特定非営利活動法人タートル 情報誌
タートル 第8号

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2009年8月17日発行 SSKU 増刊通巻第3232号

目次

【巻頭言】

「人に役立つ力」

監事 近藤 豊彦
(NPO法人マイライフ・ステーション協会 理事長)

日本は豊かな産業社会を作り上げた。今それが行き詰まって、激動の時代となった。明治維新、第二次世界大戦に続く第三の大変革期といわれる。元気の出ない話が溢れている。

こんな時代、どのように生きたらよいのか。人生の価値観を、会社のポストやカネに置いてきた人は悲惨である。上手くいかない理由を他人に求めて、愚痴を言うばかりで、同類の人とは一時共有できる時間が持てるが、別れて家路につく頃、さらにむなしさを感じることになる。
一方、自分の得意な仕事で、他人に役立つことに生きがいを覚え、喜びを感じる人は再出発が出来る。家族の理解もあり、この難局を切り抜けることが出来る。

私は10年来、ボランティアの人たちとの交流が多い。お会いすると、こちらも元気になる。ボランティア団体に出入りしていると、すごいポストや厚遇を投げ出して、生き生きと働いている人を見かける。退職後、ボランティアをしている人も皆、元気である。ボランティア活動を始めると、5才は若くなる。

50才そこそこで、関連会社に出向する事になった人たちの、「生きがい研修」で話をさせて頂くことがある。二つの提案をしている。
一つは、自分の本当の人生は何かを振り返ってみよう。生きてきてよかったか。他人の笑顔や感動を自分がいくつぐらい生み出してきたかを、勘定してみよう。その時の感動を思い出してみよう。
もう一つは、人のために役立てる能力を、いくつ持っているかを点検してみよう。たばこの吸殻を街に捨てない。座席の席を譲ることが出来る。旅行中のお隣さんの新聞を預かってあげる。それとなく家の様子を見てあげる。倒れている自転車を起こすことが出来る。近所の人に声をかける。夜遅く、一人歩きの女性をそれとなくウォッチしてあげる。

会社の中でも他人が喜んでくれることはたくさんある。そんな能力を思いつくまま書き出してみる。100や200ぐらい直ぐに思いつく。意外にたくさんの能力の持ち主であることに気がつく。自信が生まれる。
そして、「さあ今から、できる事から始めてみよう。」と呼びかけている。

ひたすら会社のために全力で頑張ってきた。その結果、自分の家庭も豊かになった。ニッポンも豊かで安全な国になった。自分を犠牲にして頑張ってきたことはムダではなかった。豊かな国になったのだから、今からは人生を楽しみましょう。と結ぶことにしております。

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【総会講演】

「中途視覚障害者の就労継続に重要な障害の受容とロービジョンケアについて」

国立障害者リハビリテーションセンター病院 眼科部長 仲泊 聡 氏

こんにちは、仲泊です。今日は「中途視覚障害者の就労継続に重要な障害の受容とロービジョンケアについて」というお題を頂戴しましたので、その内容で話したいと思います。

私は、慈恵会医大を平成元年に卒業し、6年程大学で勉強し、普通の眼科医として、白内障の手術をしたり結膜炎を診たりしておりました。 あるとき、「脳の損傷に伴ってどうして色がわからなくなるのか調べなさい。」という研究を命じられました。大学にいてもそんな珍しい人はいないので、慈恵の関連で七沢にある「神奈川リハ病院」に派遣されました。そこはもともと交通外傷の人が大勢集まる所でしたので、そこで脳損傷の眼科的な研究をしたわけです。

ところが、確かにそういう患者さんも大勢いたのですが、それ以上に眼が悪くて困っている、視力がなくなり、職をうしなってしまった、あるいは、学校に行けなくなってしまった、というような方が大勢いることを知りました。眼科医になって7年目のことです。それまで私が出会った、いわゆる失明と言われているぐらいに眼の悪い方というのは、ほんの片手で数えるぐらいしかいませんでした。そんなに世の中に眼の悪い人がいるとは、眼科医になっても教わっていませんでした。自分の目の前に来る人たちは、大体が白内障とか結膜炎で、薬を出したり、手術をしたりして、皆ハッピーになって帰って行く人たちばかりでした。眼科は何て気楽でいい科だなぁと思っていたわけです。ところが、七沢ライトホームだけではなくて、入院している人や手足が不自由な方も大勢来ていました。その中に眼の悪い方も大勢いました。研究しに行ったはずだったのに毎日そういう方と接すると、初めは私の方が落ち込んでいました。それでも、そこを辞めるわけにはいかないので、何とか自分なりに、真正面に受け止めて一緒に悩んでいく、というところから始めて、13年間七沢にいました。

その間、脳の研究もずっと続けていましたので、視覚障害ではなく、脳の研究でStanford大学に1年ちょっと留学をしました。私は、なかなか自分の脳の研究と目の前にいる患者の視覚障害の問題が両立できなくて困っていました。それが、2003年だったと思いますが、「人工の眼」というプロジェクトが日本でも始まることになりました。眼を電気で刺激して見えるようにするという話です。眼を電気で刺激すれば、全く真っ暗闇になった人でもどちらから光が差し込んだかくらいがわかるようにはなると思いました。でも、視力1.0に戻すというようなことは、そう簡単にいかないのではと思いました。ところが、勉強してみたら、やっぱり限界があって、そのときに頭のなかで結局僕らは見ているので、頭の中の刺激、あるいはそこをうまく操作することによって、眼が悪くても見えるようになるのではないか、というふうな気持ちになってきました。結局、そこで脳研究と視覚障害のケアが結びついたのです。10年経ってようやくそこに気がついたのです。

その後、その研究や実践をしようと思っていたところ、何と国立障害者リハビリテーションセンター(国リハ)のY先生がお辞めになってしまいました。そのとき僕は今日の僕を全然イメージできずにいたのですが、要するに、視覚障害と人工眼の研究が国リハに行けばできるのでないか、というぐらいの気持ちで手を挙げたのですが、結果として運良く採用になったわけです。就任以来、1年少しが経ちました。今、国立障害者リハビリテーションセンター病院第3機能回復訓練部という、視覚障害を担当する機能回復訓練を実践、研究する部署で勤務しております。そこに行ってびっくりしたことは、文化が違う、同じ日本とは思えない、国家公務員はこういう感じなのだということでした。具体的に言葉で表現はなかなか難しいのですが、最初は変なところばかり気がついて、落ち込んでばかりいたのですが良いところもある。それから意外と真面目に考えているところもある。特に来て良かったと思うのは、厚労省のお役人と直接話しをするような状況になって、直接何人かの方と膝を突き合わせてお話しをすると、皆さん真面目です。むしろ、眼科医などより余程、障害者のことを真剣に考えてくれているというのが1年ちょっとの現在の心境です。先輩に聞くともう少し経つとまた変わるかもしれないと言われます。とりあえず現状では見直しているところです。

