのが大変なったのかな」「私の存在が嫌になってしまったのかな」と思いましたが、実はその方は精神的なストレスを抱えて病気になっていました。誰でもそれぞれの事情を抱えて生きています。 「相手の気持ちを酌み取る」というのは、とても難しいことだと思います。ただ、最後に「六川さんに親切にしてもらってすごく嬉しかった。長期に休んでしまうことになるけど、ごめんね」というメールをいただきました。同僚は、悩んでいたのに、私は自分のことばかり思って、なかなか相手の気持ちをわかってあげられなかったと、反省しました。ですから、相手の立場になって考えることが大切なのだと思います。

次に、「身だしなみを整えて清潔な外見/気配り、たまには差し入れもしてください/話しかけられるキャラになりましょう」ということですが、やはり清潔な外見が一番です。それだけで印象が良くなります。スーツを着ているなら靴まできちんと磨いて、ヘアスタイルにも気を使ってください。

タートルにいらっしゃる方はいつもオシャレなので、私も感心していますが、もしお友達に「ちょっとイケてないな、ダサいな」と思う人がいたら、是非教えてあげてください。身だしなみはとても大事だと思います。特に、障害のある人はどうしてもルーズになってしまう部分がありますが、身だしなみや清潔な外見はとても大事なのだと思います。

また、「香り」という問題もあります。満員電車の中ではタバコのにおいや、きつい香水のにおいは、とても不快な気持ちにさせます。パワハラ、マタハラ、モラハラに加え、スメルハラ(においのハラスメント)もありますので、香りにも十分気をつけていただければと思います。

次の「話しかけられるキャラになろう」ということですが、時々、差し入れという形でお菓子等を配れば、皆が「ご馳走様でした。どこに行ったのですか」などと話しかけてきます。そこから旬の話題などを盛り込んで、お話をされるのが良いかなと思います。

次の「わからないことを聞くタイミング」ですが、「わからないことをいつ聞いたら良いのかわからない」というのでしょうか、変な日本語ですみませんが、(相手が)忙しい時に聞くのはやはり避けていただきたいと思います。また、メールでわからないことを箇条書きにして聞くのも良いと思いますが、その時に「教えてください」とか「お願いします」という言い方をすると、自分勝手な言い方になってしまいます。「教えていただけますか」とか「お願いできますか」というように、少し柔らかい言葉でメールをすれば、相手も印象が良いと思います。

実は、私もパソコン操作が本当に苦手なのですが、パソコンでわからないことがある時は、Altとタブキーでその画面をすぐに開けるようにして、教えてくれる人の時間ロスにならないようにしています。ただ、これもコミュニケーションが上手く取れていれば、そんなことはないと思います。皆さんもご存じかと思いますが、私は非常に天然ボケのところがありまして…。あっ、ここ笑ってもらえませんね(笑)。
すみません、笑ってもらえるところだと思っていたので…(笑)。天然ボケのところがあるので、すごくトンチンカンな質問をしたりすると、「今はちょっと忙しいから後でね」と言われてしまいます。でも、「六川さんの言っていること、すぐに忘れてしまうから、またしつこく聞いてよね」というぐらいの感じで、コミュニケーションが取れています。やはり、普段から会話ができていれば、わからないことも上手く聞けるようになるかと思います。

そして、工夫すれば「できること」や「できないこと」をきちんと相手に伝えられますし、それをグループで共有することも大切だと思います。「できないし、苦手だから」と言っていても、いったん引き受けてしまうと、先ほどの私の契約書のような間違いを起こしてしまうこともあります。ですから、グループの皆さんにきちんと把握いただくことも大切だと思います。

システム関係や開発関係等の専門職を別にすれば、私たち視覚障害者が一般的に就職をするとなると、人事や総務グループに行くことが多いわけです。では、そういう時に何をすれば良いのでしょうか。例えば、企画であれば「ルーティン業務の他に何をすれば良いか」と考えると思いますが、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という言葉があって、これは多種多様な人たちが、――個性として言えば私たち障害者のことになりますが――、そういう人たちが「できることや得意分野とすることを行っていく社会」という意味なのです。

