視覚障害者の就労の現状と課題

1997年1月31日
北星学園大学 文学研究科 社会福祉専攻
 吉田 重子

第6章 課題の分析

第1節 進路選択段階の課題

1.盲学校生徒の職業に対する意識

 全国視覚障害者庫用促進連絡会(以下「雇用連」)が全国の盲学校高等部普通科の生徒を対象に、1986年に行った職業意識に関するアンケート調査によると、(表4)の通りである。

(表4)盲学校高等部普通科生徒の職業意識調査
<問1>あなたは今進路について、どう考えていますか。
    次のうちから一つを選んでください。

                盲学校高等部普通科
                1年  2年 3年
理治療(理学療法を含む)
関係の課程に進みたい      41%  46% 61%
音楽(ピアノ調律を含む)
関係の課程に進みたい      4%  6%  4%
大学(短大・専修学校を含む)
に進みたい           22%  20% 14%
高3で卒業して就職したい
(訓練校入所などを含む)    9%  12%  13%
まだ決めていない        24%  16%   8%

<問2>なぜ理療関係の課程を選びましたか
      (複数回答。数字はパーセント)
自分に向いてると思うから         22.9%
生活を安定させるためには、
これしかないと思うから          44.1%
みんながそうするから           33.0%
先生や親に勧められて           33.0%
その他                  33.0%

<問3>理療課程を卒業後は、次のどれを選びたいと思いますか
  自宅開業           18.0%
  病院勤務           36.0%
  施術所勤務          6.0%
  民間企業のヘルスキーパー   4.0%
  老人ホームの機能訓練職員   2.0%
  理療科教員          7.0%
  病院・施設の理学療法師    6.0%
  その他            4.0%
  まだ考えてない        17.0%

<問4>なぜ一般大学などを選びましたか
             (複数回答数字は%)
新しい職業に就きたいと思うから  40.2%
知識や教養を付けたいと思うから  42.0%
理療がいやだから         17.8%
先生や親に勧められて       17.8%
その他              17.8%

<問5>一般大学などの卒業後は、次のどれを選びたいと思いますか
盲学校の普通科教員        15.2%
一般校の教員           12.2%
図書館職員            7.1%
福祉施設の職員          12.2%
国家、地方公務員         9.7%
弁護士、裁判官など        2.5%
コンピュータプログラマー     6.1%
電話交換手            1.0%
録音タイピスト           0%
その他              17.8%
まだ考えていない         16.2%
      (1986年雇用連調査より抜粋)

 ここで注目したいことがいくつかある。まず、進路に関する考え(進路希望)を学年別に比較してみると、理療関係の課程(三療)は学年を追うごとに、41%、46%、61%と、割合が上昇する傾向を示し、これは、3年生になると、「現実的な選択」を行うことを示しているといってよいだろう。また、大学等への進学希望は、22%、20%、14%と、減少し、初めの希望を貫くことの難しさを示している。次に、なぜ理療関係の課程を選ぶか、との問いに対し、「生活を安定させるためにはこれしかない」と「先生や親に勧められて」が、「自分に向いていると思うから」という、いわば、適正を考えての希望に比べ、はるかに多いことがわかる。また、「理療課程卒業後は、次のどれを選びますか」の項目で、「まだ考えていない」と答えた生徒が17%(76名)と約2割を占めていることは、三療の課程を選択すると決めながらも、その先のことを具体的に考えることができないという現状を示しているのではないか。さらに、「なぜ一般大学などを選びましたか」と、進学希望者の意識を尋ねた項目で、「理療がいやだから」と答えているものが17.8%(30名)もいることには、注目すべきである。それにしても、大学等への希望者の、卒業後の進路先の項目の、なんと狭く、乏しいことか。この調査は、ちょうど10年前に行われたものだが、今指摘したいくつかの点に関しては、現在もそれほど状況が変化しているとは考えられないので、かなり妥当性のあるものと推測する。
 また、殿山が、専攻科生を対象に、1994年に行った調査によると、(表5)の通りである。

 表5 専攻科生へのアンケートより(1994年12月実施)
(問A) あなたは専攻科への進学について、どのように思っていましたか。
               (数値は人数、%の順)
(ア)ぜひ進学したいと思っていた   13人 19.1%
(イ)進学しようと思っていた     17人 25.0%
(ウ)あまり気が進まなかった
   (できれば進学したくない)   16人 23.5%
(エ)「進学したい」とか「いやだ」
   とか特になにも考えていなかった 10人 14.7%
(オ)絶対にいやだと思っていた     5人 7.4%
(カ)その他              5人 7.4%
   無回答              2人 2.9%

(問B)「理療」をよく知ったうえで進学を決めましたか。
(ア)知っていた           22人 32.4%
(イ)あまりよく知らなかった     37人 54.4%
(ウ)全く知らなかった         7人 10.3%
(エ)その他              1人 1.5%
   無回答              1人 1.5%