前置きが長くて申し訳ないのですが、自己紹介をするときに、1年経って私は何者かと言うときに「私は厚労省の犬であります。」と自己紹介をすることにしたのです。「ただし、ただの犬ではありません。盲導犬です。」これは厚労省が何も見えないということではありません。厚労省は、素晴らしく優秀な視覚障害者です。つまり頭の中でいろいろなことが考えられる。こっちへ歩いていこう、あるいは、自分の人生をこういうふうに向けようということは、いろいろな情報から考える力を十分持っている。ところが盲導犬がやることはというと、目の前にある段差とか曲がり角とか、それを主人に知らせるわけですが、その肝心要の足もとの段差がわからない。それを要するに主人に伝えるのが僕の役どころなのではないかと。歯がゆいのは盲導犬と一緒で、行き先を教えて貰えない、国がどっちに向かって動いているかということを教えて貰えないのです。だから、どう動いていいのか、なかなか難しいのですが、とにかく動こうとしている者に対して、僕らはフィールドの状況をちゃんと正確に理解して、それを伝えていくことが、その国の進む道を誤らせない。そういう役目を持っているのではないかと、1年ちょっと経って思っています。そういうスタンスで、今日のお話をさせていただこうと思っています。

今日のタイトルは「中途視覚障害者の就労継続に重要な障害の受容とロービジョンケアについて」です。大体僕はお題のとおりに話をするのが常なのですが、就労継続に重要な障害の受容のところは、僕は発想が違うのです。
ほとんどの教科書にはリハビリテーション、あるいは就労継続等には、障害の受容がきわめて重要であると書かれてあります。ところが、10年間私が接してきた多分300人くらいの中途視覚障害の方のうち、障害を受容していると思われる方は1人もいない。受容していますと言う人は嘘つきかもしれない。たとえ眼がなくなっていても、いずれまた見えるようになるかもしれないと必ず思っています。そういう気持ちは、まず受け止めなくてはいけません。私は当事者ではないのですから、それをサポートする係りなので、サポートする身としては、やっぱり障害を受容しなさい、という態度は間違っているのでないか、むしろ、受容はできないよねと言う共感があって、でも何とかしなきゃね、と言うところでサポートしていくことで、十分サポートできるし、就労継続もうまくすればできるのではないか、今の私は10数年の経験ですが、そういうふうに思っています。

ロービジョンケアについては、大事なのでその話をしようと思います。ロービジョンケアをするための心構えがあることを、この10数年でこの業界の先輩たちや患者さんたちから教わりました。まずは、次の3つの観点から患者の生活を観察し、それぞれの観点で共感を持つようにしようということです。

1番目は所得です。所得といっても給与だけではなく、年金とか財産とか、あるいはご家族の所得など、全部含めて、その方の生活を支える意味でのお金を指します。
2番目が所属です。これは会社に入っているとか、患者団体に属しているということも含まれますが、それだけではなく、家族がいるとか、いつもいる場所があるというような居場所を意味します。
3番目が生き甲斐。これは所得とも所属ともいわば独立しています。所得にもならない、所属にもならないが、他の人が見ていたら何てこともないことでも、本人にとってはとても素晴らしいことというものが中にはあります。それを生き甲斐だと思えるような事柄があるかどうか、ということが大事だと教わりました。

ここで今日のメインテーマの就労継続ということを考えますと、この人生を幸福に過ごすためには、経済根拠を得て、所属する団体集団を持って、生き甲斐を持つことが必要ですが、就労、雇用はそれらすべてを得る可能性をもつわけですので、非常に大事なことと考えます。

21世紀の視覚障害支援のロードマップを考えるときに、これまでどうであったかということを振り返らなければなりません。20世紀ではどうだったかと言いますと、視力を失ってしまうと、最初に字が読めなくなることに困る。その結果、点字を覚えたり、音声のコンピューターを使って、それをカバーするような方向に走ります。移動ができないことについては、白杖歩行を学んだり、あるいは盲導犬や、最近では盲導犬に代わるようなロボットを開発しようという動きも出てきています。会社を首になって収入がなくなったらどうしようということで、あん摩、鍼灸の免許を取りに行きましょう、あるいは、障害基礎年金でカバーしましょうという話になっていくわけです。つまり、これまでの視覚障害者の支援というのは、どうやって生活に戻してあげるかを訓練する生活訓練、あん摩、鍼灸を主体とする職業訓練を行うことで、その視覚を失うということをカバーしていこうというロードマップが敷かれていたのです。

では、「21世紀における視覚障害支援のロードマップは?」といって、もっとも描きたい地図は、視覚を失ったが治療して治った、「ハッピーエンド」というのが多分一番明確で、皆が期待するいい形の地図だと思います。それが本当になるのかというと、それはなかなか今すぐというわけにはいかないと思います。

そこで、私の考えですが、ロービジョンケアの心構え2としましては、まずロービジョンケアは敗戦処理ではない、あくまでも治療は諦めない、失明告知は必ずしも必要ではないというのが、私が思うロービジョンケアの心構えです。
ただ、こういう態度・姿勢を貫くのは、医者側には、実はなかなかしんどいものがあります。こういうことを言うと、「僕の眼を治してよ。」と必ず言われます。でも僕には治せないのです。「じゃ嘘ついた。」となる訳です。そこでどうしたらいいのかと、悩んで来たわけです。多分10年間、僕はこれで悩んでいたわけです。でどうしたらいいかと言えば、その失明の治療に関係するような先端医療、そこに常にアンテナを張って最新の知識を獲得する。それを患者さんにまめに報告して、今ここまで来ているということを、きちんとした状況の下に伝えて行くというのが、1つの対処の仕方ではないかと思っています。

これはロービジョンケアとしては、守りというよりも、むしろ、攻めの姿勢の発想だと思います。世の中には国際的なプロジェクト『VISION 2020』というのがあります。この2020年までに不必要な盲目をなくすという、WHOとか国際失明予防機構というところがやっているプロジェクトです。この2020というのは、欧米ですと、視力1.0という感じです。2020年までに失明を減らそうというキャンペーンです。もう後10年ちょっとしかないので、後10年少しで、全ての失明者を、晴眼にしようというものではないようです。彼らが言っているのは、世界の隅々まで見ると、いまだに結膜炎や白内障で失明している人が、ものすごい数で、先進国であれば、その辺は何ということなく治るのですが、そういう失明をなくそう、それから先進国にあっても、例えば日本でも、糖尿病や緑内障で視力をなくす方は、いまだにたくさんいるわけで、それらは充分な予防をすれば失明に至らなくて済むので、そこを何とかきちっとやろう、そういう内容なのです。

