会報「タートル」29号(2003.8.17)

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2003年8月17日発行 SSKU 増刊 通巻第1197号

中途視覚障害者の復職を考える会
タートル 29 号


目次

【巻頭言】
「変至らざるなし。応当たらざるなし」

タートルの会 事務局長 篠島永一

 世の中は激しく動いています。激動の時代などと言われていますが、あらゆる分野で変革を求められています。
 福祉の世界では基礎構造改革が推し進められ、介護保険制度の導入に続いて、平成15年度には措置制度から契約制度へと移行しました。社会福祉法人と新規参入事業者とがお互いに競い合うことで、よりよい福祉サービスを提供しようと努めることになるわけです。
 社会福祉法人は厳しく経営改革を求められています。利用者の満足度を高めるためには、そこで働く職員の満足度が高められなければ、専門性を発揮して質の高い心の通うサービスは提供できません。ただ一生懸命に頑張ることだけでは立ち行きません。透明性を確保し、情報の開示を進め、広範に協力を求めていく、この姿勢を示しつつ、専門性と独自性を発揮していくことが大事になります。環境変化に主導的に適合することが大切です。
 「タートルの会」が発足して間もなく、『中途失明〜それでも朝はくる〜』を出版しました。これは当事者の手記を集めてまとめたものです。この本はマスコミに注目され、新聞報道による本の紹介記事が断続的に掲載されたのです。そのことは社会に強いインパクトを与え、「タートルの会」の存在をアピールできたと思います。それにともない会員の数は飛躍的に増えていきました。また一方で、働く環境も変化し、とくにパソコンを中心とするIT環境は様変わりしました。
 現在、会長が編集長となり編集委員会をつくり、次期出版に向けて努力しているところです。「見えなくても、見えにくくても、働けるんだ」ということを雇用主に理解してもらおうとするのがねらいであります。IT関連、特にインターネットにアクセスすることによる新たな仕事、職域が視覚障害者の働く分野として雇用の実例を増やしつつあるところです。
 最初の本に私も当事者の一人として、あるいは職能開発を行う側の支援者の一人として、書かせていただきました。その最後に、私が肝に銘じている言葉、標題のような「変至らざるなし。応当たらざるなし」を書いています。人生いろいろな変化に遭遇します。その変というものは、予測できるものもありますが、自分の力ではどうにもならない運命的なものもあります。問題はその変にどう対処するかです。変化に応ずるのに常に前向きに最善の策を考える姿勢と行動力が大切です。
 視覚障害者は変化に弱いといわれます。中途視覚障害者は大きな変化に遭遇し、これに強く立ち向かった人間です。思いも掛けぬ変化に直面し、乗り越えてきた自信は大きな力となっているはずです。変化の大小にかかわらず様々な変化にしたたかに、しなやかに対応できるよう不断の努力と前向きな考え方を持ち続けたいものです。


【基調講演】
<慮る力>

講師:岡本呻也氏

はじめに

 皆さん、初めまして。ジャーナリストの岡本呻也(おかもとしんや)です。以前はビジネス雑誌の編集者をしておりました
 本日は、私が以前書きました『慮る力』(おもんばかるちから)という本についてお話したいと思います。
 『慮る力』という本は、どうも最近サービス業などで、人のことを慮る姿勢がどんどんなくなってきて、サービスが悪くなってきているような気がしてきています。そこで、ちゃんとした質の高い仕事をしているプロフェッショナルはどういうやり方をしているだろうかと思ったのが、この本を書いたきっかけなんです。
 「人が仕事をする」ということはどういうことか考えてみますと、必ず他の人に働きかけているわけです。どんなときにも相手があります。プロフェッショナルはどういう仕事の仕方をしているかというと、どんな仕事でも、その仕事を受け取ってくれる相手の顔を想像しながら仕事をしていると思うんです。
 それを基本に考えて、人と人との関係は、どういうふうにして心を通してつながっているのか、自分と他人の関係をどういうふうに考えたらいいのか、というふうなところにまで、話が広がっていったわけなんです。

「心の力」を使う

 一番最初に考えたのは、実は「自動車の運転」なんです。町の中心の道でラッシュのときなんかは、2車線とか、3車線の道を車がぎゅうぎゅう詰めになって走っているわけです。みんな、てんでんばらばらな方向に車線変更をしている。
 ところがぶつからないんです。これは考えてみたら、ものすごく高度な調整をドライバー同士の間でしているということです。事故が起こらないのは、運転にどんどん慣れていくに従って、どういうふうに周りのことを考えればいいのかがわかってきて、自由に、ほかの車とぶつからないだけの距離をとれるようになるという、慣れといえば慣れなんですけれど、慣れってどういうことなのかなと考えてみたいと思うんです。
 自動車には「走る、曲がる、止まる」という3つの動きしかない。でも、アクセルを踏めたり、ハンドルを動かしたり、ブレーキが踏めれば運転はできるというのは勘違いです。運転は操作するのではないんです。そう思っている人は、自己中心的な迷惑運転をしてしまいます。
 まず最初に、ドライバーは、自分の目的や立場を認識しないといけません。それで周りの車の動きを見て、あの車ちょっと割り込みそうだなと思うと、スピードを落として入れてやったりするわけです。つまり周囲の車の動きを見て、お互い助け合いをしているわけです。
 相手のドライバーの心理を読むためには、自分の方に身構えが必要なんです。ただ前を見ているだけではだめで、心が向かっていることの方が重要です。人は自分に興味のないものを認知しないわけです。自分の気持ちを集中させないと、相手の気持ちを読めないわけです。
 相手の気持ちを読むためには、自分自身の心に気を配る必要があるわけですね。それはどういう状態なのかというと、運転でいうとリラックスして運転するということなんです。リラックスとは、力は抜けているけれども気が前に向いている状態です。「これから運転するぞ」と思っている状態です。
 このときには自分の能力を発揮して相手が何を考えているかを知ることができる。緊張していると自分がやりたいことばっかりが前に立ちますから、周りの状況がわからないんです。
 要するに「構え」です。「構え」は武道の言葉ですけれど、構えをつくるというのは結局、相手のことを考えるとか、状況を考えて意識をすることです。
 心構えができますと、運転を教える教官の人が言っていたんですが、「心の力」を使うことができるんじゃないのかなと。。つまり心を使うことによって、周囲に気配りができるし、相手の心の先を読めるということなんです。
 まとめますと、人が生きていくため、あるいは他人と交わっていくためには、最初に自分の立場や目的は何なのかを、よく考える必要があるということです。
 2番目に自分の心をもっと相手に向ける。相手のことをよく認識する必要があるわけですね。
 3番目に自分自身の心を、意識してコントロールする。つまり急いでいるときは急がずに1テンポ待って、間をおいてリラックスをするようにすると。
 自分の立場や目的を考える、そして相手に心を向ける、自分の心もコントロールする。その3つのステップを踏むと相手が考えていることがよくわかるし、摩擦が相手との間で起きないし、お互いが緊張せずにすみます。結果として物事がうまくいく。
 これを延長してプロフェッショナルの人はどういう仕事の仕方をしているかを見ていきたいと思います。