 さらに、岡村によると、「私の所に統合教育を受けてきた高校生や盲学校の高等部の生徒が相談に来ることがあります。統合教育を受けた人は、『私は就職したいがどういう大学に行ったらいいか』と言います。盲学校の生徒は、『理療科以外の職業に就きたいが、どうしたらよいか』と相談してきます。私自身が理療を教えているので、『私より普通科の先生である進路指導の先生に相談したらどうか』と言うと、『それは、よくわかっているが、いくら相談しても、余分なことは考えずに理療科へ行くことを一生懸命やらないと理療科にも落ちてしまうぞ、と言われて理療科以外の職業については教えてくれない』と答えます。また、つい最近の例では、『理療科の教育は終わって病院に就職したけれども、どうしても自分には向かない。何とか理療以外の職業に就けるように指導してほしい』というのがありました。このような例に接していると、いったい盲学校はどうなっているのかという疑問にかられるので、一言感想を述べました」(注1)
 前述のアンケート結果と、この発言から推測されることは、盲学校の生徒の中には、(1)三療について、あまり知識や情報を持たないままに、その専門課程に進んでいる者が多いこと、(2)三療以外の職業に関する情報(選択に関する情報も含めて)を持たないままに、進路選択を迫られている場合が多いことである。このような結果は、進路指導上の問題として、大変重要である。生徒の意識と、進路選択との関わりについて、ある進路指導担当教諭は次のように語った。「どうしても各担任教師によってばらつきがある。進路指導の一貫として、高等部普通科在学中に、専攻科の授業や臨床実習を参観させ、三療に対するしっかりとした認識を育てる必要がある」これは、一つ重要なことだと考える。併せて、三療以外の進路、つまり、今までに、どのような職種があり、どのような訓練施設があるのか、情報を流す必要がある。事例6のFさんは「日本ライトハウス以外に訓練施設のことは知らなかった」と語っているのは、やはり問題である。
 また、前述の二つの視点から、概して盲学校出身者で三療業以外の進路を選択した者の多くは、「三療には就きたくない。三療以外のなにかを」というネガティブな意思からスタートし、むしろそれを原動力として、その「なにか」を、の意識を持ち続け、前向きなものへと転換することができた者である。しかし、一方では、三療を選択する、あるいは、三療以外の進路を選択する、いずれにしても、自分が選択するコースの内容を、しっかりと見極め、自らが関わっていこうとする職業に対する意識が希薄であり、積極的な姿勢が欠けている生徒も少なくないようだ。このことは、事例8のHさんの退職に至った問題を思い起こさせる。「専攻科へは絶対に行きたくないという強い意志で進学せず、公務員試験の準備をしたり、障害者職業センターの職業講習を受講し、ワープロの技能を習得したにもかかわらず、その後「自分は、なにをやりたいか」ということについて、一向に意識を深めることができなかった。このあたりの事情について、永井の次のような指摘は重要である。「小さいころから、受けるという経験だけで、なにか人のために役立つという経験が少ないので、人間性が云々ということがありましたが、私は視覚障害者は小さいときから個として尊重されているという経験が少ないというか、あまりにも否定的な場面に出会うことが比上に多いためだと思います。その一つの具体的な現れが職業選択ですが、現在だって理療以外にほんとうに選べるのだろうか、という状況があります。すぐに改善できることではありませんが、小さいときから社会生活の中で、個として尊重され、主体的にものを考えられるような状況を作り出していくことが、人のために役立つということを育てていきます。合わせて、家庭の中で、一般社会の中で、職業選択の中で、それが行われていかなければならないと思います。」(注2)盲学校生徒の職業に対する意識の問題は、盲学校の進路指導の体制上の問題のみにとどまらず、永井が指摘するように、幼少期からの長い間の積み重ねによって育て上げられてきた社会性、個の確立の問題として捉えることができる。

2.盲学校教育における進路指導

 盲学校における進路指導の体制は、ホームルームなど、教育課程の中に位置づけられている。
 ある盲学校における進路指導のしおりによると、進路の決定に当たって、(1)自分を知ること(2)積極的に行動すること(3)将来に目標を持つこと、を意識づける。進路選択のプロセスとして、(1)自己理解、(2)職業についての理解、(3)自分の希望の明確化、(4)自己を生かす職業選択、の段階にそって述べられている。また、このしおりには、三療という職業の内容やその他の進路先の情報が若干掲載され、さらに、過去何年かの進路状況が盛り込まれている。盲学校では、常に新しい情報をキャッチし、必要に応じて、このしおりを書き換えながら、より有効にこれを利用する必要があるだろう。
 しかし、ここにつけ加えておかなければならない一つの視点がある。これまで、盲学校生徒の職業や自分の進路に対する意識の希薄さを指摘し、その原因として幼少期からの個としての確立の不十分さや情報の不足を指摘し、自己認識や目標を持たせる進路指導の必要を説いてきたが、進路指導を充実させ、「目標を持て」といくら大きな声を発しても、どこか不十分である。それは、一般の高校生が、どのようにして職業や自分の進路に関する意識を養っているか、どのようにして、社会の情報を得ているかという点にある。学校社会と、一般社会(ここでは、職場社会)との間には大きな隔たりがある。高校生の多くは、学校社会に居ながらにして、アルバイトという形で職場社会を眺め、体験し、情報を得る。ファーストフード店のアルバイトで敬語を覚える時代、といわれるくらいである。このような現象をすべて望ましいものと捉えることはできないが、これは、まさしく、職業、自分の進路に対する意識を育て、情報を得る大きな場となっていること、そして視覚障害者にとっては、いわゆる「現場実習」と表現されるもの以外には、そういう場を得る機会が皆無に等しいことを、教師は意識すべきである。視覚障害者として生きていくための自覚や情報に伴って、一般社会の中で生きていくための自覚と情報が必要であるということは、一見あたりまえのことだが、案外忘れられがちな視点である。
 また、具体的な課題として、近年、視覚障害者の文字情報の処理(主として、普通文字の読み書き)手段としてパソコンが用いられるようになっている。これは、公務員、一般企業いずれに就職した視覚障害者も、その多くが職務上これを利用しており、皆一応に「少なくとも、音声ワープロの使い方は、盲学校在学中に身につけておくべきだ」と語っている。