ところが、攻めのロービジョンケアとしては、それでは少し歯がゆいです。やはり、失明の治療を実現しなくてはいけないと思うわけです。それで先端医療に目を向けると、皆さんも良くご存知の遺伝子治療、再生医療、人工視覚というものが挙がってきます。遺伝子治療では、すでにアメリカの論文では、網膜変性症の一番悪いタイプ、レーベル黒内障という病気の眼に正常遺伝子を導入することで、視力を改善することが可能になっているそうです。また、全く見えなくなってしまった色素変性の方に、ウイルスによって細胞に光を感じる機能をもたせる遺伝子を入れてあげると、視細胞ではなくて神経節細胞という別な細胞が光を感じるようになって、光が見えるようになるというものがあります。これは日本の研究で、去年からサルにやっており、サルで上手くいって安全性が確認されれば、近い将来ヒトにもというレベルまで来ています。それから再生医療については、皆さんご存知のT先生が頑張ってくださって、視細胞が再生できるようになってきています。人工視覚においては、残念なことに今年の初めにお亡くなりになりましたが、大阪大学のT先生が精力的になさっていた人工視覚の研究を一緒になさっていたF先生が、頑張っていらっしゃいまして、来年には200の電極を日本人の色素変性の方に埋めるそうです。電極を200埋めると、何が変わるかというと真っ暗闇が指数弁になりますという位の違いがあるというのです。とはいっても皆が皆そう受けられる状況にはすぐにはなりませんので、技術としてそこまで来ているということを知って、直接その先端でやっている先生方とディスカッションし、詳しい話を聞いて、それを当事者の皆さんに提供していくのが、僕らの役どころではないかと思っています。

そういう専門家の意見を聞けば聞くほど、先端医療で何ができるかというと、全盲をロービジョンにできるということでしかないということがわかります。晴眼にはできないのです。ということは結局ロービジョンが増えていく。全盲はなくなるかもしれない。もしかしたらそれこそ本人が望めば2020年までになくなるかもしれない。ですが、その新しいデバイスを眼にくっつけて見える絵が、果たしてどんな絵かといいますと、それもまたわからない。これまでにない新しい視覚障害が生まれるかもしれないのです。いずれにしてもロービジョンの対策は、おそらく21世紀ずっと通して、不要になることはないというのが、残念ながら私の今のところの予想です。つまり、21世紀というのはロービジョンの世紀である、と言えるのではないかと思うわけです。

引き続きロービジョンケアの話をしようと思います。ロービジョンケアには、私は6つの基本があると思います。まず、1つ目がニーズの分析です。患者さんが何に困っているかを、具体的・客観的に分析します。1つのやり方としては、『杏林アイセンター』に昔からロービジョンクリニックがあり、そこでつくられたQOL評価表に基づいて、新聞が読めるか、サインはできるか、生活のいろいろな場面を事細かく聞いて、その都度それができないときに、眼鏡はどんな感じかとか、どのくらいの速さで読めるかとか、そういうチェックをしていく項目表があります。それによって、その人の見えにくさのADL(日常生活動作)の評価をしながら、簡単な情報提供をしていくような方法です。ニーズというのは非常に複雑で、どうしましたか、何を困っていますかと聞いて、すんなり説明できる人はなかなかいません。それから、僕らが見てこの人これに困っているのではないかなと思っても、本人は何とも思わないことも多々あります。そのときに、これから僕らと一緒にロービジョンケアをするに当たり、目標をどこに置くかを、最初に設定します。本人にとっても僕らにとっても、納得のいくニーズを意識化することが大事で、そのときの情報提供を介して、ロービジョンケアの動機付けをしっかり行うと、ここで話したり聞いたりしているうちに、いい情報が手に入るかもしれない、もしかしたら新聞が読めるようになるかもしれない、という期待感が生まれ、積極的にトレーニングに関わる姿勢をつくるところに、ニーズの分析の隠れた役割があります。

そして2つ目に、保有している眼の機能を評価します。これも普通の眼科で調べるような簡単なものではなく、十分時間をかけます。どのくらい使えるか、少しでも使えれば何かに役に立つかもしれないという観点で、視力を測ったり、読書速度を測ったりします。視野や色覚や、病気の状況を知るためには、網膜電図という網膜の状態を電気で調べる装置も使います。眼の向きとか眼筋麻痺とかも丹念にチェックします。

3つ目に、その結果に基づいて、障害者手帳や年金とか、必要書類を整えていきます。昨今、手帳の基準については、なぜか急に問題になっています。手帳の基準が変わると、年金の基準も変わるのではないかという話もあって、それもまた大変難しい問題だと思います。ともかく、目の前の患者さんには、そういうものがあると便利なので、書類を整えケースワーカーさんと相談し、何が必要か、何が取れるかを探っていき、情報として提供します。

4つ目に、特に就労継続についての問題を抱えている方は、私どもからタートルのほうに、直接お願いするというケースも、これまで多々ありました。私は10数年神奈川にいて、その辺のネットワークや多数の業種の間でうまく手を組めば、患者さんが右往左往しないで、効率的に情報が手に入れられるという発想で、神奈川ロービジョンネットワークをつくりました。七沢ライトホームの人たちと一緒に、神奈川県内のいろいろな施設・団体の人たちと共同の勉強会をしました。そのような経験からも人と人とのネットワークが患者さんのために絶対必要だと痛感しております。

5つ目は、ロービジョンエイドです。ロービジョンケアというと、すぐルーペとか拡大読書器とかの話になるのですが、僕はそれらはロービジョンケアのうちの6分の1の役割しかないと思っています。しかし、ここも大事な部分です。ロービジョンエイドには5つの基本があります。拡大をすること、光を遮ること、光を当てること、眼の動き、そしていろいろなグッズと考えています。
まず拡大は、1番簡単なのはコピーで拡大すること、それから近づける。ところが近づけるとピントが合わなくなるから、そのピントを合わせるような、強い老眼鏡をかけるとか。それでもよく見えないときは、ルーペで拡大するし、遠くを拡大したいときは望遠鏡・単眼鏡を使う。近くをもっともっと大きくしたいときに、ここで拡大読書器が出てくるのです。パソコンで拡大という機能があるなどというのは、初心者では知らない人が多いのです。
遮光については、遮光眼鏡とすぐ思われるのですが、残念ながら、網膜色素変性症をはじめとする4つの疾患でしか補助が下りない。変な話ですが、現場の当事者や医者は、何でその病気じゃないと出ないのだ、僕だって眩しいよ、眩しいのが取れるのだったら、僕にだって補助してよと思うのが当然ですね。そうなのですが、お役人はそういう観点では考えなくて、財布にお金はこれしかないのだから、必要な人から順に並んでよ、お財布のお金が無くなるまであげる、という発想なのです。そのときに、どういう順番で並ぶかを、皆で考えなさいと言うわけです。 それでとりあえず前回の基準が決まったときは、網膜色素変性症の方が1番困っているみたいだから1番先頭に並ばせてあげようねとなりましたが、糖尿病、緑内障も、ベーチェットも欲しがるわけです。もっともっと欲しい人がいるのだがと言ったら、厚労省の方は、では皆が納得する並び順を考えて下さい。また、眩しさの強さを客観的に評価できる測定法を考えて下さいというわけです。ところが、これができない。眩しいというのは痛みとすごく似ていて、他人の痛みや他人の眩しさを、どのくらいかとわかってあげることはできません。同じ強さでつねっても、痛がらない人もいれば、ものすごく痛がる人もいます。これと同じで個人差が大きいものですから、眩しさを物差しで測るというのは、本当に難しいのです。これも何とかしなければいけないことです。遮光眼鏡はいい道具ですが、一部の人にしか手に入らない、あるいは手に入れようとすると、お金がかかる。だから、遮光眼鏡じゃなくても、似たようなサングラスでもいいと思います。意外と便利なのがつばの大きい帽子です。サンバイザーなどでも使えるかもしれません。
それから、白黒反転のものとか、タイポスコープというのは、どこに入れたらいいかわからないようなグッズなのですが、僕は遮光だと思っています。白黒反転するとコントラストがよくなりますと、よく本に書いてありますが嘘です。これはコントラストの定義そもそもが、背景(地)輝度と図の輝度の差を両者の和で除した値で定義されますから、地と図がひっくり返っても数値は一緒なのです。ではなぜ見えるようになるのかというと、大抵は白地に黒は、白の面積が大きいわけです。黒字に白にすると黒の面積が大きくなるから、全体の輝度が下がる、その分だけ眩しさが減る。眩しさが減るとその分見やすくなって、コントラストが良くなったと感じるわけです。ですから遮光の範疇に白黒反転は入れるべきものだと思います。タイポスコープも、これは黒い紙にスリットが入っているだけのものですが、白い紙の上に書かれた印刷物を見るときに、その黒い紙で遮蔽して、隙間から見える文字を見れば、反射光が減りますから、これも遮光になると考えることができます。