葬儀社

 お客さんのことを一番慮らないといけない仕事で葬儀社があります。公益社という会社で、当時入社6年目の実直そうな青年にお話を伺いました。この人は年間に50件ぐらい個人葬、個人のお葬式を取り仕切っておられます。
 彼は中学生の時にお母さんが、大学3年生のときにお父さんが亡くなって、両方喪主をやらなくてはいけなかった。出棺直前に「棺の中に何か入れたい物はないですか」と葬儀社の人に言われて、そんなこといきなり言われたってわからないわけで。ますます取り乱してしまうわけです。それが原点で、もし自分が葬儀社なら、喪主の立場や希望を尊重してあげられるのではないだろうかと思って葬儀社に入ったとのお話でした。
 彼が言うには、お葬式になったら、遺族はとにかく精神的に非常に不安定になっている。そういう中にあってその御遺族の満足していただけるような葬儀を出すためには、本当にちょっとした気遣いが大切だと言うんですね。病院から式場に直行する場合も、自宅の前を通るコースにするとか、お葬式の日に晴れていただけでも「晴れていてよかった」というふうに思うような、少しでもいいことがあったらそれにあやかりたいと思うようなのが、ご遺族の心理ですから。そんなときに自分が致命的な失敗をしたら、それはもう一生遺族の心の中に残るから、間違いがあってはならないと彼は言うわけです。
 心が弱っている遺族ですと、簡単につけ入ることができるんです。そういうことをやってはいけないと、彼は自分をすごく戒めておりまして、これがまさにプロとしての職業倫理なわけです。やっぱりプロである以上は相手のことをとことん考えて仕事をし、また相手の利益を守らなくてはいけないんです。そういう部分が今非常にゆるくなってきているな、というふうに僕は思います。プロがだんだん減っています。
 「お葬式が悲惨な状況であればあるほど、頑張ろう」と彼は考えると言うんです。とにかく心底そういう悲惨な状況の御遺族には同情すると。
 「もし、あした自分が死ぬのなら、会社の利益、例えばちょっといい仏壇を使うとか、そういうふうなことをするよりも、あのときあのご遺族に満足を与えることができた、ああよかったなというふうなことの方が満足できる。会社の利益よりお客さんの利益が大切だ」と言うんです。だから彼自身は「自分は競争には全く向いてない人間です」と言っていました。確かにそうだと思います。ですけれど、そういう人も世の中には必要なんだと思うんですね。
 葬儀がすごく悲惨なケースだったならば、もう遺族の人というのは気が動転してますから、彼が一生懸命仕事をしても、お客さんはよろこんでくれることはないんです。むしろ気がつかないんですね、彼がやっている気配りには。でも彼はこう言うんですね。自分は長男なのに、もう親の面倒をみなくていい。だから1件でも多く葬儀をやって、1人でも多くの遺族の人に会って「今大変ですけども何とかなるんですよ」と伝えたいと。彼は遺体に接するときには自分の親に接するようにしているわけですね。そういう気持ちを持っていると言ってました。
 僕は取材に行くとよく「この仕事をやっていて泣いた経験はありますか」と聞くんです。彼は「泣いた経験というのはこの仕事をやっていて一度もない。あえて泣かないことにしています」と言っていました。「どうしてですか」と聞いたら、葬儀の現場は家族にとってはシビアな現実以外ないわけです。ですからそんなところでもらい泣きをするというのはテレビのドラマを見て泣いているようなものであって、御遺族の大変な状況に直面している気持ちが本当にわかっているとは自分には思えないというんです。
 遺族が何を望んでいるかというと、亡くなった本人が生き返ってくれないかと望んでいるわけです。でもそれはもう無理です。生半可な同情をして泣くよりも、そこはプロとして接して仕事をするのが一番、御遺族を思うことなんじゃないかと。彼は「自分が機械になったような気持ちで自分の感情を整理して遺族のために仕事をさせていただいているんです」と言うわけです。
 すさまじいプロ根性だと思います。中途半端に相手の気持ちを推し量るテクニックをはるかに超えていて、自己満足なんていうのはそこには一かけらもないわけです。自分の感情を頭から否定して、自分の心を殺して遺族の身になって仕事をするという。これは共感性がベースになって、ずっと進めていくと自分の立場がほとんど「無」になっているという感じですよね。
 だってビジネスなんですから利益を取らなきゃいけないのに、彼はそれすらも捨ててもいいと言っているわけですから。そういうふうなところがプロとして、非常にレベルの高い仕事を行う人にあります。つまり自分を無にする。自分がその場からなくなって、お客さんのことを真剣に考えている状態です。非常に、印象的なお話でした。