第2節 就職の実現化における課題

 一人でも多く、視覚障害者の就職を実現させるためには、企業への啓蒙活動や、個々のケースに応じた運動、一人一人の地道な努力、どれをとっても重要である。しかし、それらに先立って、視覚障害者の就労に対し、国や地方公共団体の対応は、どうなっているのか。本節では、公務員試験や教員採用試験をはじめとする採用試験の点字化、という機会の平等の保証の視点から言及してみる。

1.公務員試験、および、教員採用試験の現状

 1974年、東京都で初めて、点字試験が実施され、2名の視覚障害者が採用された。以後、東京都は、毎年福祉指導職で点字試験を実施しており、現在20名ちかくの視覚障害者職員がいる。
 1992年、谷合は、全国の地方自治体(47都道府県)と12の政令指定都市を対象に、点字試験の実施調査を行っている。それによると、一般公務員試験(初級職・中級職・上級職)で、「身体障害者の中に、視覚障害者を含めて実施した」と回答した自治体は25自治体、その中で「点字試験を実施した」と回答したのは1都1道2府3県1市の計8自治体にすぎない。後の17自治体では、視覚障害者とは墨字が使用可能なものに限定していることになる。8自治体のうち、特に、東京都と神奈川県では、継続的に点字使用の視覚障害者を採用している。主な職種は、福祉指導職や事務職である。次に、特別枠採用試験について見てみると、1992年に実施した身体障害者に対する特別枠採用試験で「身体障害者の中に、視覚障害者を含めて実施した」と回答した自治体は27自治体、そのうち、「点字試験を実施した」と回答した自治体は7自治体にすぎず、一般採用試験以上に、厳しい状況であり、これは4年後の現在もほとんど変化していないと考えられる。主な職種として、福祉職、事務職に加え、電話交換手、図書館事務などとなっている。さらに、教員採用選考試験については、「点字試験を実施した」と回答したのはわずかに5自治体で、試験が実施された教科を見ると、社会科、英語、音楽となっている。その後、個々のケースの具体的な要求運動にあわせて、いくつかの自治体で点字による試験が行われている。
 国家公務員試験は、1991年から点字試験が認められ、今年度、初の合格者が現れたことは本文の冒頭に紹介したとおりである。
 谷合は「一般公務員試験の中に身体障害者(視覚障害者を含めて)位置づけることは、国際障害者年の行動目標であった『完全参加と平等』の主旨にも合致するものである」(注3)と述べている。これは、「機会の平等」という観点から、全く正当な意見である。一方、事例1で取り上げたAさんは、常勤になることを望み、一般の採用試験に挑戦しながら、一方で、特別枠による試験を要望している。それは、一般の試験は競争率が高いだけでなく、条件からしても、視覚障害者にとってはかなり不利だと考えられる。というのも、現在の公務員試験の形式が主にマークシート方式であったり、複雑な図や表が多かったり、と、視覚的な情報から成り立っている問題が多いためにハンディキャップがさらに大きくなるというものである。ある東京都の職員は、「まず、出題に比べ、時間が足りないということですね。……例えば判断推理では、見える人なら、赤・白・ピンクといった色分けをしていけばいいようなことであっても、ぼくはタイプかなにかで表を作って、整理して考えなければならない」(注4)。また、今年度国家公務員試験に合格した福嶋も「試験勉強の成果を発揮するというより、体力や気力の勝負だった」と語っている。これらのことから、機会の平等の保証は、障害者を一個の人間として認める重要な権利保障の一つの柱ではあるが、同時に、採用試験の段階で、視覚障害という能力不全(Disability)を社会的不利(Handicap)としないための保証によって補われなければならない。この場合、具体的には、現在実施されている時間延長(通常の1.5倍)の配慮と併せて、触読に見合った問題の出題を検討する必要がある。このような視点に立って、今後さらに、公務員採用の可能性が拡大することが望まれる。