3番目の基本は、照明ですが、これは特に色素変性で夜盲が強い人などは、強い懐中電灯を持っていると、夜道などがずっと安心するということはよくあると思うし、ルーペの使い方で、眼に近づけてルーペを使うと、頭の影で暗くなりますから、それを照明するためにライト付きのルーペは、とても便利だと思います。

4番目の基本は、眼球運動です。今一緒の施設にいるYさんが、眼球運動訓練ではとても有名ですが、彼自身が、自分がやっている訓練がどうして有効なのかわからないと言っています。そのメカニズムがはっきりしないので、眼科の方では全くアシストしていません。でも、実を言うと私は割とそれを気に入っています。というのは、彼の眼球の訓練を受けた患者さんを何人か知っていて、とても評判がいいからです。やはりやってみて良い結果が得られることには、何かしら良いことが隠れているに違いないと思います。漢方薬などもそうだと思います。ただ、医学としてそれを行うためには、メカニズムや科学的な証拠を捉えないといけないわけです。
昔からロービジョンの教科書には、眼球運動は書いてあります。そこにスキャニング、トレーシング、スポッティング、トラッキングという4つの眼の動かし方を説明しています。スキャニングというのは、視野が狭くなったときに、眼を左右に大きく振って、眼の前に何がどこにあるかというのを、スキャンして知るということです。トレーシングというのは、それで見つけたものがどんな格好をしているかという輪郭を、見える視野でもってトレースをして当たりをつける。さらに、ある場所をじっと見ようとするのがスポッティングです。それから、そのものがスーッと動いたときに、例えば歩いている人の顔をジーッと追いかけるような眼の動きがトラッキングです。その4つの動きをしっかり訓練すれば、視野が狭くてもそれなりにうまく視覚を活用できると、教科書には書いてあります。
ところが、そういうトレーニングをしてくれるところがない。うちでもやっていない。それはやっぱりエビデンスがないからで、科学的な裏付けがされていない。どのくらい良くなったかとか、どういうふうになったかという科学的な実験の中で評価されていないのです。でも何かあるはずです。ですから、それも今後評価していく必要があると思っています。

5番目の基本は、便利グッズです。便利グッズというと、携帯電話・パソコン・白杖というのが皆さんから出ていますし、音声機能、白黒反転のいろいろなカップだとか、あるいはまな板だとか出てきます。「大活字」や「日点」などのホームページにも、いろいろな物が売られているので、それを一つ一つ、その方に合った物を選ぶのもいいと思います。

最後の6つ目、環境整備。環境整備といいますと、例えば全盲になってしまうと、物がどこにあるのかというのはわからないですから、「とにかく位置を動かしなさるな。椅子はいつもここ、冷蔵庫の中身もマヨネーズはいつもここというふうにしておけば、自分でそこに行って取って来られるでしょう」という話をします。そういう生活環境の環境整備も、立派な環境整備ですが、それ以上に大事な環境整備が、人的な環境整備です。子供であれば学校の担任の先生やお母さん、大人であればお家の方や会社の上司、この方たちがその方の持っている障害をどれだけ理解できるかということが、その方がどのくらい楽に暮らせるかということに直結しています。
特に今日の「就労の継続」という観点でいえば、会社の上司の理解がものすごく重要になるということは、皆さんよくご存知だと思います。ちょうど今僕のところに、市役所関係の方で眼がうんと悪くなって、就労継続でどうしようと困っている方が来ています。その時に、その方の上司にまず来てもらうのですね。シミュレーションゴーグルという視野が狭くなったり、ぼやけて見えたりするような眼鏡をかけてもらいます。それで直接これを読んで下さいというと、何となくわかってくる。眼の病気の状態も本人から聞くと、本人は大抵素人ですから、素人が素人に説明してもよくわかりませんが、僕ら専門家から話すと、それなりに納得してくれるのです。伝えている内容はあまり変わらないと思うのですが、眼科医が会社の上司に直接話をするチャンスがあれば、それなりに通じるものがあります。そういう意味では、ロービジョンケアの基本は6つあるのですが、患者さんの立場で学校の先生だとか会社の上司に、その方の状況を説明することが、僕は眼科医の役割として1番大きいところではないかなと思っています。さらには、より広い意味での社会の理解を深めていくということも、環境整備の大事な要素ではないかと思っています。

私はロービジョンケアというのは、ニーズの調査から始まりまして、視機能を再評価し、書類を書いて、情報を提供して、ロービジョンエイドを紹介して、環境を整備することにあると思います。もし、これがどこの眼科でもできれば、とても良いことだと思いますが、実際のところなかなかそうはいきません。眼科医からは、ロービジョンクリニックをやりたい、どういうルーペを準備したらいいかという質問が、いまだにいっぱいあります。ロービジョンエイドはこの6分の1に過ぎない、あとは知識とハートがあればできるわけです。そういう意味合いで、もっと何とか普及させないといけないかなと思っています。眼科医の啓発、教育というのは、今後も大事になるのです。