再就職支援会社

 再就職支援会社というのがありまして、これは不幸なことに会社の雇用調整の対象になった人がそこの会社に行ってカウンセリングを受けて、再就職のサポートをしてくれる会社なんです。大体そこの会社に行ってカウンセリングを受けて平均して4カ月ぐらいで再就職先を決める人が多いそうです。
 カウンセリングをすることによって、来てもらった人たちに、自信を持って再就職をする目標に突き進む活力を与えるのが、カウンセラーの仕事です。この会社のカウンセラーの1人にお話を伺ったんです。58歳。30年間アパレルメーカーにいたんですけど、リストラされちゃったんです。ですからリストラをされた人の気持ちが非常によくわかっている人なんです。
 カウンセラーの仕事を伺ったんですが、2つの段階があるらしいんですね。まず最初にカウンセリングを受けに来られた人と会って、1カ月の間に週に1回ぐらいのペースで1時間カウンセリングをする。
 今後その人が何をしたいのか、どうしたいのかを聞き出して、その人の向かう方向性を一緒になって考えてあげることが第1のお仕事です。ここで問題なのは、そういう人たちは会社に見捨てられて心に傷を負っている。世の中の全てに対して疑いの心を持つようになってしまっている。何でおれがリストラされなきゃいけなかったのかという気持ちを抱えて、心に傷がついちゃっているんですね。
 壊れた心の持ち主に、この人たちなら本当に信頼して話ができると思ってもらわなきゃいけない。信頼を勝ち取ることが仕事になるわけです。
 カウンセラーの人たちはクライアント=お客さんに会ったときに、まず最初に自分自身の誠実さを自分の表情と笑顔で伝える、あるいは真摯なことばで伝えるということをする。相手の気持ちを解きほぐすのが最初ですよね。
 カウンセリングをしていく中で、非常にささいな言葉から本人がその次に何をやりたいと望んでいるのかを「真面目に聞いてあげますよ、私はあなたの言うことを何でも聞きますよ」という姿勢を示してあげないといけないんです。そうすると安心感を持って「僕は会社はリストラされたけど、次はこういうことをしたいんだ」と話してくれるわけです。
 2番目にやることは相手の信頼を勝ち取って、相手がこれから再就職をしたいとすると、本人が何が得意なのか、本人の持っている能力は何かを聞き出してあげるということです。
 再就職するためには履歴書と職務経歴書を書かなければなりません。職務経歴書とは、自分がこれまでやってきた仕事は何なのかを、具体的に書くものです。ところが20年間会社にいて、自分が何やっていたかを思い出すのは、日記でもつけてないとなかなか難しい。どうするかというと、「とにかく自分の記憶にある職歴をあらかじめ書いてきてください」と。
 職歴を見ると羅列してあるだけで、何の感動もここからは見えてこないわけですけれど、カウンセラーはこの職歴の中で「あなたが本当に楽しく仕事をしていた瞬間はいつですか」とか、「あなたが一番腹を立てながら仕事をしていたのはいつですか」と聞いていくんです。仕事の中身を細かく聞いていきますと、だんだん自分自身の昔のことを思い出してくるわけです。
 「そういえばこのときやっていたことってすごく楽しかったよなあ」いうふうに、どんどんどんどん思い出してくる。「経理ができます」と言っただけだったら、経理の中で何が得意なのかがわからないわけですけれど、経理の仕事をやっていて、このときすごく面白かったなあ、楽しかったなあ、腹が立ったなあと思い出してくると、「じゃこれがあなたが一番得意なことなんじゃないですか。あなたはこれできるんじゃないですか。本当のスキルはこれじゃないですか」というのがだんだん見えてくるんです。自分が一生懸命仕事をしていたときのことは、我を忘れてやってますから、順調な時のことは忘れていっちゃうんです。けど、こうやってカウンセラーに話を聞いてもらって自分の過去を振り返っていくと、「そうだ俺はこういうことができたんだ」と本人が気がつくんですね。
 「あなたが一番得意なことはそれなんだから、それをもっと膨らませて書けばいいじゃないですか」
 「そういえばあの時この仕事で成功してすごく嬉しかったよな」と思い出す。そういう気づきがあればあるほど、それは本人の自信の元になるんです。それによって非常に落ち込んでいた本人の元気を復活させられるわけです。
 自分が得意なことに気がついて、「その方向で再就職しよう」と考えて再就職活動を始めるわけなんですけれど、そのときは思い切りがついていますから、カウンセラーにはあんまりもう相談することってないんです。基本的には自分の選択に沿って再就職活動を進められるようになって、もうカウンセラーが精神的に彼を支える必要はないということです。
 この仕事から何がわかるかというと、カウンセラーはとにかくリストラされた人の話を誠実に何でもきちんと聞いて、相手が言っていることに共感して、共感することによって初めて「この人は私の言っていることがよくわかってくれるんだ、じゃこの人に何でも話してみよう」と考えるわけです。どんどん話を進めていく中で気づきが引き出されて、「おれが本当にできるのはこれなんだ」とわかるわけです。それが非常に転職の成功に役に立つわけなんです。
 結局カウンセラーのやっていることは転職者個人と同じ視点で、一緒に考えて一緒に悩んで、彼を1人の個人として人間として尊重してあげる、そういうことです。相手を相手として認めてあげることが非常に重要なんです。それによってクライアントは、昔自分が輝いていた頃に気持ちが戻っていけるわけです。
 相手の心に寄り添う気持ちを持っていれば、相手と一緒にあることができるわけです。クライアントの心に手を添えてあげるという感じでしょうか。そのときに「再就職の方向に早く話をまとめよう」なんてカウンセラーがやってしまうと、信頼が崩れて話が引き出せなくなってしまうし、また本人の気づきも遅れてしまう。あくまでも相手の気持ちに寄り添うことが必要です。
 人間が生きるための答えは、他のどこにもないんです。自分の心の中にあるわけです。どんな人間でも強い芯が心の中にあるわけです。それを思い出したら、一度自分が否定されたとしても、また思い出せばそこから自信が湧きあがってくる、それからまたこの先状況が変わったとしても生きていける、そういう価値観をそこから見つけていけるはずだと思うんです。
 そういった芯は普段意識していないし、またそういう本来の能力もあんまり普段は意識していないんですけれど、どんな人でもそれは心の中にあると僕は思うんです。カウンセラーはそれをあくまでも相手の心に寄り添うことによって引き出していくわけです。そのときにカウンセラーの心ってどうなっているかというとやっぱり同じように「無」になってはいないでしょうか。自分をそのときは消しちゃってるんじゃないでしょうか。
 自分を消すことによって相手の気持ち、また相手の心の中にある本来の能力を探り当てるお手伝いをすることができるんじゃないんだろうかと思うんです。。