2.企業に対する啓蒙活動

 労働省の日本障害者雇用促進協会が委嘱した「視覚障害者の職場定着方策に関する調査研究」の調査によると、初めて視覚障害者を採用するに当たり、事業所が心配したこととしてあげられたものは、複数回答で、「一人で通勤できるか(49.2%)」、「仕事上の危険はないか(48.4%)」、「施設・設備の改良が必要か(46.4%)」が高く、「仕事ができるか(35.5%)」、「他の社員とうまくやっていけるか(30.2%)」、など、基本的な項目が続いている。このように、視覚障害者の採用に当たり、事業所の不安はかなり高いことがわかる。それにしても、これは、まがりなりにも、視覚障害者の採用を決心した事業所における数値であるとすれば、採用まで踏み切れない、採用の対象とは考えられない企業が大多数であろうことが想像できる。
 また、視覚障害者を直接部下に持った中間管理職の言葉を借りると、当初問題になったこととして「トイレなどの施設をどうするか。一人で残業する場合の付き添いをどうするか」また、別な企業の管理職は、「思っていたより、よく働ける、というのが印象。もっと不便かという先入観を持っていたが、通勤、日常行動、仕事の面で予想以上によくできていた」(注5)とも語っている。
 また、この調査研究で、企業が障害者雇用をどのように位置づけているかを五者択一で尋ねた結果、「企業が果たすべき社会的義務」と答えた事業所が65.9%と、もっとも多く、続いて、「通常の雇用と同じく、人的戦力の補充」と答えたものが24.9%を占めた。「会社のイメージアップや社内活性化などCI戦略の一貫」と答えた事業所は、一つもなかったという。しかし、一方で、「職場の潤滑油」というような表現で、障害者自身のためというよりも、社内への波及効果をねらった、と意味づけた事業所が7事業所あったということは、示された数値としては、わずかなものだが、けっして見逃せないものがある。
 障害者を雇うことは、「企業が果たすべき社会的義務」と言う表現は、その発想それ自体は、社会的組織的である。しかし、この調査における「本人との面接事例」の中には、「本人は業務内容についてはものたりなさを感じているようであった。つまり、会社側の障害者雇用に対する位置づけ(社会的責任)と、本人の意識(戦力として働きたい)との間に大きなギャップがあると思われる。また、本人が携わっている業務自体が社内で十分に理解され受け入れられていないため、本人も現在の職務には高い評価を与えておらず(以下略)」(注6)という報告がある。これは、事務職として、民間企業に勤務している全盲の女性の事例である。障害者を雇用すること、それ自体が社会的義務、あるいは責任という発想になると、雇用実現と同時に、その責任は果たされ、それで完了したことになりかねない。本来、障害者を雇用し、ある役割を持たせて社内で位置づけ、また、その役割を周りの社員に理解させるところまでを含めて、初めて「企業の果たすべき社会的義務」といえるのではないか。
 その意味では、ヘルスキーパーという職種の位置づけなど、この問題の典型である。ヘルスキーパーは、三療の免許に基づく業務ではあるが、産業衛生に貢献する一般企業内労働者としての性格が強いため、事例7でも取り上げた。ヘルスキーパーは、いわば、産業労働者の能率増進と、視覚障害者の職域拡大の目的とが結びつき、1980年代の後半から、特に、東京や大阪などで雇用されるようになったが、その仕事の位置づけ、内容は企業そのものにもまだ十分に理解されているとはいえず、仕事のない日が多く、周囲の人とも、うまくコミュニケーションがとれない、というケースが多く、事例7のGさんの実態はその典型といえる。
 「障害者雇用対策基本方針」(第3)「事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項」(2)「障害の種類別の配慮事項」「障害の種類別には、例えば、次に示すような事項に配慮することが望まれる。(1)視覚障害者視力にあわせた職場環境の改善を行う必要があることから、採光、室内の照明、拡大鏡の道入等の施設や設備の整備を図るとともに、重度視覚障害者については、その利用に適するような音声ワープロやNC旋盤等の機器・設備の整備を図る。また、すでに体感している職場環境の状況が急に変化することによって事故が発生する恐れがあるので、通路等の整理整頓に留意する。さらに、事務的職種等に就く重度視覚障害者について、必要な文書朗読のための援助者を配置する」(注7)さらに、労働省では、「視覚障害者の職場定着のためのマニュアル」を作成し、併せて、電話交換手、ヘルスキーパー、事務職等職種別の小冊子なども作成している。さらに、「視覚障害者と働く」と副題を付したコミック版のマニュアルの作成により、親しみやすい啓蒙の努力もなされていることは一つの全身といえよう。しかし、視覚障害そのものに対する理解、ならびに、ヘルスキーパーなど職務内容の理解を含めた、より具体的な啓蒙活動が必要である。

第3節 職務遂行・継続・安定のための課題

 これまでの難問を乗り越えて、無事就職が決定したとしても、具体的に職務を遂行していくとき、そして、一人の職業人として働き続けるための課題は多く横たわっている。
 障害者運動によって支えられ、再び公務員として復職した中途失明の男性がその手記で次のように述べている。「私と同じように復職を考えるとき、また、新たに就職を考えるとき、支援する周囲の人たちや支援団体は、一般的に復職するまで、あるいは、就職するまでが重視され、念願がかなった後のことは、ほとんど後回しにされ、場合によっては、全く話が出てこない。私の場合は、他の人と比べて条件がよかったせいで復職することができた。しかし、復職することもさることながら、復職した後のことも気がかりだった。これは、他の人にとっても同じだと思う。確かに、復職するにしても就職するにしても、実現させるまでが大変なのだから、周囲の人たちが実現させるまでのプロセス中心になるのもわかる。ただ、復職などが実現した場合、その後の支援が続くかというと、だいたいは本人の努力ということになって、ほとんど援助が受けられない」(注8)
 この種の課題は、学校や訓練施設などの職業訓練の場や企業の側の受け入れ体制の問題にとどまらず、特に、法制度上の問題や、我が国の経済・社会の仕組みからくる特徴的な問題そのものと併せて検討する視点が必要である。