最後に大事な話をしたいと思います。そもそも視覚障害の方の就労にとって問題になっている、本質的な問題というのは一体どこにあるのかということですが、私が今まで診ていた方たちには、いろいろな方がいました。
例えばパソコンが使えるかどうか。パソコンがハイレベルにできる人もいるし、個人使用レベルの人もいるし、練習してもうまく身につかないとかできない、使ったこともないという人もいるわけです。こういうことでも、就労を続けられるかどうかの困難さは、全く違ってきます。それから、「あはきの資格」を取ろうという話になったときに、とんとんと資格を取ってうまく働いている人もいますが、資格は取ったのだが、うまく働けないという人もいます。中には資格を取りたいが、なかなか受からないという方もいます。このように、就労の困難さは人によって違うわけです。
更にはもっと個人的な話で、パソコンとか点字という意味ではなくて、もっと一般的なコミュニケーション能力の高い人とそうでない人、人当たりだとか穏やかであるとか、明るいとか、そういった性格的なことが就労につながるということが出てきます。いくら能力が高い人でも、多分支援は必要なのです。
でもケースごとに支援の仕方は変えるべきであって、そのためには支援方法は、選択肢が多ければ多い程いいのではないかと思います。就労にかかわらず、もう少し広い意味で視覚障害支援ということで、この10数年間を通して、特にこの1年間そういうお役人目線で、どこに問題があるのかなというのを整理したものがあります。僕は、そこには今のところ5つの大きな問題があると考えています。

1番目は、高齢化・障害の重複化に伴うニーズの個人差が増えていることです。
2番目は、「障害者自立支援法」による障害の一般化がなされています。視覚障害だけではなくて、例えば盲・ろう・養護学校を一緒にするとか、身体障害と精神障害、知的障害を、全部ごっちゃにするということです。そういうものを皆一緒くたに考えましょうという路線があります。実は僕もまだ勉強不足ですが、その中には、崇高な思想も入っているのでしょう。すべてが悪いわけではないのです。というのは、最初はただ金がないから、それをごまかすために、当事者に1割負担させるための口実なのではないかと、多分多くの方は、そういう理解だと思うのですが、どうもそれだけではないらしいと僕は感じ始めています。 その崇高な思想がどうであれ、非常に困った問題としてあるのは、支援技術水準が維持できなくなる可能性がある。今までは視覚障害の方には、こういうふうにサポートしましょうという専門家がいましたから、そういう人たちの手に委ねれば、ある程度のサポートが受けられたのです。ところがこれからは、何でもかんでもみて下さいという時代なので、専門性がどんどん失われて、視覚障害に関連した支援技術の水準を維持していくのが、おのずと難しくなるわけです。この2点が今後ますます悪くなる問題ではないかと思っています。
3番目の問題は、ニーズとその対応技術の地域差です。都市部と地方の違いがかなりあります。それはずっと言われているのですが、一向に縮まっていない。
4番目は、大勢のサポーターがいるのですが、そのサポーターの技術は、その方のキャリアに伴って蓄積されるのですが、伝達されないのです。歩行訓練士にしても、生活指導員にしても、特殊な技術というか、その人なりのノウハウをもった優れた人たちがいるのですが、その技術が一般化されて、他の人に伝わることが非常に少ないのです。だから、その人がリタイアしてしまうと、そこでもう終わりなのです。これが今まで指摘されてきたのですが、一向に改善できていないという問題なのです。
5番目は、個人個人ではなくて、国民全体として、あるいは視覚障害者全体として考えた場合のマスのニーズをリアルタイムで把握できないということです。今手帳を持っている人が31万人います。その31万人が全体としてどのように困っていて、何をして欲しいと思っているかということがパッとわからないのです。 多分タートルの執行部の方たちは、ものすごく優秀な方ばかりだと思うのですよね。意見を述べることもできる。優秀な方は職業も持っているし、収入にも困っていない。困っている方がいたら失礼します。ですが、多くの方々は職にも就けないし、部屋でじっとしているしかないみたいな人がいっぱいいます。そういう人たちの意見が、いくら待っても上がってこない。だから、厚労省にこれをやってという要望を出すときに、では、そういうふうに困っている人は、何人いるのと必ず聞かれるのです。そのときに数字が出せないのです。この5つが、現在の視覚障害者の環境をよくしていくために解決していかなければいけないポイントなのではないかと思っています。

最後に少しだけ、それをどうしたら脱却できるかという話をします。これは厚労省の考えではありません。まだ私個人の考えです。要するに、ここが曲がり角ですと盲導犬としては言いたいところなのですが、それを実はこの5月に上げようとしたのですが、真っ先に国リハの中で、お金がかかるから無理と言って、却下されてしまいました。ですから、とにかく草の根運動をして、皆さんの協力を得ながら、10年がかりで実現したいと思っていますので、ここで簡単にその支援計画を述べさせてください。

今お話したような、問題の最大の理由は、トップが考えた支援計画を下の方に向かって、これをやりなさい、こうしなさいと言ってやっている状況から起きていることにあります。それをどのような支援をしたらよいか個々のニーズから決定していくように、情報の流れを逆にしないといけないということです。そのためには、リアルタイムでニーズ調査が可能な情報ネットワークを構築しなければなりません。当事者の方々ひとりひとりの意見が即行で、今はインターネットを使えば秒単位で集まるわけですから、それをすぐにでも集計ができるような体制を作ることがとても大事だと思います。そのための情報ネットを、どうやって組んでいくのか。私としては、その中継点が必要と考え、全国にロービジョンケア総合支援センターというようなものを13カ所くらいつくりたいと思います。そこに歩行訓練士をはじめ、訪問で指導ができるような体制をとって、個々の人たちの意見をリアルタイムにモニターができるようにします。ざっと計画をすると、1,000人の声がその場で手に入るというような情報システムを作ることができるのではないかなと思っています。そうすると何ができるかというと、ロービジョン者のニーズ調査ができる、支援の実態調査をすることで、支援方法がいいのかどうかという評価ができる、そしてそれに関わる人を育てないといけませんので、専門職を育成することができるようになるのです。
更には、医療で1番困っているのは、障害に成り立ての人です。眼が悪く成り立ての人は本当に落ち込みます。そのへこんだ状態から何とか生活をして、また仕事をしてというふうに気が向くまでが大変です。その間をどう過ごせばいいのかということについては、残念ながら私もよくわからないし、これだという答えがうまくまとまってないのです。この初期段階に関わるロービジョンケアをとくにプライマリーロービジョンケアといいます。そういうところにこそこの情報ネットワークを使って情報収集を行い、解決策を練ることができるのではないかと期待されます。そして就労支援技術についても、どうやったら継続できるのかということの事例の収集が、このネットワークで効率よくそして時流に即して行われるようになると考えます。そういう事例検討は、タートルでも行っていると思うのですが、それを全国規模でしていくことによって、より効率的な応用ができるようになるのではないかと思います。
更には、重複障害の問題があります。知的障害とか盲聾など、それぞれの例は少ないかもしれないが、重複の人たちの情報を大規模ネットワークで行えば、これらのまれな事例も集積できるのではないかと考えます。