そこで、いくつか考えてマトリクス表というものを作ってみました。簡単な表で、縦と横線の格子の表になっています。セルAは「項目」、Bは何のために行うのかという「理由」、Cのところに「目標の期限」、Dのところに「難易度」、Eのところは「達成・未達成」というように書いていきます。

まず、行ったことには「①マッサージルームの開設」があります。何故それを行ったかというと、「健康志向の昨今、社員の健康増進とヘルスキーパーの雇用を」ということで、いろいろな会社にヒアリングをして企画も作りました。「私に受付やカルテの管理をさせていただけませんか」と人事に発信したのですが、これはあえなく撃沈しました。今はそういう時期ではないというのか、現在は部屋を縮小しているそうで、あえなく却下されてしまいました。

次に「②盲学校生徒のインターンシップ」というのを行ってみました。これはグループ会社が実施しているものに協力しています。盲学校の生徒は学生時代になかなかアルバイトができず、いきなり就職をして社会人になるため、会社生活や社会経験に関しては未経験なのです。だから、就職をする前に会社に来てもらって、「どんな所なのか」「仕事はどんなふうにするのか」等を知ってもらうため、実際に机の前に座って体験をしてもらいました。

私のところに来たのは男子学生でした。「筑波技術大学に行って、システム関係の仕事をすることだけを考えていた」と言っていましたが、一般企業にも様々な企画やCSRがあること、保険会社やメーカーにも様々な仕事があることがわかり、少し視野を広げて「将来、なりたいものにもいくつか選択肢のあることがわかった」という感想を持ってお帰りになりました。

そして3番目になりますが、これは私が一番のヒットとして行ったことになると思います。「障害のある社員の組合」を立ち上げました。各グループに障害のある方がいますが、職場では言えない悩みもありますし、「合理的配慮をしてほしいが言えない」「なかなか話す人がいない」ということなので、障害者同士でタートルサロンのようなものを作りました。いろいろとお話をして、友だちができるような話し合いの場を設けました。

私が前例を作ったのですが、上肢障害で手首が上手く動かないため「マウスを使うのが非常に大変だ」という方がいらしたのです。そこで人事に言って簡単に動くマウスを調達してもらったところ、「仕事がやりやすくなった」と言っていました。また、下肢障害の方には、その人が座りやすい椅子を調達してもらいました。

特に、合理的配慮をよく考えてもらうことで、仕事のしやすい環境が整えられました。これは大変良い試みだったと思います。また、グループ会社にも途中から目の悪くなった方がいらっしゃいました。そこで、その当人と上司の方が私の席まで来て、「(PCは)どういった使い方をしているのですか」と聞いてきました。その後、その方も音声読み上げソフトと拡大読書器を導入してもらえたということで、それを聞いた時はとても嬉しく感じました。

他にも、人事グループに勤める方ならCSRの促進や人事、人権啓発研修の企画等をされても良いと思います。今、ちょっと思い浮かべたのですが、店舗型のお店に従事されている方なら、耳マークを表示した小さいカレンダー状のものを設置することで、聴覚障害の方がいらした時に筆談をすることができます。そういったものも取り入れ、人のために何かやってあげる形でCSRの促進をされるのも良いかと思います。

次に、「楽しく生きるためのヒント」ということで考えてみました。私たちは視覚障害者なので、それなりの自覚を持ちましょうということです。もちろん、身だしなみを整え、白杖を持つことを私は皆さんにお願いしています。

実は、白杖を持っていなくて失敗したことも多々ありました。車椅子の人に思い切りぶつかってしまって、その方にものすごく注意を受けました。「どこを見て歩いているの」「周りをしっかり見て歩いてくださいね」と言われたのです。言い訳もできず、その時は杖も持っていなかったので、ただ謝ったわけですが、その方がケガをしてしまったら、私は加害者になってしまいます。あらぬトラブルから身を守るためにも、相手とのトラブルを避けるためにも、白杖を持った方がよろしいかと思います。

それでも、どうしても人とぶつかってしまったり、言い争いになってしまうことがあるかもしれません。そういう時は「アサーティブ・アンガーマネジメント」といって、怒りをコントロールする力を身につけておくと良いと思います。怒ってもその怒りを爆発させず、いったん落ち着いて第三者等を入れて話し合えば、冷静に対処することができるのです。