1.研修、キャリアアップ

(1)職業訓練センターの新たな役割
 1994年、北海道高等盲学校に「北海道高等盲学校付属理療研修センター」が併設された。ここでは、盲学校を卒業し、三療に従事している同窓生を対象に講座を開き、より新しい知識・技術などの情報を伝えている。
 どんな分野の企業であっても、それぞれ競争にしのぎを削り、成り立っているのがこの社会である。社員一人一人も、刻々と変化する生産技術、流通ルート、他社の製品、消費者のニーズなど、それぞれの分野において必要な知識や情報を常にキャッチする必要がある。事例6で、システムエンジニアのFさんは、盛んに「技術研修の機会の不足」を訴えていた。「ライトハウスでも、再訓練の機会を作っても良いと思うんですよね。もちろん企業が個々に必要とするものまではできないにしても、例えば、Windows95の基礎的なことについて、視覚障害者むけに指導できるのはこういう施設なんですから」
 職業訓練センターにおける課題は、具体的な指導内容やカリキュラムについて、というよりも、むしろ、訓練して就職を実現化させた後のいわばアフターケア、それも、実に長い眼で見たアフターケアの必要性にあるようだ。「センターの先生方は熱心だけれど、具体的に企業がどんな人材や技術を必要としているか現状を把握していない」という声をよく耳にする。これは、もちろんOA機器に関する技術にのみいえることではないだろう。従って、職業訓練センターは、視覚障害者を採用した企業の現状を常に把握するとともに、そこで新たに必要とされている知識・技能を見つけだし、再訓練のプログラムを作成し、実践して行くことが必要である。その際、企業の側も、視覚障害者のための数少ない再訓練の場を、社員のキャリアアップと捉え、研修の機会を保証すべきである。前述の「障害者雇用対策基本方針(第3)事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項、1.基本的な留意事項(2)教育訓練の実施……また、技術革新等により職務内容が変化することに対応して障害者の雇用の継続が可能となるよう能力向上のための教育訓練の実施を図る」(注9)という一文を、もっと積極的に生かすべきである。さらに、個々の企業独自に必要とする研修については、後に述べる職場介助者を利用するなどして保証すべきである。

(2)昇進・昇格試験の保証
 「働き続ける以上は常に目標を持ちたいと私は思います」これは20年間金融会社に電話交換手として勤務している全盲の女性の声である。彼女は、その業界独自の資格試験を受けることを希望したがなかなか受け入れられず、一度だけ口答試問でその機会を得たという。
 東京都は、1974年から点字使用の視覚障害者の職員を採用しており、さらに、主任への昇格試験も点字で行うようになり、現在10名近くの点字使用者がこれに合格している。ともすれば、昇進・昇格することへの意欲を「出世欲」として、悪欲の代名詞のように否定的に捉えてしまうことがある。もちろん、そういう見方をされて当然な人間も少なくない。しかし、これまでの努力の結果としての職務上の実績や向上心に裏打ちされた前向きな挑戦、それに対する評価の機会は平等に与えられなければならない。職務を遂行・継続するからには、責任ある仕事をしたい、と願っている視覚障害者は少なくない。

2.企業の合理性中心の雇用形態・身分

 法定雇用率未達成企業がおよそ半数を占める一方、雇用率を上回って、障害者を雇用している企業もある。しかし、この雇用率を算定する際の常用労働者とは、雇用期間に定めのないもの、あるいは、更新することによって定めのないものと同じように労働しているもの、とされている。従って、雇用契約を1年ごとに更新するような雇用形態の労働者も、常用労働者として含まれている。労働省、日本障害者雇用促進協会等で、雇用の実態調査や事例研究などは行われているものの、雇用形態・身分については、あまり触れていない。しかし、前述の事例研究のための面接を通して、あらためて、この雇用形態・身分の問題が浮き彫りにされた。嘱託社員、契約社員、非常勤などといった形で、契約が1年ごとに更新される。事例2のBさんもその一人であった。「最近では、電話交換手は、ほとんど嘱託社員という形じゃないでしょうか。晴眼者の方も人材派遣会社からの派遣社員が多いようです」これは、デリケートな問題のためか、また、労働省としても明らかにすることを、むしろ避けているのではないか。実態調査の詳しい数字はないが、前述の声は、電話交換手の分野での一つの実体を示しているようである。これが、民間企業だけではなく、官公庁の窓口でも、中・小規模の自治体などでは、同様の減少が起きているようだ。
 これはもちろん、電話交換手の職種にとどまることではない。ある盲学校高等部の進路指導担当者の話によると、盲学校高等部普通科を卒業し、民間の会社に就職した弱視者が、わずか半年で退職した。人間関係も、特に大きな問題はなく、本人はとてもはりきって働いていたというが、その退職の理由は、嘱託社員という身分の不安定さにあったという。このような雇用形態・身分の問題は、必ずしも障害者ゆえの処遇ということだけではなく、健常者であっても同様の問題がある。この問題の本質は、むしろ、企業の側、さらに、我が国の経済社会全体の仕組み、つまり、非常勤労働者によって労働力の補充を行っているという、構造そのものに問題発生の根があると考えられる。そして、このことが、なぜそれほどまでに問題とされるのかということについては、次の項でも述べるように、日本社会が「終身雇用」を主流として雇用関係を結んでいる社会だからであることを忘れてはならない。