茶の心

 最後に、茶道はどう考えているかを見てみたいと思います。実は私はこれまで茶室に入ったことがない人間だったんです。1回お茶のお師匠さんのところに行って茶室に入ってみて、よくわからないなと思いながら先代の千宗室さんのところに行って話を聞いたんです。
 家元はこういうふうに言うんです。「お茶は自分のためにたてるんじゃなくて他人のためにたてるんですよ」と。
 あくまで「もてなし」なんです。茶席のときにお茶をたてても亭主は自分では飲まないですよね、お客さんのためにたてているわけであって。ですからそれは純粋にあなたのためを思っているというのを表現しているわけです。茶席にはいろいろなルールがあります、またもてなすために大変な準備があります。掃除しなきゃいけないし、道具はどれにしようかなとか、掛け物とか花とかいちいち工夫をしなければなりません。でもその工夫はお客さんのことを思っている亭主の気持ちをあらわしているんです。そういう思いやりがなければならない。
 またお茶の世界では思いやりにはさりげなさがないといけないと言っています。おれはこういうふうにしてあなたのことを考えてるんだという押しつけがましい部分があってはいけない。亭主はさりげなく、でも私はあなたのことを考えてるんですよと姿勢で示して、招かれてるお客さんの方も「あなたが考えてるもてなしというのはこういうものですね」と自然にすうっと受け止める、お客さんと亭主がすうっと自然に一体化するという、そういうことがお茶の中では望ましいんですよ、ということなんです。1歩ずつ歩み寄るということなんです。
 上司と部下の関係でも、家族でも摩擦が起きているところってあると思うんですけれど、1歩ずつ譲り合う、1歩ずつ歩み合えばいい、そこに必要なのは「思いやりの心」なんです。お互いを思いやる、何を思いやるのか、相手は自分と同じような心を持っている人なんです。だから自分が心が痛いときには相手も痛いんです。
 相手の気持ちを考えて行動する、そしてそのときに自分の気持ちもちょっと押さえる、あるいは相手を思いやった行動をする、そういうことが大切です。お客さんが緊張している場合には、お茶の場合はお客さんの気持ちを揉みほぐしてあげて、お互いリラックスをすると。あなたのためにこのお茶をおいしくたててお菓子も用意しました、あなたにこの一碗をささげますと言うから、お客さんもありがとうございましたと受け取ることができる。
 お茶はそういう意味ではなかなかいい道具だと思うんです。お茶を出してもらって「おれに茶を出すのは当然だ」なんていうふうに思ってるんじゃ話にならないけど、ふつうは出してもらったら「ありがとう」と自然に言えるんです。
 そのときには、お互いの気持ちが「無」になっていてお客さんのことを真剣に考えるということがあると思うんです。相手を、人を大切にする思いやりがなければならない、お茶にはやっぱり根本思想として、そういうものがあると家元は言っていました。
 「人間は平等である。どんな人にもいい部分がある。だからそのいい部分を見れば、先輩でも後輩でもその人を尊敬することができるでしょう、そこからやっぱり相手のことを考えるべきではないか」とおっしゃっていました。これはちょっとまた難しいかなと思うんですけど、お茶は禅につながっているというのは皆さんご存知だと思うんです。
 禅は悟りの世界ですよね。悟りっていろんな説明の仕方があると思うんですけれども、自分が世界すべてにつながっているという感覚だと思うんです。千宗室さんはこういうふうに言っていました。何かを発見したときに「あっ、そうだったのか」と瞬間的に驚くと、それまで独りだった自分がパッと瞬間的に広がっていくような感覚があるんじゃないだろうかと。
 相手のことを考えて自分の心を無にして自分の利益や都合にとらわれずに、不特定多数のお客さんのことを考えていくとどうなるかというと、相手の心と同化して無になるわけです。
 自分がすべての人間や社会全体とつながっているという、そういう境地にたどり着くんじゃないのかなと、自分自身の心の中を通してそういうふうなところまでいければ相手と通じ合うことができるし、コミュニケーションできるのかな、と。こう考えるんです。
 仕事とは何なのかを考えると、さっき言ったように相手があります。でも相手はまたその仕事を通して他の人につながっているわけです。その人はまた他の人に仕事を通してつながっている。つまり自分は仕事によって世界全体につながっていると言えると思うんです。仕事をすることによって、人間は世界全体に働きかけることができるかもしれないわけです。実際にそれをやっている人はいます。例えばビル・ゲイツみたいに。
 インターネットのホームページをつくれば一応理論的には世界中からアクセスできるわけですし、外から世界につながることもできるし、また自分自身の心をコントロールしたり、あるいは深く探求していくことによって、座禅を組むことによってと言ってもいいかも知れませんけど、そこからまた世界につながっていくことができるかもしれません。
 相手を考えるとはどういうことかというと、お茶の世界で「余情残心」という言葉があるんです。これは茶席が終わった後で、お客さんを見送った後で亭主が自分でお茶をたてて飲んで、「きょうはもうちょっとあそこをよくすればよかったな」とか、「もっとこういうふうにすることができたのに」というふうに考える。それは何なのかというと、お茶が終わった後でも、なおかつお客さんのことを考えているという亭主の態度なんです。
 お茶の席で追求しているものは、お客さんとの間で心の通い合いが一致する、そういう満足感です。
 どんなお茶席でもどこかにうまくいっていないところがある。じゃ次回はそこを直そう、そう考えて採点して90点だったな、次は何とか95点を目指そうと。じゃ満足感とは何かというと、自分が「無」になったら、相手が満足してもらって初めて点数が高くなるわけです。相手が満足して初めてこちらが満足するわけですから、そういうふうなところに深く考えると、自分自身の利己心を追求することにどれだけ意味があるんでしょうかね。実は利己心の追求には意味がないわけです。
 それで千宗室さんが言っていましたけれども、満点ということがないそうです。だからあの年になってもまだ満点はない。さらに先がある。それをなんとか続けて行きたい。それが「余情残心」という言葉だし、わびというものなんです。どんな人でも、相手の満足をどんどん追求していく飽くなき姿勢を持つべきだと思うんです。

おわりに

 僕はこういうふうに思っています。健全な心と価値観を持っている人は自分の能力や技量に応じて、仕事や、あるいはそれ以外の社会参加を通して他人の心に訴えかける努力をするべきだと思います。どうしてかというと、さっき言ったビル・ゲイツみたいに仕事やいろんな社会参加を通して、相手の心に訴えかけることができるのは、人間が持っている無限の可能性だと思うからです。
 すごいことだと思います。相手の心に訴えかけることで相手の心にプラスになったら、そこに価値が生み出されるわけです。それによって自分自身も満足できるわけなんです。無から有が生み出される瞬間ですよね。
 努力を続けることで、自分自身が人間的に成長することもできるわけです。それが人と人とのつながりの基本なのではないかと思うんです。こちらにいらっしゃっている方に、視覚障害者の方がいらっしゃいます。皆さんは「自分は他人に頼る立場だ」と思われるかもしれませんけど、僕はそうじゃないと思うんです。
 「自分は一方的に頼っているんだ」と思ってしまっては、逆に「やっぱり頼りたくない」という気持ちが働いて反発したり、あるいはそれが相手に負担感を感じさせることになると思うんです。そうじゃなくて、お互いにやっぱりもたれ合っているところってあるわけです。
 この本の中で病院のお医者さんの精神科医のケースがあるんですが、彼のところに、例えば2年間ずっと毎週通い続けているアルコール中毒の人がいて、彼は先生と会わないとまたアルコールにおぼれちゃう。だから先生を頼って精神的な杖にして生きているわけですけれど、先生のほうも、「いや、でも僕もやっぱり彼らがいないと、家族みたいなもんだから」という言い方をするんですよ。そういう患者さんが20人くらいいるらしいんです。前々回に和田秀樹さんがここにやって来て、同じことを言っていたと思うんです。精神障害者のキャンプにお医者さんが参加できなくなって、それが嫌だって泣いたお医者さんがいるという話をしたと思うんですけれども、お互いに先生も患者を頼りにしている部分がある。
 つまり「自分は頼っている」と思うのではなくて、自分も何かできることがあるわけです。それはいろんな形で、精神的な形でも。そういうふうにお互いの心で通じ合うことが貴重だと僕は思います。そのために必要なことは何か。最後にもう1回繰り返しますけれど、リラックスして相手によく注意を向けて自分を無にすることですね。
 そうすれば相手の行為を無理なく、素直に受け取ることができると思うし、相手を尊重してお互いが支え合えるのではないか。そういう自然な関係をつくることができると思うんです。これをもって「慮る力」のお話を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございます。(拍手)