それでも、捨てゼリフを吐いて行ってしまう人がいるかもしれません。しかし、そういう人はレベルの低いかわいそうな人だと思ってください。きちんと話し合いができず去って行く人は、気持ちに余裕のない人です。私たちがレベルを上げて、「そういう人とはちょっと違う」と思っていれば、穏やかな気持ちになって、少しは怒りも和らぐのかと思います。ですから、「アサーティブ・アンガーマネジメント(怒りをコントロールする力)」についても考えてみてください。

そして、「自分の目標を定めること」というのはとても大事です。ただ、あまり頑張りすぎると「今日はこれができなかった」「こういう目標があったけれど駄目だった」と、落ち込んでしまう場合もあるかと思います。軸がぶれて少しぐらいさぼったとしても、あまり気にしないでください。また、次の日にやれば良いわけです。そういうことで悩んでばかりいると、精神的に余計疲れてしまい、前に進むことができなくなると思います。ただ、頑張る時期は誰にでもあると思いますから、そういう時はしっかり前に進んでいただければと思います。

次に「趣味を持って仕事や生活との切り替えをしよう」ということですが、今日来ていらっしゃる方もたくさん趣味を持っていらっしゃると思います。障害者スポーツや音楽など、いろいろとされている方が多いと思いますが、ちょっと嫌なことがあっても趣味を持っていれば、明日への活力になります。適度な汗をかいたり楽しい思いをしたりすれば、その日のビールも美味しいと思いますから、是非趣味を持って楽しく過ごしていただきたいと思います。

次は「困っている人の力になれるように考動(こうどう)しよう」というものです。大震災のあと、マラソンクラブに入っているヘルスキーパー方は、被災地にマッサージに行っていました。また、晴眼者の方になりますが、私の美容師さんは仮設住宅に髪のカットに行っていました。今でも続けているそうですが、そういう形で継続して行うのは、すごいことだと思います。

私は、合唱団のチャリティーコンサートを行い、寄付金を募って現地に寄付する活動をしています。他にはiPhoneやiPadを教えてくださる方もいるし、目が悪くなってからは「自転車は乗れない」と思っていましたが、タンデム自転車で、2人乗りで自転車に乗れることを広め、自分で実践されている方もいらっしゃいます。

他には、骨髄バンク登録をお願いするため、Tシャツやたすき姿でマラソンをする方もいらっしゃいます。視覚障害者の留学生を受け入れている方もいらっしゃいます。そういう形で、人のために力になっている方は、当事者の私たちにも大勢いらっしゃるのです。人のために何かをすれば、自分たちも幸せな気分になれますから、是非これは皆で考えてやっていきたいと思います。この「困っている人の力になれるように考動(こうどう)しよう」の「こうどう」という字は「行く、動く」ではなくて、「考えて動く」という言葉にしてみました。

次の「人とのご縁を大切に繋いでいこう」ということですが、これは今日一番のポイントになるかと思います。この世の中、IT産業が盛んになることで、アプリ開発やユニバーサルデザインの取り組みなど、ハード面はかなり豊かになって来ました。私たちが一人歩行できるようなアプリを開発してくれるところもあります。そして、ソフト面でも声をかけてくれる人が多くなってきました。たくさんの力やサポートで、私たちは楽しいこともできていると思います。そういう方たちとのご縁を大切に繋いでいただきたいと思います。

最後になりますが、こちらに表を作ったのでご説明します。真ん中に「タートルマーケット」という少し大きめの分子というか、惑星でもいいのですが、丸い円があります。そして、周りに小さい原子、小惑星と言っても良いものがあります。その小惑星には「休職」、「相談」、異なる病気の「異疾患」、「サロン」があり、「体験談」があり、「交流会」や「訓練」、「メーリングリストの活用」があります。また「第2会議室」もあります。これはちょっと大きめの円にしてみました。皆さんが一番重要視されていると思いますから(笑)。

あとは「異業種」の方たちがいらっしゃいます。いろいろな職業を持っている方がいらっしゃるので、そこで友だちができます。また、いろいろな「イベント」があります。「サイトワールド」や「アメディアフェア」、あとは「馬場村塾」や「BABAフェス」、「アイフェスタ」等、いろいろなイベントに私たちが行くことによって、そこで情報をたくさん仕入れることができます。