3.日本社会の体質から生まれる問題

 一般的にいわれていることとして、日本は今や経済大国となったが、その一方で、未だに封建的な体質を温存し、そのことがまた、この大国を支えてきたともいわれている。主従関係を重んじる社会、契約関係の薄い社会がここにある。これは、官・民を問わず、雇用関係にも色濃く反映しているといってもよい。その代表的な現れが、終身雇用の発想であり、また、家族的労使関係、といわれるようなものである。最近では、日本もアメリカ社会に近づいた、といわれるが、全体的に見れば、特に、終身雇用的発想が多くを占め、本質的に変化したとはいえない状況である。このような発想をベースとした雇用関係から起こってくるいくつかの問題がある。
 第1の問題は、専門性(スペシャリスト)と、一般性(ジェネラリスト)に関する問題である。すなわち、「視覚障害者はスペシャリスト化されていけばいくほど就職はしやすいと思います。業務が細分化されればされるほど、その部分だけをすればいいということで視覚障害者は楽です。アメリカ社会と日本社会ではまさにそこが違うところです。アメリカは従来職業は分化していますので、スペシャリストが契約・就職していくと比較的就職しやすいけれども、雇用として安定しないという問題があります。日本の場合は終身雇用ということできているので、つぶしの利く人というかジェネラリストをとる、まず人をとって企業内で教育して、技術革新の時には配置転換して雇用を安定させているので、いろいろなことができる能力が問われています。日本ではこのジェネラリストとスペシャリストという点でいろいろ問題がありますが、(以下略)」(注10)終身雇用の発想が求めた人物像こそ、「つぶしの利く人間 ジェネラリスト」ではないか。つまり、個人が一つの職場組織での雇用関係を円滑に保ち続け、また職場集団としても活動的であり続けるためには、個人のマンネリ化を防ぎ、集団を活性化させることが必要である。それゆえ、一定の勤続年数ごとに部署を異動させ、いろいろな分野の仕事を経験することによって、昇格・昇進していくという仕組みが生まれたのではないか。もちろん、広い視野の経験を持つことは、管理や経営のノウハウをも身につけることにつながる、という意味合いを含んでいることは理解した上で、やはり、この日本独自の体質に負うところが大きいのではないだろうか。これは、アメリカ社会などと比較して、まさに、視覚障害者の職務遂行・継続にとって、社会的不利を大きくしている要因の一つである。それゆえ、中でも、専門性が比較的重視される三療業の職業教育が続けられてきた、という歴史にも頷ける点ではある。   さらに、より専門性が重視されるようなコンピュータープログラマーなどでの職域開拓が進められているというのも一つの方向ではある。しかし、すべての視覚障害者が、今の社会で専門性が重視されるような分野の仕事を身につけるということにはならない。今のこの体質に対応しながら、職務を継続させるためにも、前述の職場介助者という制度としての保証が不可欠であり、対応が急がれる。
 第2に、契約関係の希薄さからくる問題である。視覚障害者が職場に居づらくなったり、あるいは、退職を余儀なくされた理由として、「職場の人間関係」という表現が頻繁に用いられるが、その問題発生原因の中には「深い理解を示してくれていた上司(あるいは同僚)の異動に伴って」という例が少なくない。障害のある・なしにかかわらず、集団にとって、感情的、主観的なものを常に引きずっているものと考えても、これはやはり、雇用関係が契約的でないこと、その職場集団が組織的に機能していないこと、つまり、組織として障害者を職場集団に受け入れていないことを意味している。この解決策は、制度的保証などで対応できる性質のものではない。もちろん、社会全体が、契約関係を強化し、企業が組織として機能する方向に進むことが望ましいわけだが、現在必要なことは、行政の側として、この点に関して、当事者(障害者)が不利益をこうむらない形での実態把握を行い、企業に対し、より具体的な啓蒙や指導をしていく必要がある。

第4節 雇用促進行政上の課題

 これまで述べてきた課題の他に、雇用促進行政そのものの問題がいくつかある。
 まず、日本における障害者雇用促進行政は、二つの柱からなっている。一つは、法によって従業員の一定割合を障害者雇用に割り当てる障害者雇用割当制度、つまり雇用率制度であり、もう一つは、障害者に対する雇用支援サービスである。しかし、雇用促進行政は、その法律の発想から見ても、いくつかの矛盾をはらんでいる。