今日のお話をまとめさせていただこうと思います。最初はまず、障害の受容というのは必須条件ではないと私は思う、という話をしました。それから、いくら医療が、医学が進歩しても、今世紀中はロービジョンケアが必要なものであろうということです。
最後に少ししか時間がなかったのですが、ロービジョンケアの総合情報センターというものを建てて、リアルニーズのリアルタイムモニタリングということが可能になると、トップダウン、上から下への支援計画ではなくてボトムアップ、当事者から上に向かっての集約していくような支援計画の立て方ができます。その方が絶対一人一人の方たちに適したサービスを提供できるようになるのではないかなと思って、今は曲がり角だよと言って、信号を送っているところです。
以上でお話を終わらせていただきます。

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【総会報告】

平成21年度通常総会報告

平成21年6月13日(土)、港勤労福祉会館にて、NPO法人タートルの通常総会が行われた。午前10時半から12時半過ぎまで約2時間余に亘り熱心に審議された。
総会開催に先立ち、5月12日に開催招集通知を正会員全員(211名)に送付し、併せて「表決権行使書・委任状」の往復はがきを別送した結果、出席正会員数は155名(本人出席30名、委任状出席125名)の返信はがきを受けた。定款第26条の規程による会員総数の2分の1以上に達しており、総会は成立した。
司会進行役に安達文洋理事が当たり、議長選出を諮ったところ、大橋由昌理事が選ばれた。議長より本総会の議事録作成について諮り、杉田ひとみ理事と三浦恵美子会員に書記役をお願いし、議事録署名人に新井愛一郎理事と篠島永一理事を選任したい旨、会員に問い掛けたところ全員「異議なし」の声があり、両名も了承し、議案の審議に入った。

(1)第1号議案 平成20年度事業報告(案)

・法人事業について、一括で篠島事務局長より報告。
 相談事業は、工藤相談担当理事が中心になって対応。 面談・電話・メール等を含め120件。直接面談による相談会を四谷センターにおいて15件。地方は地区代表が対応した。相談には内容に沿ったメンバーが参加した。
 交流会事業は石山朋史理事、向田雅哉運営委員を中心に企画運営。4回開催。参加者にアンケートを実施し、満足度、要望等を集計した。
 情報提供事業は、松坂治男副理事長が統括し、情報誌タートルの編集を杉田ひとみ理事が担当して編集し、年間4回発行した。また、通知等を含めホームページやメーリングリストに掲載、あるいは会員へのメール配信等を行った。
 セミナー事業は新井理事が担当。11月6日、「中途視覚障害者の雇用継続支援セミナー」として、熊谷組の職場復帰の事例を中心に中野サンプラザで開催した。
 啓発事業は安達文洋理事が担当し、視覚障害者の就労継続について130社にアンケートを実施。雇用に躊躇するのは、主に「安全な通勤が確保できるのか」「目が見えなくてどんな仕事ができるのか」の2点を懸念していることが分かった。

・支援プロジェクト・調査研究事業について、工藤正一理事より報告。
 厚生労働省から事業を受諾し、検討委員会とワーキンググループを立ち上げた。当事者及び人事担当者に対するアンケートを作成し、訪問調査を実施した。11月にセミナーを開催した。経過及び結果を調査報告書としてまとめ印刷し、関係諸機関に配布した。

・以上の報告を受けて何か質問がないか、大橋議長より問い掛け、質問を受けた。
 嶋垣謹哉会員より質問があり、正会員と賛助会員に対するタートルとしての基本的考え方と今後の増減の方向性はどのようになるか。
 下堂薗理事長から回答し、正会員については本人の自由意思を尊重してきたため、自然増、自然減の状況であるが、現在、やや増加状態にある。このところ、相談にきた者には「一緒に手を携えて進みましょう」と積極的に入会を勧めている。賛助会員はタートルの理解者・支援者として重要な存在であり、また、財政基盤を支えてくれる存在でもあると思っている。積極的に増やしていく方向を考え、方策等は執行部で議論していく。
 伊藤敏明会員から質問あり。相談事業において、就労継続事例はどんな状況にあったか。
 工藤理事より、最近の相談事例は雇用継続がほとんど、休職して復職とか、辞めてしまったという事例はない。働き続けるという事例の支援で、継続的なフォローアップが必要で時間が掛かる。

議長より承認を求めたところ、拍手をもって承認された。

(2)第2号議案 平成20年度収支決算報告(案)

一般会計、特別会計について一括で篠島事務局長から報告。

(3)第3号議案 平成20年度監査報告

和泉森太監事より監査報告がなされた。
第2、3号議案は拍手をもって承認された。

(4)第4号議案 平成21年度事業計画(案)

篠島事務局長より一括提案、説明。
相談事業として眼科医との連携・協力を強め、ロービジョンケアを含めた初期相談会を従前の相談会に加え開催する。交流会、情報提供は継続、セミナーと啓発が連携して企業向け啓発ビデオの作成に取り組む。
拍手をもって承認。

(5)第5号議案 平成21年度予算(案)

篠島事務局長より提案、説明。
嶋垣会員より、賛助会員増に会員全員が協力義務を持つことが必要、との意見。執行部で要検討と回答。
以上、拍手をもって承認。

(6)第6号議案 定款変更について

1. 理事の定数の変更について
役員定数は現行定款上では、9名から15名となっているが、欠員補充の困難さと事業運営の拡大に理事の増員を徐々に図っていくために、3名から20名と幅を持たせる、との理由を全員了承し、承認された。

2. 表決権行使の電子メール利用について
視覚障害当事者の正会員が多いこともあり、電磁的方法(電子メール)による連絡手段が取れれば極めて効率的かつ確実である。特に表決権行使について適用できれば、葉書による委任状の提出に比べ格段に意思表示しやすい。等々のメリットを伝え、承認を求めたところ、全員拍手をもって、承認された。

3. NPO法人タートルの通称について
通称を「中途視覚障害者の復職を考える会」とするのは、みなのコンセンサスが得られていないのではないか。もっと議論が必要、と嶋垣会員から意見が出された。
会場から理事会に一任の声が上がり、理事会で再議論することとなった。

(7)第7号議案 平成21年度役員選任

篠島事務局長から新任役員の推薦提案があった。各地区代表の3人を理事に、金子光宏(東北)、堀康次郎(近畿)、藤井貢(中国)、そして関東地区在住の運営委員の一人大脇俊隆運営委員の理事就任について、承認を求めた。また、朝山義啓会員、中村太一会員、そして三浦恵美子会員を新たに運営委員として推薦することで賛同を求めた。
全員異議なしの声あり。拍手をもって承認された。