第8回定期総会

 平成15年6月7日(土) 午前10時より午後4時半まで、財団法人 東京都高年齢者就労事業センター「シニアワーク東京」において、第8回定期総会を開催した。
 午前10時に開会し、進行は内山義美幹事が務めた。最初に下堂薗保会長から挨拶があり、つづいて事業報告に移り、相談事例を中心に工藤正一副会長、そして交流会(地域含む)について新井愛一郎幹事及び山本浩幹事、ML,HPについて吉泉豊晴幹事がそれぞれ報告した。
 引き続き、平成14年度の決算について伊吾田伸也幹事から報告がなされ、田中均会計監査から会計監査報告があり、承認された。
 さらに平成15年度の活動計画について松坂治男副会長から提案があり、森崎正毅会計担当幹事から平成15年度の予算案について説明がなされ、承認された。
 そして事務局から会則改正(事務局次長を新たに置く)の提案と、退任幹事は北神あきら氏、北村まゆみ氏、これに伴う役員交代は事務局次長に田中均会計監査が就任し、和泉森太幹事が会計監査の後任、新任幹事として嶋垣謹哉氏を推薦し、承認された。
 新役員紹介を会長が行い、新任の嶋垣氏、田中氏、和泉氏、また退任幹事の一人である北神あきら氏がそれぞれ挨拶をした。
 11時半から展示会出展品の概要説明を「やさしく名刺ファイリング」(メディアドライブ)、「デジタルルーペ」(ベスマックス)、「スピーチオ」(廣済堂)、「ドキュメントトーカモバイル」(富士通中部システムズ)、「プレクストーク」(プレクスター)がそれぞれ行い、午前の部を終了した。
 昼食休憩時に展示会の見学が行われた。機器展示品を絞り込んだこともあり、熱心な説明がなされ質問も活発に出されていた。
 午後は進行役を持田健史幹事に代わり、記念講演「慮る力」を講師の岡本呻也氏から1時間お話いただき、30分質疑を行い、たいへん有意義な時間を過ごすことが出来た。
 小憩後、全員の自己紹介を行い、交流会を無事終了し、ひきつづき懇親会に移り、進行役を大脇俊隆幹事と嶋垣謹哉新任幹事とで務め、 会場を1階のレストランにて、53名の参加があり懇親を深めた。

【平成14年度事業報告】

1.相談活動

(1)私たちを取り巻く情勢
a. 総務省が平成15年4月25日発表した平成14年度の完全失業率は5.4%で、前年度より0・2ポイント悪化し、年度として過去最悪となり、完全失業者数も360万人で過去最多でした。
 このような中で、平成15年6月5日、労働基準法が「改正」されましたが、改正案にあった「解雇自由」の原則を原案から削除させ、「解雇権の乱用禁止」を盛り込ませることができたのは、労働者の闘いの成果といえます。しかしながら、「若年定年制」の途を開く有期雇用期間延長や、タダ働き促進の裁量労働拡大への歯止めはかからず、私たちを取り巻く労働環境は益々厳しくなっています。
 一方、ここ3年間の障害者の解雇者数については、平成12年度2517人、平成13年度4017人(倒産、工場海外移転などが多かった)、平成14年度2962人と推移しています。
b. 視覚障害者の伝統的な職業であるあはき(あん摩・はり・きゅう)については、平成14年7月31日、晴眼はり・きゅう師の増加に歯止めをかけるための、「あはき法19条改正を求める請願」が参議院において採択されましたが、未だ具体的な法改正には至っていません。
 その一方で、平成12年度から多くの視覚障害者の反対にも拘わらず、晴眼者のあはき養成施設における定員増が認められるようになり、平成15年3月には当該卒業生が社会に巣立っており、今後毎年晴眼者の増加が予定されています。加えて、リフレクソロジーなどと称する無資格者が横行し、視覚障害者のあはきを巡る状況は益々厳しさを増しています。
 このような中で、厚生労働省が平成15年3月、「障害者雇用マニュアル:福祉施設における視覚障害者の雇用促進」を作成したことは、特別養護老人ホーム等における機能訓練指導員への職域拡大と雇用の促進へ繋がるものとして、関係者の期待を集めています。
c. 平成14年12月には、政府の今後10年間の障害者施策の方向を示す「新障害者基本計画」及びその前期5年間における重点施策である「重点施策実施5か年計画(新障害者プラン)」が策定され、平成15年三月には、厚生労働省の今後10年間の雇用対策の基本方針となる「障害者雇用対策基本方針」が策定されました。
 このような中で、国際的には障害者権利条約、国内的には障害者差別禁止法の制定の動きが活発化しています。
d. 最近の明るい話題としては、全盲青年男性が欠格条項見直しで初の医師国家試験に合格(平成15年4月)し、また、全盲の中途視覚障害者男性が国際IT資格・リナックス技術者認定試験に世界初の合格(平成15年3月)し、さらに、3人の全盲の教員がこの4月から新規に採用されるなどがありました。

(2)相談活動の概要
 この1年間に寄せられた相談は約80件を数えました。相談は、本人はもとより、家族や職場の同僚、医療関係者などからの相談もありました。
 相談経路では、事務局に電話や訪問という形で直接寄せられることが多く、その他、ホームページを見て電話やメールからというものも少なくありません。
 眼科医、医療ソーシャルワーカーなど医療関係者から紹介されて相談に結びつくケースが年々増えています。また、これまで地域交流会が行われたところの会員などとの繋がりや、新聞の記事を見てという相談もありました。
 このように、様々なルートで、様々な内容の相談が全国各地から寄せられていますが、半数は首都圏からのものとなっています。
 男女別では、男性が多く、年代別では、20代から60代まで幅広くありますが、やはり、40、50代の働き盛りからの相談が多くありました。疾患別では、網膜色素変性症が最も多く、視神経萎縮、糖尿病性網膜症、緑内障などとなっています。
 これらの相談に対しては、できるだけ交流会(忘年会を含む)などの際に個別に相談をするようにするとともに、緊急を要する場合には、随時、事務局において、個別に対応し、約10件の緊急相談会を行いました。また、京都における地域交流会では、復職・継続などの就労相談、障害年金相談、パソコンなどの相談、ロービジョン相談を開設し、就労関係については、日本ライトハウスの協力を得て、13件の個別相談を行うことができました。
 それぞれの相談の内容については、一言では片づけられるものではありませんが、視覚障害を理解してもらえなかったり、「見えないイコールできない」という誤解も少なくありません。まさしく人権侵害と思われるケースもいくつかありました。また、私たちの経験では復職が十分可能と思われる場合でも、医師の診断書の記載の仕方で、復職が認められないで困っているケースもありました。さらに、視覚障害のために、気分的にうつ状態になったり、本人だけではなく、家族に対するフォローが必要な場合もありました。