1.雇用納付金制度が抱える大きな矛盾

 後に詳述する、職場介助者の費用を助成する「重度障害者特別管理助成金」や施設設備を整える「障害者作業設備等助成金」など、法定雇用率達成を目的として設けられた、各種助成金制度は、その財政のほとんどが、雇用納付金によってまかなわれている。
 「身体障害者雇用納付金制度は、企業が身体障害者を雇用する場合には作業設備や職業環境を改善したり、特別の教育訓練を行うなど経済的な負担がかかることを考慮し、雇用率に達するまで身体障害者を雇用していない企業から納付金を徴収し、これによって身体障害者を多く雇用している企業の経済的な負担を軽減するなど、主として身体障害者の雇用に伴う経済的な負担のアンバランスを調整しつつ全体としての身体障害者雇用の水準を高めていこうとする制度です。また、身体障害者雇用納付金は罰金ではありませんので税法上は損金または必要経費として取り扱われますが、納付金を支払ったからといって雇用義務を免れるものではありませんので留意してください」(注11)さらに、「事業主は原則として法廷雇用身体障害者数に応じて身体障害者雇用納付金を納付しなければならないこととなっていますが、身体障害者および精神薄弱者(重度障害者である短時間労働者を含む)を雇用している事業主については、その雇用数に応じて減額されます。結果的に納付金を納付しなければならないのは、身体障害者および精神薄弱者を法定雇用身体障害者数まで雇用していない事業主だけ、すなわち雇用率未達成の事業主だけとなります」(注12)読み返してみれば、「罰金ではない」と言いながら、「雇用義務を免れるものではない」と言う、これだけでも大きな矛盾をはらんでいる。そして、その目的こそ、「身体障害者の雇用に伴う経済的負担のアンバランスを調整する」、まさに、企業同士の相互扶助的発想である。雇用率未達成企業は雇用納付金を支払い、雇用率を達成している企業は納付金の支払を免除される。結局、日本の雇用促進行政は、雇用率未達成企業からの納付金を財政的基盤として成り立っているのであって、この大きな矛盾を引きずった制度では、もしも、未達成企業の数が減少したとなれば、各種助成制度の財源確保が困難な状態になる。すなわち、雇用率未達成企業の存在そのものが必要とされているとさえいえるのであって、決して、障害者の労働権を補償する制度となっていないことが明らかである。
 日本障害者雇用促進協会のある職員の話では、「特に、バブルの崩壊に伴って、一般の常用労働者数が減少しているために、障害者の法定雇用率が上がり、雇用納付金が減って財政が厳しくなっている状況です。喜ばしい、と言っていいのか、なんだかおかしな話です」と語った。これが本音ではないだろうか。

2.職場介助者制度の現状と課題

 職場介助者制度は、「重度障害者特別雇用管理助成金」の第二種の手話通訳者の配置などと並ぶ制度で、1988年より実施され始めた制度である。重度(2級以上の視覚障害者)を対象とし、視覚障害者であって事務的業務に就労するもの、つまり、企画・立案、会計・管理等の事務的業務に従事する場合、障害者一人に対し一人の介助者を配置または委嘱することができ、介助者費用として企業に助成する制度である。金額は、企業内部の社員を配置する場合、介助者経費の4分の3(月15万円を限度とする)、外部委嘱の場合、介助者経費の4分の3(1回1万円を限度とし、年150回まで)、支給期間は3年間である。この職場介助者の具体的な業務内容は、(1)文書の朗読と録音テープの作成、(2)指示に基づく文書の作成とその補助業務(点字を普通文字に転記する等)、(3)業務上の外出の付き添い、(4)その他必要と認める業務。さらに、1992年には、「重度障害者特別雇用管理助成金」第三種継続雇用の措置が執られ、3年が経過してなお、企業に雇用が継続される場合、7年間延長して利用できるようになった。その利用状況はきわめて少ない現状にある。というのも、以下のような問題点によるところが大きい。(1)支給対象となる職場として、民間企業に雇用されるものに限られている。(2)支給対象となる職域として、事務的業務に従事するものに限られている。(3)支給期間が3年、継続措置で7年という期限が付けられている、などである。
 事例5のEさんは、現在職場介助者制度を有効に利用して「快適に」仕事をしているが、支給期間の期限切れを3年後にひかえ、不安を募らせていた。事例6のFさんは、事務職でないという理由にあわせ、この制度の開始以前(1986年)の採用であったため、その適用を要求することもかなわなかったと語っていた。
 この職場介助者制度について、視覚障害者の職務遂行・継続・安定という観点から論じることは、きわめて重要なことであると考えている。つまり、この支給期間の3年、そして、継続した場合の7年という、支給年限の根拠は、いったいどこにあるのだろうか。職場介助者は、視覚障害者にとって職務遂行上もっとも困難とされる文字処理の役割を担うことになっている。就職して3年が経過すれば、事業主への経費助成の支給期限を迎えるこの制度の発想では、就職して3年経過すれば、文字処理を必要とする仕事はなくなるということになる。そんなことがありえないということは、職業を持っている人間であれば、誰でもわかることであるはずだ。それどころか、いやむしろ、その必要性は高まるばかりである。障害者であるなしに関わらず、就職したての頃の社員は、周囲の環境になれるのが精一杯で、上司や先輩同僚などのアドバイスや協力を得ながら仕事になれ、覚えていく。そんな中では、視覚障害者に対する社内のサポート体制も、ごく自然な形で行われうる。しかし、2年3年の経過とともに、社員たちはそれぞれ、一定の職務をまかされ、責任を持たされ、一人前の扱いを受け、中堅となっていく。まさにその時期に、これまでサポートしていた職場介助者の制度的保証の期限が切れることになる。一人で、あるいは同僚の援助を受けながら職務を遂行することは、採用直後よりもかえって難しい。責任の生じる仕事であればあるほど、書類のチェックや一定の書式に書き込むことが要求されることは、想像に難くない。事例研究のための面接においても「中間管理職になった時が一番大変だと思います」という声が多く聞かれた。
 以上のように、この制度では、助成の支給期間に期限が付いていることが、最大の問題である。もし、この制度が、今のままで有効に機能しうるとすれば、それは、障害者が、介助者の手によってなにかを習得し、「なれる」ことで、社会的不利が消滅する、というような職種である。しかし、そのような職種は、前述のように、視覚障害者にとって、現実的にはほぼありえない。結局、これは、視覚障害者には、はじめから責任ある業務は持たせられない、という発想だ、と強く抗議し、批判せざるをえなくなってしまう。
 なお、責任ある業務には、「企業秘密」「守秘義務」などの問題があるが、この制度が企業内の職員を配置することを含んでいるので、むしろこれを生かすことで問題はないであろう。
 このように、支給期間の期限の撤廃とともに、制度の適用範囲を、民間企業だけでなく、官公庁などにも拡大し、併せて職種の範囲も事務職にとどまらず、拡大するする必要がある。また、この制度が、「事業主に対する助成となっているため、働く視覚障害者自身が自らの意思で職場介助者の配置等必要な措置を講ずることができないものだろうか」との意見もある。今後、効率的、実践的な利用の研究を進めるために、利用状況の実態調査も必要である。