中には「スマートグラスの体験会」もありましたし、「視覚障害者との接し方講座」もありました。そういう小惑星が次々と中惑星の「タートルマーケット」の中に入って行くわけです。そして、そこで解決や*受容ができて、生活の向上にも繋がっていくわけです。このようにタートルには相乗効果や連携があり、ものすごく素晴らしいことをしているのだと思います。

これは本当に人と人との思いとして、「人が幸せになってくれるように」という思いから行っているものです。東京はまだ良いのですが、中には福岡や大阪、新潟のようにタートルスッタフがほぼ1人で担って交流を図り、地方で悩んでいる人の助けになる形で活動されているところもあります。地方はまだイベントも少ないし情報も入りにくいわけですが、これを機会にもっと情報を仕入れることができるように、地域格差を無くせるような活動をしていけたら良いと思っています。今日は新潟の方もいらっしゃいます。あとで自己紹介があると思いますから、よろしくお願いします。

今後、世の中には多種多様な人たちが集まり、協力をし合って共存し、一緒に暮らしていくことになると思いますが、会社に障害があっても受け入れてくれるようなフィールドがあれば良いと思います。私も目の障害を患い、とても落ち込んで投げやりになった時もありますが、各種支援団体に行ったり、イベントに参加したり、合唱団の仲間と出会ったり、マラソンクラブに入ることで、多くの知り合いを得ることができました。本当に良いご縁ができたと思いますし、かけがえのない友人を見つけることもできました。

これからも様々な人たちと共存し、少しでも楽しい毎日を過ごせるように、皆さんと協力していきたいと思います。これで私の講演を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【お知らせコーナー】

タートル事務局連絡先

Tel:03-3351-3208
E-mail:m#ail@turtle.gr.jp
(SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

ご参加をお待ちしております!!(今後の予定)

◎タートルサロン

毎月第3土曜日  14:00~16:00
*交流会開催月は講演会の後に開催します。
会場:日本盲人職能開発センター(東京四ツ谷)
情報交換や気軽な相談の場としてご利用ください。

※ご注意:
7月20日(土)のタートルサロンは、日本盲人職能開発センター主催の全国ロービジョンセミナーと日程が重なるため、中止とさせていただきます。

◎交流会(予定)

8月、11月、2020年3月(いずれも第3土曜日)
※例年9月開催分は、諸般の事情により、8月に繰り上げ開催の予定です。
※詳細は決定次第お知らせいたします。

一人で悩まず、先ずは相談を!!

「見えなくても普通に生活したい」という願いはだれもが同じです。職業的に自立し、当り前に働き続けたい願望がだれにもあります。一人で抱え込まず、仲間同士一緒に考え、気軽に相談し合うことで、見えてくるものもあります。迷わずご連絡ください!同じ体験をしている視覚障害者が丁寧に対応します。(相談は無料です)

正会員入会のご案内

認定NPO法人タートルは、自らが視覚障害を体験した者たちが「働くことに特化」した活動をしている「当事者団体」です。疾病やけがなどで視力障害を患った際、だれでも途方にくれてしまいます。その様な時、仕事を継続するためにはどのようにしていけばいいかを、経験を通して助言や支援をします。そして見えなくても働ける事実を広く社会に知ってもらうことを目的として活動しています。当事者だけでなく、晴眼者の方の入会も歓迎いたします。
※入会金はありません。年会費は5,000円です。

賛助会員入会のご案内

☆賛助会員の会費は、「認定NPO法人への寄付」として税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルは、視覚障害当事者ばかりでなく、タートルの目的や活動に賛同し、ご理解ご協力いただける個人や団体の入会を心から歓迎します。
※年会費は1口5,000円です。(複数口大歓迎です)
眼科の先生方はじめ、産業医の先生、医療従事者の方々には、視覚障害者の心の支え、QOLの向上のためにも賛助会員への入会を歓迎いたします。また、眼の疾患により就労の継続に不安をお持ちの患者さんがおられましたら、どうぞ、当認定NPO法人タートルをご紹介いただけると幸いに存じます。