(3)復職及び継続等雇用の事例
 この1年を振り返ると、7人が復職や再就職・新規就職を果たしました。
 その内訳は、元の職場に復職5人、再雇用1人、新規就職1人となっています。男女別では、男6人、女1人です。年代別では、50代が2人、40代が2人、30代が2人、20代が1人です。疾患別では、網膜色素変性症3人、視神経萎縮3人、緑内障1人となっています。
 これら7件中3件が眼科医からの紹介によるものです。また、この中には、障害者職業総合センタ職業センターや地域障害者職業センターの職業講習を受けて復職に結びついたケースもあります。また、リハビリ期間中、会社との関係を維持するために、ハローワークに支援してもらったケースもあります。
 以下に、7事例を列挙します。
a. 男・52歳(宮崎):平成14年8月、高校教員、原職復帰。
b. 男・42歳(東京):平成14年9月、民間企業、事務職、原職復帰。
c. 男・33歳(島根):平成14年9月、民間企業、事務職、原職復帰。
d. 男・52歳(東京):平成14年10月、準公務員、事務職、原職復帰。
e. 男・32歳(東京):平成14年10月、ファーストフード、お客様相談、再雇用。
f. 男・49歳(熊本):平成15年4月、準公務員、専門職、原職復帰。
g. 女・26歳(東京):平成15年4月。民間企業、事務職、新規採用。

(4)今後の課題
a. 連携という観点からは、医療や福祉関係機関との連携を図り、ハローワークや地域障害者職業センターに相談しながら、事業主や労働組合に対して適切な情報を提供することが大切です。これまでの復職事例の中には、障害者職業総合センター職業センターの職業講習を経て復職を果たしたケースは少なくありませんでしたが、職業講習が廃止されたことにより、訓練施設の少ない視覚障害者にとって、宿泊しながら訓練のできる施設を失ったことは大きな痛手となっています。
b. 復職による継続雇用を実現するための政策的観点からは、リハビリテーションが権利として保障されることが必要です。そのための保証として、解雇禁止規定を設けるとともに、障害を理由とした分限免職規定を廃止することが必要です。そして、訓練期間中の身分と所得を保障するために、「リハビリ休職制度」の創設が望まれます。また、国立函館視力障害センターが試みているように、緊急性やニーズに合わせて、単科訓練を弾力的に実施する施設が拡大されることが望まれます。
c. 視覚障害のためやむなく退職し、あはきへ進学する観点からは、3年間という訓練期間中の所得保障として、訓練手当の支給が切実に求められています。
d. 相談の充実という観点からは、相談後のフォロー体制を整える必要があります。

(工藤正一副会長)

2.交流会

(1)2002年の連続交流会と今後の課題
 2002年度も、9月、10月、11月を連続交流会として開催した。
 9月は、人間関係をいかにスムーズにしていくかという、私たちにとって大きな課題について、マスコミ等でも話題になっている和田秀樹氏をお呼びして「甘えの成熟~大人の依存法」と題した講演会を開催した。
 私たちの抱える人間関係の問題を、障害者と晴眼者という関係でとらえるのではなく、もう少し広い視点から考えていくよい機会となったのではないだろうか。
 このように、交流会を活用して、違った角度から物事を見つめたり、新しい問題意識についてみんなで考えたりということを意識的にやってみることを今後も継続していきたい。「こんな人を呼んでみたい」という提案をお寄せください。大歓迎です。
 10月の交流会は、「こんな仕事をしています!第3弾」と題して開催した。これまで私たちの一貫した問題意識である「どんな仕事を、どのようにしているか」ということをテーマにしていきながらも、これまでなかなか取り上げられなかった現業職の状況、三療の状況について取り上げた。また、今回は「視力低下の中で、これからどのようにしていくのか」という問題意識についても率直に語っていただいた。事故さえ起こす可能性のある現場の中でどのように働き続けるのかという厳しい問題提起もあった。私たちとしては、このような問題を抱える仲間の声をしっかりと受け止めていきたいし、企業や社会全体に伝えていく作業が不可欠ではないだろうか。また、治療院を開業している事例報告は、盲学校入学から開業までのプロセスを語っていただき、多くの方にとって具体的な参考になった。また、積極的に三療の仕事に立ち向かっている事例報告は、私たちにとって大変勇気づけられるものとなったのではないだろうか。
 働く事例の交流は、なんといっても一番大切なものです。そのような意味で、「こんな仕事をしています」シリーズは、これからも継続していきたい。また、仕事に共通する具体的な作業について、「みんなはどうやっているのか」という情報交換の交流会なども考えたい。
(新井愛一郎幹事)