3.作業施設設置等助成金

 視覚障害者が職務を遂行する場合、職場介助者、という人的資源と並んで重要なのがOA機器の設備である。これによって、ある一定形式の文書の読み・書きは、誰の手も借りずに可能となった。しかし、ここで問題となるのは、このOA機器設備の助成制度である。まず、制度としては、雇用納付金による「作業施設設置等助成金」がこれに該当する。これは、障害者の雇い入れに伴い必要となる施設または設備の設置または整備を行う事業主に対して支給される制度で、支給額は、作業施設等の設置または整備に要する費用の3分の2となっている。そして、さらに、「障害者作業設備更新助成金」の制度により、設備の更新が可能である。受給できる事業主は、過去に障害者作業施設設置等助成金のうち作業設備の設置に伴う助成金の支給を受けたものであり、助成対象となる作業設備も、障害者作業施設設置等助成金の支給対象となった同一の作業設備である。そして、この更新は、前述の助成金を支給した時から5年経過後、10年を経過するまでの期間とされている。加えて、設備の更新は、1回限りとなっている。
 以上のような内容の制度の問題点を整理してみると、(1)作業施設設置等助成金は、障害者の雇い入れに伴い必要となる施設または設備に対するもので、雇用関係が生じてから6か月以内に申請しなければ支給の対象とは認められていない(ただし、中途失明者の職場復帰の場合には、復帰後を雇い入れた時期と認められている)。(2)「作業設備更新助成金」の支給される事業主は、過去に「作業施設設置等助成金」の支給を受けたものに限られているため、これまで、この制度を利用して購入・設置しなかったものについては、いっさい支給の対象とはならない。(3)設備の更新は1回限りとなっている。特に、この問題は、今後に向かって、OA機器がますますめまぐるしく変化・進歩して、視覚障害者により使いやすくなっていくとすれば、これを1度しか更新できないというのは、やはりこれも、障害者の雇用の安定した継続を積極的に推進している立場の発想とは言えないのではないか。職場介助者の制度的保証とともに、障害者がそこで働き続ける限り、更新のための支給は継続されなければならない。

4. 重度障害者対策としての、視覚障害者の雇用促進  対策

 視覚障害者を障害の程度別に見たとき、重度障害者の割合がもっとも高かったことは、すでに述べた。そこで、視覚障害者としての問題、さらに、重度障害者としての問題を考えてみる必要がある。
 第1に、前述のように、雇用率の制度での限界である。つまり、第3章で見たように、身体障害者の中でも、視覚障害者の就業率はもっとも低いものであり、雇用率を達成している企業が5割に達しているにもかわらず、視覚障害者の就業率が1割にも達していない。
 第2に、重度障害者に対する雇用促進の対策として、第3セクター方式による重度障害者雇用企業の育成や、特例子会社の制度を設けるなど行っている。しかし、実際には、仕事の内容から見ても、視覚障害者に適した仕事はほとんどない。
 このような現状に対し、障害種別の対応策がとられる必要がある。社会生活の中で、およそ8割といわれる視覚からの情報を、得ることができない視覚障害者にとって、可能な職務内容を開発研究することは、簡単なことではないが、雇用促進の中で、「重点障害者」などとして、職務遂行上の困難点を絞って取り組まれてもよいのではないか。

 続きを読まれる場合は、「視覚障害者の就労の現状と課題」(4/4)へどうぞ。

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