なお、総会後の6月27日に行われた平成21年度第1回理事会において、定款変更の一つとして提案された通称については見送ることとした。また、支援プロジェクトのような大きな金額の国庫補助等については、決定の内示が総会時期よりもずれ込むこともあって、事業計画や予算案に当初から組み入れることは困難なため、特別会計として処理するだけでなく、法人会計に組み入れ補正することが望ましいとの近藤豊彦監事からの指摘もあり、今年度については決算書の修正をすることで決着することとした。(※)
※P18・P19の報告書をご参照ください。

(理事:篠島 永一)

平成20年度 特定非営利活動に係る事業会計収支計算書
平成20年4月1日から平成21年3月31日まで

特定非営利活動法人タートル
科目 予算額 決算額 摘要
(経常収支の部)


T 経常収入の部


1 会費収入 \1,600,000 \1,090,000
・正会員 \1,100,000 \935,000 210人中 187人
・賛助会員 \500,000 \155,000
2 事業収入  \62,000 \87,365
・交流会事業収入 \12,000 \87,365
・セミナー事業収入 \50,000 \0
3 補助金等収入 \0 \6,800,000 調査研究国庫補助
4 寄付金等収入 \200,000 \706,970 ロービジョン学会ほか
5 その他の収入 \2,311,671 \2,315,370
・利息収入等 \1,000 \4,699
・前期繰越金繰入 \2,310,671 \2,310,671
T 経常収入合計 \4,173,671 \10,999,705
U 経常支出の部


1 事業費 \1,840,000 \8,133,421
・相談事業費 \320,000 \190,610 借室料 60,000
・交流会開催事業費 \490,000 \434,575 名古屋交流会等
・情報提供事業費 \400,000 \527,553 タートル2,3,4,5号関係、HP等
・セミナー開催事業費 \300,000 \0
・就労啓発事業費 \330,000 \182,520 借室料 60,000
・支援プロジェクト調査研究事業費 \0 \6,798,163 別紙特別会計参照
2 管理費 \630,000 \477,583
・役員報酬 \0 \0
・給料手当 \0 \0
・備品費 \30,000 \0
・光熱水費 \0 \0
・消耗品費 \150,000 \137,572
・通信運搬費 \150,000 \125,346
・交通費 \200,000 \171,010
・印刷製本費 \50,000 \0
・租税公課 \0 \3,000
・雑費 \50,000 \40,655 LV学会費、名刺作成ほか
3 予備費 \100,000 \0
U 経常支出合計 \2,570,000 \8,611,004
経常収支差額(T−U) \1,603,671 \2,388,701
当期収支差額 \1,603,671 \2,388,701
次期繰越収支差額 \1,603,671 \2,388,701

会計担当:篠島永一

〔平成20年度 会計監査報告〕

平成21年4月10日
監査の結果、相違ないことを認めます。

会計監査:和泉森太
近藤豊彦

支援プロジェクト調査研究事業支出内訳表

特定非営利活動法人タートル
経費区分 対象経費の実支出額 積算内訳 備考
報酬 \384,980 検討会 3回 延べ26人
賃金 \667,800 ワーキンググループ(WG) 352,800 @5,000 延べ31人
事務 3人 315,000

諸謝金 \737,560 WG 176,830 @5,600 8回 延べ63人
セミナー 128,000
原稿執筆 432,730

旅費 \775,330 検討会 3回 325,860
WG 224,470
セミナー 225,000

消耗品費 \45,364

会議費 \10,495

報告書作成費


企画編集 \300,310 報告書編集等 156,460
版下作成 143,850

印刷製本 \2,451,120 印刷製本 @475x4,000冊=1,900,000円
封筒印刷・配布先発送一式 434,000円
消費税等 117,120

雑役務費 \657,354 検討会 217,192 記録作成 @25,000 延べ8.15h
WG 198,105 訪問調査まとめ @12,000 15社
セミナー 242,057 @25,000 4h 編集 資料

委託料 \300,420 視覚障害情報機器関係情報収集
交通費 \172,840 事務員
通信費 \40,000

会場借上費 \254,590 検討会 105,000 @35,000X3回
WG 60,000 @12,000X5回
セミナー 89,590

合計 \6,798,163

(注) 1.実施した事業ごとに別葉とすること。
    2.「経費区分」欄には、交付要綱の4の別表の第4欄に定められた対象経費により記入すること。

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【職場で頑張っています】

「復職・転職・その後」

前田 青(まえだ じょう)氏

今回誌面の末席を汚させていただくことになりました、杉並区の前田と申します。 毎度の会合に参加しているわけでもなく不義理の限りでご認識も薄い輩ではありますが、宜しくお願いいたします。

タートルに入会して約3年になろうとしています。若い頃から数度の手術を重ねた結果、左眼の光を失い、右眼も硝子体を除去した状態で晴眼者に紛れて生活してきましたが、一昨年の秋に残された視野にも違和を感じ手術、入院をいたしました。術後の経過は最悪な状態から逃れることが出来たものの、一年間の休職をしたことから会社の人事との復職交渉に難航し、会の方々のお知恵とご支援を頂戴しましたのが本格的なご縁の始まりです。

入院前の次第に見えなくなっていく状況の中、方々の病院や団体で将来に対する憂いを解決する糸口について訪ね歩いても何ら回答が得られぬまま、ネットでタートルの存在を知り、すぐに場を設けるとの返事をいただきながら入院してしまったことで一度は縋る機会も逸したと諦めていました。

ロービジョンで済んだ己の境遇の有難味を感じてはいましたが、その状況でも社会的な佇まいの厳しさに直面し、頼れる場所がないことを実感させられ、今まで進んできた道に見切りをつけなければならない危惧に途方に暮れていました。
しかしその時期に、入院先で日本ロービジョン学会理事でもある北九州市立総合療育センター眼科部長の高橋広先生が開設されたロービジョンケアを受診したことがきっかけとなり、再びタートルへの門戸を開いていただく機会を得ることになりました。

高橋先生の診察では、残された視力を活用して今までの仕事から離れることなく対応できることを体感でき、会の方々には会社への説得方法などをレクチャーしていただき、復職も叶い、皆様の存在の有難味を感じ、自分の大きな転機に至ったことを述懐しています。

現在では残存視力の負担を考えてその会社を退職し、現職に籍を置いて1年が経過しています。四十も半ばとなり、年齢的にも身体状況としても再就職は厳しいかと諦めておりましたが、今までの経験を汲んでいただき現職に就くことができました。
職場はいわゆる企業の障害者雇用を推進するために、数年前より新規に興された部署でありますが、特例子会社の範疇ではなく本社内で健常者と肩を並べて勤務しています。
仕事内容は本社ウェブサイト、イントラサイトの制作更新、掲示物などのデザイン制作などを柱に聾学校への出張授業など多岐に渡っています。自分はそこでデザイン全般を新人に教える立場にいます。そしてこの春より社会貢献活動(C.S.R.)の一環として、医療機関向けのホームページ制作、パンフレット、ポスター、会合用スライド、刊行物など、社外へのデザイン業務を開始しました。