(2)地域フォーラム2002in京都
 今年度の地域フォーラムは、はじめて関西の地で開催することになりました。
 テーマは、関西弁風に「見えにくうなって きたんだけどな・・・」〜見えなくては働けないの?〜いいえ、見えなくても働けます。多くの人が実際に仕事をしています。知ってたら、辞めんでよかったのに・ ・・
 実行委員会のメンバーは、関西在住の幹事をはじめ、京都ロービションケア情報交換会(眼科医、視能訓練士、ボランティア各1名)、いちりんの会(2名)、京都福祉情報ネットワーク(1名)及び京都ライトハウス(1名)からのメンバーで、実行委員会を組織してタートルの会本部と連携を図って地域フォーラムを開催した。
 基調講演では、地元立命館大学の中村正教授に「 みんな一緒に働こうや」のテーマでお話していただきました。
 環境のバリア、移動のバリアの話の中から、就労につなげることの出来るヒントを話されました。「1本の木を見て森を見る」そんな中から、我々当事者も自らのバリアを取り除いていけば、就労の環境も変えていくことができる可能性が見えたような気がします。また、見えない、見えにくいことという世界を生かして社会に還元していくことで、社会が改善されることにつながり、視覚障害者の職場環境も変わることにつながるように感じられる講演の内容でした。
 中村先生の講演の後、モデルオフィスの実演として、京都福祉情報ネットワーク代表の園順一氏から、拡大読書器、音声パソコン、携帯電話等の実演をしていただきました。
 午後は、本会工藤副会長から、「 復職・再就職の実状と取り組み」として、さまざまな事例をお話いただきました。
 復職体験発表として、近江 辰夫氏 (弱視・マックスバリュ西日本(株)本社人事部勤務)にお話いただきました。日本ライトハウスに生活訓練に入られ、退所後のことを訓練と並行して会社側と相談しつつ、復帰後は、ほかの社員に負けない仕事ぶりを聞かされ、我々当事者に非常に参考となる体験談でありました。
 交流会では、120名を超える参加者全員から、自己紹介をしていただきました。
 別室の3つの会議室では、同時進行で、個別相談((a)復職・継続などの就労相談 (b)障害年金相談 (c)パソコンなど視覚補償機器相談 (d)高倍率ルーペ・弱視眼鏡・遮光眼鏡などロービジョン相談)を開設しました。
 各コーナーの事前の申込者が多く、盛況でした。
 本部と実行員会の温度差があり、パイプ役として役目を果たし得なかったことは、深く反省させられることでした。
 本部の基本路線と地域の権限との領域の明確化が今後必要ではないかと思いました。
 過去の地域フォーラムの仙台、広島及び新潟を実行されたかたがたもご苦労されたことをお察し申し上げます。

 今後は、
 (a)募集時期を設定(1〜3月)
 3月に交流会地域を発表
 (b)6ヶ月前までに会場のめぼしをつける
 (c)7月中にポスター、チラシ完成
 (d)8月に広報開始
 (e)10月の交流会で参加締め切り

 基本路線と地域の権限、領域、つなぎめ(取り合わせ)の協議を、本部と地域とが事前、進行中に確認する機会を持つべきである。
 メールでは伝わらないことがあって誤解をまねくことも予測される。

(山本浩幹事)

3.ML及びHP

(1)会活動におけるインターネットの活用について
a. メーリングリストについて
(a)基本的事項

(b)MLの書き込みの内容等
 この1年間は、これまでと同様に視覚障害にまつわる各種情報交換・意見交換が活発に行われたほか、会活動の在り方に関する批判や意見がいろいろと寄せられたことが一つの特徴でした。タートルの会に対する考え方、関わり方、意見等が多様であることがMLでも率直に反映されていたといえます。

b. ホームページについて
(a)基本的事項

(b)ホームページの内容について
 ホームページの構成や内容については特に変更を加えることなく従来の路線に従って、会の各種行事案内や会報掲載を中心に少しずつ書き加えていきました。
 ホームページに解りやすい会活動の趣旨・目的や入会案内を載せるなどによって会をより広く知ってもらえるよう工夫すべきことが指摘されていますが、思うように内容充実ができていないのが現状です。

平成15年度活動方針(案)

(1)相談活動の充実
 随時及び幹事会、交流会の開催日
 初期相談を中心に進めていきます.
 相談員の情報公開として、各人のプロフィールを一覧表にまとめます。

(2)連続交流会の実施
 1.地方交流会in函館 9月27日(土)、28日(日)
 2.第4弾「こんな仕事をしています」 事例発表 10月18日(土)
 3.テーマ未定 11月15日(土)
 9月の地方交流会は函館で行います.各地の会員の要望とタートルの会の活動を広く知ってもらうと共に、各地の視覚障害者団体との親睦及び交流をするために実施します.
 10月の交流会は、第4弾「こんな仕事をしています」事例発表を行います.数名の働く仲間の職場の現状と問題点などを発表してもらい、意見や情報の交換等を行います.

(3)交流会の充実(講演内容と相互交流)
 1.講演&忘年会 12月13日(土)
 2.歩行について 1月17日(土)
 3.テーマ未定 3月21日(土)

(4)復職・定着支援活動の充実
 定着支援については、仕事を続けて行く上での人間関係、補助機器等のアドバイスを行います.
 復職をするための情報提供や会社との交渉に関するアドバイス等を行います.
 パソコンや補助機器をどのように活用して仕事をしているか、デモ及び情報交換する交流会を規格します。

(5)メーリングリストやホームページの充実
 メーリングリストについては、全国の仲間のコミニケーションの一つとして、近況報告、質問、趣味そして各地の話題等が話し合われています。さらに皆が気軽に参加できるような仕組みを考えていきます.
 ホームページについては、視覚障害者に関する情報の蓄積をします。
 「こんな職場で働いています」のデータの更新を行います。

(6)パソコンボランティア活動の充実と連携の強化
 ビジネスで使えるアプリケーションの情報収集と提供を行います。
 全国のパソボラ団体の紹介及び情報提供を行います。

(7)機関紙「タートル」の発行
 5月、8月、12月、2月の各号を発行予定
 会員以外への送付先について、見直し及び整理を行います。

(8)本の発刊
 仮称題名 「私は働く! 働けます!」
 A5判 横書き 300頁
 発刊予定:平成15年10月

 (構成)
 第1部 視覚障害者とは
 第2部 中途失明から職場復帰まで
 第3部 わたしも働きたい
 第4部 視覚障害者を雇用して
 第5部 体験集
 (資料編)

(9)ニーズの調査
 会員各位が、タートルの会に求めている事項を把握して、次年度以降の活動に反映させるためのアンケート調査を実施します。

(10)創立10周年記念の準備
 来年の10周年記念イベントの企画及び準備を行います。

【平成15年度役員】

中途視覚障害者の復職を考える会会則(改正案)

(目的)
第1条 本会は、視覚障害を持つ労働者が安心して働き続けられるように、お互いに交流し、広く情報を交換し、励まし合っていくことを目的とする。
 特に、中途で視覚障害となった者が、継続雇用、再雇用または再就職を希望している場合、その者に対し、可能な限りの情報提供、励まし等の支援活動を行う。

(名称及び所在地)
第2条 本会の名称及び所在地は下記のとおりとする。
1.名称 中途視覚障害者の復職を考える会(通称=タートルの会)
2.所在地 社会福祉法人日本盲人職能開発センター
      「東京ワークショップ」内
 〒160-0003 東京都新宿区本塩町 10-3
 TEL.03-3351-3208 Fax.03-3351-3189

(会員)
第3条 本会の目的に賛同する者は、役員会の承認をもって会員となることができる。

(活動)
第4条 本会は、会の目的に沿って次の活動を行う。
 (a)交流会 定例交流会を2カ月に1回程度開催
 (b)相談会 初期相談を中心に実施(随時)
 (c)機関紙「タートル」の発行 (年4回程度)
 (d)ホームページとメーリングリストの運営管理
 (e)調査・研究
 (f)その他