入会申し込みはタートルホームページの入会申し込みメールフォームからできます。また、申込書をダウンロードすることもできます。
URL:https://www.turtle.gr.jp/hpmain/

ご寄付のお願い

☆税制優遇が受けられることをご存知ですか?!
認定NPO法人タートルの活動にご支援をお願いします!!
昨今、中途視覚障害者からの就労相談希望は本当に多くあります。また、視力の低下による不安から、ロービジョン相談会・各拠点を含む交流会やタートルサロンに初めて参加される人も増えています。それらに適確・迅速に対応する体制作りや、関連資料の作成など、私達の活動を充実させるために皆様からの資金的ご支援が必須となっています。
個人・団体を問わず、暖かいご寄付をお願い申し上げます。

★当法人は、寄付された方が税制優遇を受けられる認定NPO法人の認可を受けました。
また、「認定NPO法人」は、年間100名の寄付を受けることが条件となっています。皆様の積極的なご支援をお願いいたします。
寄付は一口3,000円です。いつでも、何口でもご協力いただけます。寄付の申し込みは、タートルホームページの寄付申し込みメールフォームからできます。また、申込書をダウンロードすることもできます。
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≪会費・寄付等振込先≫

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ゆうちょ銀行
記号番号:00150-2-595127
加入者名:特定非営利活動法人タートル

●他銀行からの振込
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
支店名:〇一九店(ゼロイチキユウ店)
支店コード:019
預金種目:当座
口座番号:0595127
口座名義:トクヒ)タートル

ご支援に感謝申し上げます!

本年度も多くの皆様から本当に暖かいご寄付を頂戴しました。心より感謝申し上げます。これらのご支援は、当法人の活動に有効に使用させていただきます。
今後とも皆様のご支援をお願いい申し上げます。

活動スタッフとボランティアを募集しています!!

あなたも活動に参加しませんか?
認定NPO法人タートルは、視覚障害者の就労継続・雇用啓発につなげる相談、交流会、情報提供、セミナー開催、就労啓発等の事業を行っております。これらの事業の企画や運営に一緒に活動するスタッフとボランティアを募集しています。会員でも非会員でもかまいません。当事者だけでなく、晴眼者(目が不自由でない方)の協力も求めています。首都圏だけでなく、関西や九州など各拠点でもボランティアを募集しています。
具体的には事務作業の支援、情報誌の編集、HP作成の支援、交流会時の受付、視覚障害参加者の駅からの誘導や通信設定等いろいろとあります。詳細については事務局までお気軽にお問い合わせください。

タートル事務局連絡先

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【編集後記】

全国のタートル会員の皆様、いかがお過ごしでしょうか?
新しい元号が伝えられてから少しずつ時を経て、だいぶ「令和」にも慣れてきたような気がします。4月辺りは、「平成」という時代を振り返る企画がたくさん報じられて、懐かしさもあれば、思い出したくないこともあり、改めて一つの時代だったと感慨にふけることもありました。30年前、読者の皆様は何をしていましたか? 当時は目が見えていたという方もいるでしょう。まだ生まれていないという人もいると思います。そうそう、タートルはまだ生まれていなかったですね。タートルはまだ20代の若さです(笑)。

現在は、IT環境も整い、法律なども整備され、30年前と比べて視覚障害者の就職事情も変わったと思います。これからももっとよくなっていくでしょう。そして時がたち、振り返ると「令和」の時代はまだまだだったと思うに違いありませんね。そして今、早くも、1年の半分が過ぎて、あっという間に新元号という響きも過去のものになりつつあります。そう、確実に季節は私たちの目の前を通り過ぎていくのです…。

6月の総会を無事に終え、タートルはまた一つ年齢を重ねるわけですが、これからも皆様のお力添えをいただき、充実した活動をしていきたいと考えています。

さて、今回の「情報誌」はいかがでしたでしょうか? これからも、会員の皆様に楽しんで頂けるような誌面にしていきたいと思っております。どうぞ宜しくお願い致します!!

(市川 浩明)

奥付

特定非営利活動法人 タートル 情報誌
『タートル第47号』
2019年6月6日発行 SSKU 増刊通巻第6455号
発行 特定非営利活動法人 タートル 理事長 松坂 治男