新規事業の基盤固めとして、環境づくりの毎日にせわしなくしておりますが、そのためデスクワークの経験しかなかった私が、営業に出向くことにもなっている現在です。
美術デザインの分野だけに精進してきた自分にとって文章を書くことよりも苦手であることが「交渉事」。よもやこの年齢で初対面の人間に言葉で説明せねばならない仕事に就くとは思いも寄らない事態となっています。

そんな私の不得手ごとにも上司が連れ出していくのには理由があります。実はこの職場には視覚障害の人間は私しかいません。肢体障害の者も数人おりますが、他は全て聴覚障害の新人ばかり。下手くそな1年かけて築き上げたコミュニケーション手段で、私は担当新人へ通訳の役目を仰せ付かっているという訳です。

基本的に手話はジェスチャーのようなものですが、殊にデザイン関連については説明しづらいものです。色やイメージ、専門用語など形がない事象のニュアンスを伝えるのに入社当初は頭を抱えたものでした。 一言にデザインといっても、各々が持つイメージは異なります。それを如何にして依頼主の理想に近づけていくかが腕の見せ所ですが、言葉が通じる訳知った仲間でさえ疎通が難しい事柄ですから、私が腐心する状況を察していただくのも難しいかもしれません。 今でも伝達が成功しているとはいえませんし、将来的にも完璧に伝えられることはまずないでしょう。しかし、少しずつ…本当に少しずつですが手応えを感じつつある近況です。

初めのころは聴覚障害者同士にありがちなコミュニティーを作りたがる、ぬるま湯状態に激高してしまい「オニ」呼ばわりされていましたが、自分からコツコツと手話を覚え、関わりをもっていくうちに徐々に理解を示し始めてくれています。 これは交渉事…つまり言葉のコミュケーションの苦手な自分にとってもあまり経験のない嬉しさでもあります。親子ほどの年齢差があり、社会人経験も少ない者たちが私の意思を感受していく様は驚きでもあり、今の自分の励みとなっています。勿論良い事ばかりではなく、未だお互いの不慣れさから衝突することもままありますが、建設的な経験をさせてもらっていると実感している現在です。

本音を言うと苦手事である分、永く身を置くことも難しいと思うほど日々もの凄く疲れてしまいます。しかしこの経験は、自分にとって無駄ではなく、自分の培ったものを少しでも受け継いでくれるありがたい存在として感謝しています。また、その環境に身を置けることに心から意義と責任を感じている次第です。

以上を書き記し、日々の報告とさせていただきます。

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【情報コーナー】

在職者訓練について(お知らせ)

理事長 下堂薗 保

職業能力開発施策の一つに、「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」というのがあります。これは、公共の専門訓練施設以外でも、様々なニーズに応じて職業訓練を行えるようにする制度です。企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等を委託先として職業訓練を行うものです。
これまでこの委託訓練を受講できるのは、離職の状態にある方、または休職中の方でしたが、今年 2009年4月から在職者の方が受講可能なコースが設けられました。
窓口は、各都道府県の障害者職業能力開発校です。

在職者訓練コース

在職障害者(休職中の者を除く。)に対して、雇用継続に資する知識・技能を付与するための在職者訓練コースは、次により実施するものとする。
(イ)訓練期間は、原則として3ヶ月以内とし、訓練時間は下限12時間、上限160時間とし、訓練受講生の障害の程度及び訓練職種に応じて定めるものとする。
その際、1単位時間を45分以上60分未満とする場合にあっては、当該1単位時間を1時間と見なすものとする。
(ロ)訓練内容は、
@ 専門学校、各種学校等の民間教育訓練機関、障害者に対する支援実績のある社会福祉法人等、障害者を支援する目的で設立されたNPO法人等を委託先として、知識・技能の習得を目的として実施するもの(在職者訓練コース〈知識・技能習得〉)
A在職障害者が現に勤務する企業等に、委託訓練を受託した民間教育訓練機関等の専門家等が赴き、企業の現場に即応した訓練を実施するもの(在職者訓練コース〈指導員派遣〉)
Bインターネットを利用して、教材の配信、受講状況の管理、技能習得指導等を行うe-ラーニングのノウハウがある在宅就業支援団体 (障害者雇用促進法第74条の2に定める法人)等の機関を委託先とし、IT技能等の習得を図るもの(在職者訓練コース〈e-ラーニング〉)とする。
*なお、在職者訓練コース〈指導員派遣〉については、受講者である在職障害者を雇用する企業は、自ら委託訓練を受託することはできないものとする。

[訓練の例]

いささか時期遅れですが、参考までに掲載します。今後も開講されると思われますのでお問い合わせください。

e-ラーニング「視覚障害者ビジネススキル向上コース」の募集について
通勤が困難で在宅就労を目指す障害者を対象に、メールによる講習課題の送付と指導・受講者からの回答により、きめ細かく個々の特性に応じた指導による職業訓練を行います。
必要に応じて月1回のパソコンボランティアの訪問があります。

第4期「e-ラーニング 視覚障害者ビジネススキル向上コース」
開講予定:平成21年 5月
期間:4ヶ月間(324時間)(1日4時間)
受講者:仕事を求めている、または仕事を休んでいる視覚障害者で、訓練施設への通所が困難な方(東京および近県)
申込み先:ハローワーク
受講料:(本人の負担はありません)
内容:
Windows(OS)… タッチタイピング、環境設定、ファイル管理、視覚障害補償・ソフト・ハード… 画面読み上げソフト、画面拡大ソフト、点字ディスプレイ、点字プリンタ、文字認識ソフト(48時間)
Internet/mail… メールの作成、送受信、アドレス帳、添付ファイル、インターネット検索、アクセシビリティ、ホームページ作成(48時間)
Excel… データ入力、編集、検索、並び替え、抽出、集計、関数、ピボットテーブル、グラフ (48時間)
Word… 文章入力、文書編集、ビジネスレター作成、印刷、各種機能、差込印刷、PDFファイル (48時間)
ビジネス・就労支援… ビジネスマナー、社会・経済、模擬面接、会社選び、模擬実習、会社見学等 (48時間)

問合せ先:
・視覚障害者就労生涯学習支援センター
〒156-0043東京都世田谷区松原1-46-7 シーズ松原1F
TEL/FAX 03-6379-3888
e-mail eiko_inouye@piano.ocn.ne.jp
・東京しごと財団 Tel.03-3202-2122

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【編集後記】

朝夕も涼しくなり、食欲の秋、スポーツの秋、タートル交流会の季節となりました。いよいよインターネットのスカイプを利用して、東京会場と大阪会場を結んでの交流会となるそうです。
さて、前号(タートル7号)から紙面サイズをB5からA4に変更しました。文字サイズも少し大きくなりました。読みやすくなったと言う声も届いています。
また、編集部では皆様からの投稿をお待ちしています。お仕事のこと、趣味のことなどを約1500字くらいにまとめて事務局宛お寄せください。

(理事 杉田 ひとみ)

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