(組織及び役員)
第5条 本会には次の組織及び役員を置く。
1.組織
 (a)総会(年1回)
 (b)役員会(随時)
2.役員
(a)会長 1名
(b)副会長 2名置くことができる
 (c)事務局長 1名
 (d)事務局次長 1名置くことができる
 (e)幹事 若干名
 (f)会計 1名
 (g)会計監査 1名

(役員の任期と選出)
第6条 役員の任期は1年とし、再任を妨げない。
役員は総会において選出する

(会費)
第7条 会費は年会費とし、年額5千円とする。ただし、入会時については、入会金として5千円を徴し、これを入会年度の会費に充当する。
 会費に不足を来した場合は、会費を臨時に徴収することがある。

(会計年度)
第8条 本会の1会計年度は、4月1日より翌年3月31日までとする。

(会則の改廃)
第9条 会則の改正または廃止は、総会出席者の3分の2以上の賛成を得て行う。

(附則) 本会則は、本会の正式発足の1995年6月3日から適用する。
(附則) この一部改正(役員・事務局長)は、2000年6月10日より適用する。
(附則) この一部改正(会員、活動、組織、役員・副会長)は、2001年6月9日から適用する。
(附則) この一部改正(役員・事務局次長)は、2003年6月8日から適用する。

平成14年度・収支決算報告書

(自:平成14年4月1日 至:平成15年3月31日)

<一般会計>
○収入の部       (単位:円)
科目 金額 摘要
前年度繰越金 1,854,216
一般会費 1,055,000 211人分
寄付 50,000
手記集売上 67,790 発送費返金を含む。
生活便利帳売上 17,675
支援ハガキ収入 20,600
雑収入 12,361 銀行利息・幹事会懇親会残金等
合計 3,077,642

○支出の部
科目 金額 摘要
講演者謝金 67,140 総会、交流会、忘年・講演会
交流会録作成費 120,720 ワークアイ船橋へ委託(6回分)
機関誌発行費 312,088 印刷費・編集費
通信費 95,587 切手代・第3種郵便・支援関連物送料等
総会運営費 29,065 会場借用料・遠方幹事交通費
地域交流会運営費 86,245 会場借用料・昼食代補助等
相談活動費 25,800 相談に関する交通費
備品消耗品費 54,925 封筒・点字用紙・タックシール・印刷用紙等
メーリングリスト運営維持費 10,290 さくらインターネット・幹事用ML
ホームページ運営維持費 37,590 2002年4月〜2003年3月分
修繕費 278,145 点字プリンター修理
生活便利帳購入費 12,720
諸雑費 1,100 振込用紙1,000枚
(小計) 1,131,415
次年度繰越金 1,946,227
合計 3,077,642

(備考)
 以下、平成15年3月31日現在の額。
資産残高 \1,946,227
郵便貯金残高 \1,884,418
銀行預金残高 \46,539
事務局所持金 \15,270

平成15年4月28日
以上の通り、報告いたします。

会計担当: 森崎 正毅
伊吾田 伸也

[平成14年度 会計監査報告]
会計監査の結果、相違ないことを認めます。

監査: 田中 均

平成15年度・予算(案)
(自:平成15年4月1日 至:平成16年3月31日)
○収入の部
科目 金額 摘要
前年度繰越金 1,946,227
一般会費 1,200,000 240人納入予定
寄付 50,000
雑収入 15,000 銀行利息等
合計 3,211,227

○支出の部
科目 金額 摘要
講演者謝金 70,000 交流会、総会、忘年・講演会
交流会録作成費 120,000 テープ起こし(ワークアイ船橋へ委託)
機関誌発行費 400,000 会報など印刷・発送代行代
通信費 100,000 会報など郵送代金
資料印刷発行費 1,500,000 パンフレット増刷、書籍出版 (*1)
総会運営費 80,000 会場借用料・旅費補助・ボランティア交通費等
地域交流会運営費 150,000 会場借用料・ボランティア交通費等
パソコンサポート関連費 30,000 ソフト代等
相談活動費 80,000 相談に関する活動費等
会議費 80,000 お茶代・ロービジョン学会会費等
メーリングリスト運営維持費 15,000 さくらインターネット・幹事用ML
ホームページ運営維持費 40,000 2003年4月〜2004年3月分
備品消耗品費 200,000 封筒・タックシール・点字プリンター一部負担等
ニーズ調査費 80,000 会員に対するニーズ把握のための調査の実施
ボランティア保険保険料 10,000 ボランティア活動に対する保険への保険料
創立10周年記念行事準備費 200,000 平成16年度実施予定の記念行事の準備
予備費 56,227
合計 3,211,227

(注) *1: 書籍出版については、印刷費用を本年度計上し、売上収入は次年度以降の計上を予定。


お知らせ

●連続交流会I
 2003年10月18日(土)14:00〜16:30
 講演:「元気を出してよい人間関係をもとう」
 講師:青木匡光(アオキマサミツ)氏
 「メディエーター<人間接着業>青木」として著名
 場所:日本盲人職能開発センター

●連続交流会II
 2003年11月15日(土)14:00〜16:30
 「こんな仕事をしています!第4弾」
 情報提供者(未定)

●忘年会
 2003年12月20日(土)14:30〜17:30
 東京YWCA朗読ボランティアとの合同コンパ
 場所:お茶の水YWCA会館


編集後記

 機関紙「タートル」のテープ版は東京YWCA朗読ボランティアのご協力で軌道にのってきました。お知らせにも記したように、忘年会を一緒にしませんかという誘いを受けました。なお、その合同コンパにはYOMIURI-PCテープ版(YWCAが製作)のリスナーにも声を掛けているそうです。いずれも吉泉幹事が世話人として関わっているものです。
 また、10月の交流会は人間接着業と自称する青木匡光氏にお願いしています。NHKの番組「心の時代」を聞いて感銘を受けたという工藤副会長の発案です。出版された本はほとんど品切れになっています。人間関係を中心に「感性を磨き香りを放つ人柄」の啓発をと出版や講演に忙しい方です。
 会員の皆さんのなかで、11月の交流会の情報提供者「こんな仕事をしています」に名乗りを上げるか、またはどなたかを推薦していただけませんか。
(事務局長:篠島永一)

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル29』
2003年8月17日発行 SSKU 増刊 通巻第1197号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
     社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
     電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
     郵便振替口座:00130-7-671967
■turtle.mail@anet.ne.jp (タートルの会連絡用E-mail)
■URL=http://www.turtle.gr.jp/


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